旅行ビジネスの扉が個人にも開かれる

しかし、ブレチャージク氏が考えるAirbnbのビジョンは、ホテルなど既存の宿泊施設に置き換わる存在になることではない。同氏はそれを「旅行の民主化」「地域体験の創出」という2つのキーワードで説明している。

「民主化」というキーワードは、テクノロジーのイノベーションによく使われる言葉で、これまで企業が商品・サービスの企画・提供を主導してきたマーケットに個人が参加できるようになる場合に、「市場が民主化する」といわれる。企業がコントロールしてきた市場に、本来は利用者である個人が参加することで、そこに自由と多様性が生まれるのだ。出版社が主導してきた出版事業に、電子書籍の発行・販売という形で個人が市場参入できるようになったり、放送会社が主導してきた放送事業に対して、個人が自由にコンテンツを制作して配信して広告収入を得るYouTuberが登場したりした例が解りやすい。

ブレチャージク氏は、Airbnbのコンセプトについて、「最もエキサイティングなのは、以前まで企業にしかできなかった観光産業のエコシステムに一般の人が参加できること。“旅行の民主化”だ」と語る。つまり、観光産業に一般個人によるホームシェアリングが参入することによって市場に多様性が生まれ、旅行者にとっては選択肢が増加し、また住宅を提供するホストにとっては、自身の資産を活かした新たな収益機会の創出に繋がるのだ。「Airbnbによる“旅行の民主化”が進めば、宿泊以外の旅行ビジネスにも個人が参加できるチャンスが生まれるのではないか」(ブレチャージク氏)。

民泊の価値は地域体験にあり

では、Airbnbによる“旅行の民主化”は、旅行客やホストにどのような価値をもたらすのか。ブレチャージク氏は、「Airbnbが重視しているのは、(宿泊した)現地での体験。地域の良さをどのように地元の人たちと共有できるのか。そしてそれを、システムがどのようにサポートできるかを常に考えている。それは、田舎の小さい町でも、大都市でも変わらない。現地の人と触れ合いローカルなカルチャーを体験できることが、Airbnbの最も大きな価値だ」と語る。

利用者が現地のカルチャーを体験できるところがAirbnbの魅力と語るブレチャージク氏

Airbnbの利用者が宿泊するのは、街中にある宿泊施設ではなく住宅街の中にある一般個人の住居だ。地域に密着した宿泊環境を利用することを通じて、従来の旅行では見ることができない地域の表情に触れ、地元の人と交流することで従来の旅行ではできない体験が生まれると考えているのだ。この発想は、観光によって地域振興を目指したい地域や、過疎化が進む地域への流入人口を増やしたい地域にとっては、追い風となる考え方ではないだろうか。

シェアリングエコノミーを地域振興に活用した例では、個人が自家用車に利用客を乗せて旅客サービスを提供するUberが、富山県南砺市と協定を締結し、公共交通に課題を抱える地域においてボランティア市民ドライバーの自家用車を利用したシェアリング交通の実証実験を開始したケースがある。同じように、地域の観光振興を目的としてAirbnbの活用を積極的に推進していく自治体が登場する可能性も、今後は十分に考えられるのだ。

「Airbnbによって、小さな村、今までホテルが存在していなかった場所にもアクセスできるようになった。そこで地元の人と交流し、もてなしを受けることによって新しい経験が生まれる。日本国内の市場も今後更に成長するのではないか」(ブレチャージク氏)。