――小室さんがプレゼン資料を作成する具体的な手順を教えていただけますか

プレゼン資料の作成に取りかかる前に、まず顧客にヒアリングを行います。相手の課題を見極め、適切に提案するためにできるだけ詳細な情報を収集するのです。

ヒアリング時は、相手の話をノートにメモしながら聞きます。いきなりホワイトボードを使って「今のお話はこういうことですよね」と分析すると相手も構えてしまうので、最初は特に自然体で接するように心がけています。

――コンサルタントの方はヒアリングの際によく手書きメモをとるようですね

コンサルタントは顧客と信頼関係を結ぶことが大切なので、相手が話しやすい状況をつくることにも注力します。それに私が手を動かさなくなると、相手は「もうそろそろ次の話題に移ったほうがいいな」と理解してくれるので、話の腰を折らずに話題を転換することもできます。

またヒアリングのチャンスは意外と少ないので、事前に「ヒアリングシート」をつくって質問事項をまとめておくことをおすすめします。特に決まったフォーマットはないのですが、質問を箇条書きにするよりは、簡単な図を描いておくとよいでしょう。

―なぜ図を描くほうがよいのでしょうか?

箇条書きした質問を順番に聞いてしまうと、自然な会話ができないからです。しかも相手によっては詰問されているように感じ、気分を害する可能性もあります。その点図は話題があちこちに飛んでも対応しやすく、会話の流れに応じた質問をすることができるのです。

――ヒアリングを終えたら、いよいよスライドづくりですね

いいえ、実はスライドづくりの前に「課題解決シート」「起承転結シート」さらに「3分原稿をつくる」という三つの段階があります。一見とても手間がかかるようですが、骨子が固まっていないままでスライドをつくるほうが危険なのです。なぜなら人間には「丁寧につくったものは捨てたくない」という欲求があるので、たとえ顧客の要望とずれたスライドであっても、捨てるのが惜しくなってしまいます。だから何度でも書いたり消したりできる紙の段階でプレゼン内容を練り上げ、最後にスライドをつくるという手順を選んだほうがいいのです。

――なるほど。では「課題解決シート」にはどんなことを書くのでしょうか?

「課題解決シート」は、プレゼンの根幹となるものです。左の○には顧客が抱える課題を、中心の⇒には自分が提案できる解決策を、そして右の○には課題が解決された未来を書きます。

ここで注意すべきは、課題と未来がしっかり対応しているかどうかです。きちんと相手の課題を解決できる道筋が立っているか確認しましょう。

――次は「起承転結シート」ですが、「課題解決シート」からどうつなげればよいのでしょうか?

「課題解決シート」の「課題」は「起」、「解決策」は「承」、「未来」は「結」にあてはまるので、それぞれを簡単に文章化して転記してください。

そして残る「転」には、追加説明をするための事例を書きます。例えばここに費用対効果や競合他社の情報を盛り込み、相手が迷いを感じたり疑問に思ったりしていることを解消すれば、自分が提案する解決策をより魅力的に演出することができます。

先ほどの「課題解決シート」ではプレゼンの基本的な骨組みを考えましたが、「起承転結シート」はその上にメリハリのきいたストーリーを加えるものです。

――3分原稿とはどんなものですか?

「起承転結シート」に書いた文章をもとにしてつくる、3分程度で話せる長さの原稿です(約600字)。これはまだ本番用の原稿ではありませんが、「ですます調」でそのままスピーチとして使えるように書くことが大切です。これもスライドをつくる前に、自分が提案する内容を固めておくためです。

なぜここまで念入りなのかというと、まだ自分もしっかり納得できていない内容の資料を作り始めると、スライドづくりと自分を納得させる作業を一緒にしてしまうことになり、冒頭のデータばかりが増えて前置きの長いプレゼントなり、根幹である「相手の課題を解決する提案」のボリュームが少なくなったり、そこにたどり着く前に相手を飽きさせてしまうからです。また3分原稿を声に出して読むことでつじつまが合わない部分を発見したり、他人に聞かせることでよりわかりやすい表現に変えたりすることができます。それからいよいよスライドづくりに入ります。

――スライドも「起承転結」に沿って作成するわけですが、中でも一番大切なスライドはどれでしょうか?

提案内容そのものである「承」のスライドです。しかしながら「起」で全体の6割を使ってしまう人も多く見受けられます。

本来ならば前振りの「起」は2~3割、一番大切な「承」が5割、そして「転」が1~2割で「結」が1割というバランスがベストです。

相手が見たいのはあくまでも「提案内容」なのですから、それを中心にスライドをつくるべきだと思います。

そしてスライドは「1タイトルに1メッセージ」が原則。1枚のスライドにあまり多くの情報を詰め込みすぎると、聞き手の理解の妨げになります。

「起」……相手の課題が生じる背景の分析や説明
「承」……自分が提案する解決策の全体像を図解する(一番重要な部分)
「転」……費用対効果のデータ、見積もりや今後のスケジュール等
「結」……課題が解決された明るい未来のイメージを提示

上記の指針に従って必要なスライドをつくっていけば、相手が求める解決策をわかりやすく説明でき、採用される可能性も高まると思います。

「プレゼンは自分のためではなく、相手のためのもの」。そんなことは当然だと思うかもしれませんが、知らず知らずのうちに自分本位のプレゼンになっていることも少なくありません。それを防ぐにはスライドをつくる前に、相手の課題を解決するための論旨をしっかりと固めておくこと。失敗のないプレゼンをするためには、「ヒアリング」「課題解決シート」「起承転結シート」「3分間原稿」といった土台のメモが大切です。



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INTERVIEWER PROFILE : 早川洋平 / KIQTAS(キクタス)
2008年に始めた著者インタビューポッドキャスト「人生を変える 一冊」をきっかけに起業。
現在は、企業や教育機関、公共機関などにポッドキャストを中核としたサービスを提供している。インタビュアーとしても精力的に活動、渡邉美樹さん、堀江貴文さん、石田衣良さん、寺島実郎さんらこれまでにインタビューした人物は1,000人を超える。
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