裏紙はエコなキャンバス

――クリエイティブな仕事には斬新なアイデアが不可欠です。津久井さんは普段、どのようにしてアイデアを生み出しているのですか?

いいアイデアは「ジャンプシンキング」からもたらされるそうです。前回のマインドマップが発想の連鎖を促す「チェーンシンキング」だとすると、ちょうど反対の概念になります。

一見何の脈絡もないような発想や、直感的なひらめき。そうしたものを取りこぼすことなく、できるだけ拾い集める習慣が斬新なアイデアを生み出すのではないかと思います。そこで私は日ごろから裏紙ノートを利用しています。

――裏紙ノートとはどんなものですか?

書いて字のごとく、プリント用紙の裏を再利用したノートです。私は独立する前もデザインや印刷関連会社に勤めていたので、毎日大量に出るプリントの裏紙を使わなければもったいないと感じていました。当時はデザインの指示に使う専用フォーマットには必要最低限のことだけを書き、そのほかの細かい指定やイメージの伝達には裏紙を使っていました。現在もデザイナーへの指示は裏紙ノートに書くことが多いです。

プリントの裏を再利用した裏紙ノート

――本当にA4サイズの紙をクリップでとめただけの手軽なツールですね。使い勝手はいかがですか?

メモ用紙として十分に機能しますし、なによりお金がかかりません。いつもカバンに入っているので、喫茶店で仕事をするときに使ったり、移動中の電車の中で書いたりします。もともと捨てるはずだった紙なので、多少ぞんざいに扱っても気になりません。セミナーに参加するときも持参しますが、レジュメが配布されるセミナーの場合は、レジュメの裏面を利用するようにしています。関連する情報はできるだけまとめたほうがいいと考えるからです。

セミナーで聞いた話をメモするときは、なるべくイラストや相関図を入れるようにしています。直接パソコンに文章を入力したほうが効率的かもしれませんが、私の場合は手を使ったり図解化したりするほうが頭に入りやすいようです。

――裏紙ノートは「気負わずになんでも書ける」ことが最大のメリットでしょうか?

クリエイティブな職業についている人に限らず、のびのびと自由な発想を広げられる場を設けることは大事だと思います。そこに書いたアイデアが実際に使えるかどうかはさておき、白紙に向かって手を動かすことが大切なのです。

私は学生時代から罫線の入ったノートが苦手で、数学のノートにも罫線なしのタイプを使っていました。今でも原価計算や見積などを裏紙ノートに書いています。社会人になると、白紙に向かって何かを書くという機会は少なくなると思うので、煮詰まったときなどは一度試してみてはどうでしょうか。

手書きを経てパソコンへ

――津久井さんは「手書き」をとても大事にしているのですね

私はパソコンで文章を書くときも、一度手書きで自分の考えをまとめるようにしています。

以前は最初からパソコンで書いたほうが便利だと思っていたのですが、どうしても文章がまとまらず、悩んだことがありました。そんなときあるセミナーで「パソコンの画面を見るのと、ノートや紙を見るのとでは脳の働きが違う」という話を聞き、一度手書きで構成図を書いてからパソコンを使うという順番に変えてみました。すると見事に文章がまとまり、自分には手書きが向いていることを痛感しました。

私は毎週メールマガジンを発行しているのですが、そのときも手書きで構成図を考えてから書き起こします。

――ちなみにどのような図を書いているのですか?

いくつかパターンがあるのですが、そのうちの一つをご紹介したいと思います。

文章構成図の例

これは六つの四角がツリー状になった図ですが、最初の四角は「問題提起」です。例えば「○○についてお困りではありませんか?」など、あるトピックを提起するのです。その下の四角は「解決策」です。「○○の解消にはこの商品が最適です」のように、具体的な解決策をあげます。

しかし一方的に解決策を述べても人を納得させることはできないので、「この商品がよい理由」を三つ用意し、その根拠とします。横に並んだ三つの四角の部分です。

そして最後に「この商品は△△ショップで購入できます」と、入手する方法を示して結論とします。

こうした枠組みを考えた上で文章を書き始めると、ロジックがしっかりします。無駄な要素や回り道もないので、読み手にわかりやすく自分のメッセージを伝えることができるのです。

いきなり文章を書くと視野が狭くなりがちなので、その前に手書きで図解してみるといいのではないでしょうか。

――裏紙ノートを使う際のポイントがあれば教えてください

せっかくの白紙なのですから、間違いや制約を気にせず自由に書き殴ってほしいと思います(笑) そしてできることなら図やイラストを多用し、図式化することをおすすめします。もし絵が苦手であれば、単語を丸で囲んだり、矢印を引いたりするだけでもいいでしょう。上から下へという動きに固定された文章とは違い、図は上下左右とさまざまな視点が生まれます。ちょっとした走り書きが大きなプロジェクトに化ける可能性もあるので、制約を設けずに手書きする習慣を持つことが大事だと思います。

(撮影 : 中村浩二)



次回は「アイデア帳にビジネスモデルを書き留める」についてうかがいます。

INTERVIEWER PROFILE : 早川洋平 / KIQTAS(キクタス)
2008年に始めた著者インタビューポッドキャスト「人生を変える 一冊」をきっかけに起業。
現在は、企業や教育機関、公共機関などにポッドキャストを中核としたサービスを提供している。インタビュアーとしても精力的に活動、渡邉美樹さん、堀江貴文さん、石田衣良さん、寺島実郎さんらこれまでにインタビューした人物は1,000人を超える。
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