ワコム主催のイベント「デジタルイラストフェスタ Wacom Live 2010」にて行われた公開座談会「アニメーターへの道」では、制作現場で活躍するアニメーター達が、制作ツールについて、また現在の業界についての考えなどを語った。

登壇者はアニメーターのりょーちも氏、沓名健一氏、山下清吾氏、まじろ氏の4名。商業アニメ作品としては珍しく「Adobe Flash」を取り入れて制作されたTVシリーズ『鉄腕バーディー DECODE』を始め、躍動感ある動画作りで注目されており、ファンも多い。

4人のアニメーターたちが、制作環境などを語った

Flashは、動画・音楽やインタラクティブ性を盛り込んだWebサイト制作ツールとして使われることが多いが、もともとレイヤーとタイムラインを持つベクターグラフィックスのアニメーションソフトという性格がある。個人制作のアニメ作品では、よく利用されており、人気コンテンツも多い。今年劇場版3作目が公開された『秘密結社 鷹の爪』シリーズも全編Flashで制作されている。しかし、こうした作品が主にパーツをレイアウトして移動させるトゥイーンで動かされているのに対し、りょーちも氏らの作り方は基本的に1コマずつ絵を描いて動画にする形をとっており、アプローチは全く異なる。

公開座談会中に、りょーちも氏はFlashを使ってコインが回転する数フレームの動画をライブで描き上げた。沓名氏はFlashの利点について、現在アニメの制作現場で主流となっているソフトよりも、感覚的にモーションを描き出すのに適したツールであると述べた。しかし、以前と比較してFlashが高価になったこともあって、今の制作現場にはなかなか受け入れられないという。

現在のアニメ制作現場の問題点を問われると、りょーちも氏は「(アニメは)お客さんに商品を買ってもらう仕事というのは間違いないが、何を売っているのかという所が抜けちゃうとまずい。お客さんが喜ぶモノばかり並べても、逆にお客さんをバカにしている作りになる」、「上が決めたルールが唯一の正解ではなく、それより面白いパターンがあればもっと取り入れて作品を作っていけばいい。多様性をどれくらい受容できるかにかかってくる」など、ツールだけでなく作品作りそのものについても、新しい方向性を求めなければならないという部分を強調していた。

また、アニメーターになりたいという来場者からの質問に対し、まじろ氏は高校2年の時にアニメスタジオへデッサンを持ち込み、作画の研修を始めるようになった経験から「突っこんでみることが大事だと思いますよ」とアドバイスした。「思いのある人はインターネットに上げておいてもらえたら、多分目に留まる」(沓名氏)、「僕らが見つけます」(山下氏)などの意見もあり、まずは作品を出してアピールしていくことが重要なようだ。

りょーちも氏らは、セッション終了後も会場で来場者からの質問にFlashの実演を交えながら対応。登壇者や来場者の、アニメ制作に対する思いが感じられるセッションとなった。

座談会では液晶ペンタブレットに関するコメントも。アニメの現場では、美術(背景画)はほぼ全てペンタブレットを使って作業されているとのこと