プロシージャルでアートをする~コンピュータに実装した人工知性でアート作品を作る

「プロシージャル技術によるコンテンツはなにも自然現象の再現だけではない。この技術を使ってアート作品の制作に挑戦している人たちもいる」(宮田氏)

宮田氏は「プロシージャル・アート」とも言うべき研究を紹介した。

最初に紹介されたのは「Apophysis」(アポフィジス)と命名されたフラクタルベースのプロシージャル・アート・エディタだ。

プロシージャルアートエディタの「Apophysis」は無償提供されている

スクリプト言語でアートの元となる種を描き、これをGUIベースでパラメータ調整してレンダリングして結果フレームを得る……というような流れとなっている。もともと100種類のスクリプトサンプルが収録されていて、これをいじるだけでも多様なフラクタルアートが制作できる。

「Apophysis」の画面

Apophysisは無料でオフィシャルサイトで提供されており、誰でも試すことが出来る。興味が湧いた人は一度試してみよう。筆者も実際にNo.77のサンプルをベースにして適当にいじってみたところ、以下のような映像が生成できた。とても簡単だ。

もともと収録されているサンプル77

筆者が適当にエディットして制作した映像。銀河のようなものが作れた。簡単だ

見た目に幻想的な映像が作れるので、背景壁紙の作成などに活用することが出来そうだ。

もう一つは、スクリプト型プログラミング言語でプロシージャルアートを実現するもので、Webアプリの形態で公開している所も存在する。

PROCESSINGはグラフィックス描画に特化したJAVAのフロントエンド言語で、実行時にはJAVAとして実行される。

PROCESSINGを用いたプロシージャルアート。Webアプリの形態で公開されている

宮田氏が紹介したのは、Webアプリの形態のプロシージャルアートを集めている「Complexification.net」だ。

Complexification.net」。この映像は全てリアルタイム生成で自分のPC上で実行できる。実行させるたびに画が異なる

このサイトに飛び、「THUMBNAIL INDEX」のリンクへ飛ぶと、このサイトで公開されているPROCESSINGベースのプロシージャルアートがサムネイル付きで表示される。JAVAが動作するPCであれば機種の区別なく、それぞれのプロシージャルアートを自分のマシンで実行できる。毎回、実行結果が違うのが興味深い。

宮田氏が講演の時に紹介した「Substrate」(基板)と名付けられた作品は、セピア色の影付きの線分を一定規則で他の線分に交わるまで書くことを繰り返すもの。完成された作品は基板というか、衛星視点の街並みのような絵になる。

「Substrate」の実行例

「Box Fitting」の実行例。こちらは平面をランダムな四角形で埋め尽くすだけのもの。ただ、配色に一定の規則性が表れるため、心地よい模様になる

「Bubble Chamber」の実行例。細菌のような有機的な形状が現れる

筆者が興味深かったのは、「Invader Fractal」という作品。これは、左右対称のドット画をランダムな大きさで生成し、これを前出の「Box Fitting」の要領で敷き詰めていくもの。ランダムで生成しているはずなのに、どこかで見たことのあるドット画も出てきたりするのが面白い。ドット画は5ビット×3の15ビットのランダムな塗りつぶしの鏡像なので32768タイプのインベーダー風のドット画が出現させられるとのことになる。これは「レトロなゲームキャラクタのドット画は数ドットからなるドットパターンの左右対称形である」という知識を形式化した立派なプロシージャルテクニックだ。

「Invader Fractal」の実行例。Tシャツの柄とかにもよさそう?

とにかく、大量にアップロードされており、1つ1つクリックしてみているだけでもかなり楽しい。

こちらも、3Dモデルに貼り付けるデカールテクスチャのアイディアになりそうで興味深い。

静的なアート作品と動的なキャラクター生成の中間的な位置にありそうなプロシージャル作品として、William Latham氏の作品も紹介された。William Latham氏はゲーム業界での経験も豊富で、現在もロンドン大学ゴールドスミス・カレッジで教鞭を執る傍ら、ゲーム関連コンサルティング会社GamesAuditのCEOを務めている人物。そんな彼が、考案したのは遺伝的アルゴリズム(GA)ベースで3D形状モデルを生成する仕組み。複数の基本形状の遺伝子を組み合わせたり、掛け合わせたり、あるいは突然変異をさせたりして、基本形状モデルを増殖成長させるようにして形状を形成していく。前出の反応拡散系と貝のプロシージャル生成をより複雑に実装したようなイメージだろうか。

グロテスクなデザインだが、とても有機的で複雑な形状となっているLatham氏の遺伝的アルゴリズムによるプロシージャル形状生成のテクニック

ライティングが独特なせいもあるが、とても有機的で面持ちで、臓器というかH.R.ギーガーがデザインしたようなエイリアンチックでエロチックなデザインとなるのが興味深い。

Latham氏のWebサイトには多数、この手法で生成したモデルの映像が公開されているので興味を持った人は見てみよう。