韓国冷麺には、咸興式と平壌式の2種類が

今回最後の料理は冷麺。日本では夏の風物詩だが、韓国では日常の気軽な食事として食べられている。昔はオンドル(床暖房)で暑くなった部屋の中で食べるという冬の食べ物だったが、いまでは夏の暑さをしのぐため夏場に人気が高いのだそう。

冷麺はジャガイモや緑豆のデンプン、そば粉などを主原料にしており、弾力が強いのが特徴。その上で、咸興(ハムン)式と平壌(ピョンヤン)式の2タイプに大別される。前者の麺はデンプン質がつよく、噛み切れないほどの弾力がある。一方平壌式は、そば粉を主体にしていることが多く、弾力はあるものの咸興式と比べると弱めで噛み切れる程度。

日本では咸興式が主流。咸興出身者が日本人向けにアレンジして開発したものが出回り、その後日本独自の発展形「盛岡冷麺」も人気を集めている。冷麺の麺は、専用の製麺機を使った押し出し方式でつくられている。デンプンでつないだ麺をスムーズにつなげるための仕組みで、押し出した下には熱湯の釜があって、細い麺が絡まないうちにそのまま茹で上げる。余談だが、この機械は10年ほど前に日本のそば店でも導入するところが出てきて、つながりにくいといわれる十割そばを簡単に打てる機械として重宝されている。

極細で喉越しの良い麺の虜に

「五壮洞咸興冷麺(オジャンドンハムンネンミョン)」

まずは咸興式冷麺の名店「五壮洞咸興冷麺(オジャンドンハムンネンミョン)」(住所: 中区五壮洞90‐10)へ。この店は1955年創業。"冷麺横丁"と呼ばれるほど、冷麺専門店が集まった通りに立地している。その中でも同店は、休日のお昼で周囲にはまったく人影がないのにほぼ満席状態という人気ぶり。店頭に日本語表記はないものの、店内には日本語メニューもあるので日本人観光客も安心して来店できる。

メインの冷麺は3種類で、日本語では「とても辛い」「辛い」「ふつう」の3種類で表記されている。「とても辛い」は「フェ冷麺」で、エイの刺身が入った激辛和え麺。「辛い」はいわゆる「ビビン冷麺」と呼ばれるもので、汁がなくやや辛めの和え麺。咸興式では、特にこの「ビビン冷麺」がおいしいとも言われている。

「ビビン冷麺」

「ムル冷麺」

「ふつう」が「ムル冷麺」で、日本で通常「冷麺」といわれている冷たいスープと麺を組み合わせタイプ。上の写真は「ムル冷麺」と「ビビン冷麺」(各7,000w)で、提供されるや否や店員がその場で麺をハサミでカットしてくれる。麺は灰色の極細でそうめんのよう。噛み切れないがひっぱると切れる。臭みもなくて食感が楽しく、ツルッとした喉越しが快感! 具材は茹でた牛肉や千切りキュウリ、ゆで卵とシンプル。

「ムル冷麺」は辛さはそれほどなく、牛の上品なスープでさっぱり。「ビビン麺」は突き刺すようなシャープな辛味と言うより、甘さのある辛み。日本人好みの"甘辛"系だ。卓上にはグラニュー糖がある。日本人にとっては「??」な感じだが、これを加えると味にグッと深みが出てくる。同じく卓上の酢を入れるとさっぱり感がアップ。味の変化を楽しみつつ、麺の喉越しのよさについつい箸がすすむおいしさだ。

ひたすらシンプルな平壌式

「平壌冷麺」

次は平壌式の有名店「平壌冷麺」(住所: 中区奬忠洞1街26-14)。若者でにぎわう東大門近くにあり、車で来店するお客さんででいっぱい。「冷麺」(8,000w)の麺は極細。先に紹介した「五壮洞咸興冷麺」よりはやや太めで白っぽい色。スープは少しにごりあるものの澄んでいる。このスープがかなり淡白な味で、酢とマスタードを入れて食べる。しかし、それでも物足りなさがある。麺は噛み切れるので食べやすいが、ボソボソとした感じがあり、喉越しのよさを追求する人には不満かもしれない。具材は茹でた牛肉、大根の甘酢 キュウリ、茹で玉子。ただ、ひたすらシンプルなメニューなだけに、夏バテで食欲が湧かない時にはオススメの料理だ。

「平壌冷麺」の「冷麺」(8,000w)

韓国で餃子は麺食の一種!

淡白な冷麺でお腹いっぱいにならなかったら、「餃子スープ」(8,000w)がよい。大きめの餃子4,5個が温かい牛ベースのスープに浮かんでいる。餃子は小麦粉ベースの皮で作るので、麺食の一種として扱われており、冷麺専門店にあっても不思議はないのだ。餃子の具材はモヤシや豚肉、豆腐、ニンニク、ネギなどで、淡白な味わい。皮はすいとんのように厚く、もちもちしている。これを甘辛い醤油ダレにつけて食べる。豚の旨味を感じつつ、モヤシのシャキシャキとした食感も楽しめ、淡白だがなかなかおいしい。

「餃子スープ」(8,000w)

最後に個人的な印象を。実は私、日本で平壌式冷麺のおいしい店に行ったのもあって、咸興より平壌式に期待をしていた。しかし今回の食べ比べでは咸興式の「五壮洞咸興冷麺(オジャンドンハムンネンミョン)」に軍配を上げたい。ただしどちらも賑わっていたので、読者の皆さんには個人的な好みといった程度に受け止めておいてもらいたい。

韓国冷麺は、日本でも焼き肉店をはじめ多くの店で提供されており、大手スーパーに行くと冷蔵コーナーにスープや麺がパックとなって並んでいる。麺やスープの特徴も店ごとに異なるので、この夏は韓国冷麺の食べ比べをしてみるのも良いだろう。

と、ここまで読んで。「韓国料理の定番と言っておきながら焼肉がないじゃないか! 」とお思いの方、ご安心を。次回はしっかりと韓国焼肉を紹介する。