TENORI-ONの1次試作品には、ハンドルが付いていた!

TENORI-ONのプロトタイプ。ハンドルに注目だ

次にビジョンに映し出されたのが、現在のTENORI-ONよりもはるかに大きい、TENORI-ONのプロトタイプの映像だ。鈴木氏は「これは、岩井さんが本当のお弁当箱よりも大事していた『お弁当箱』で、いろいろな『おかず』をとにかく詰め込んだもの。音と映像のあらゆる機能が詰め込まれおり、商品化されたTENORI-ONよりもかなり多彩な機能が付いている」と説明した。TENORI-ONのプロトタイプにはハンドルがついており、回すと本当にオルゴールのように音が進んでいく仕組みになっていた。しかし商品化されたときにハンドルはなくなった。その変更に関して杉井氏は、「このハンドル、すごい良かったんだよね。TENORI-ONに今でも付けたいぐらい」と吐露した。

このハンドルは、岩井氏のデジタルとアナログの境界へのこだわりであり、ヤマハ側も商品化に向けてハンドルの有無に悩んだという。「一次試作品では最後までハンドルが付いていた。このハンドルはテープで止めてあり、試行錯誤するなかで取ったり付けたりを繰り返していた」と鈴木氏はそのときの状況を語った。

2次試作品で、企画屋として『これは絶対に面白い!』という状態に達した

1次試作品の紆余曲折を経て2次試作品に入るわけだが、ここでヤマハが大きく前進するきっかけを得る。杉井氏は「この一次試作品で我々ヤマハとしてはさんざん試行錯誤して、岩井さんが言ったことに対してヤマハは一体何ができるのか、一体何が面白いのかを徹底的に話し合った。そしてあるとき、企画屋としては『抜けた状態』に達した。『これは絶対に面白い!』、『抜けた!』という瞬間まで行き着いた」ときっかけを得た瞬間を振り返った。

岩井氏が描いた2次試作品へ向けてのイラスト

ここで杉井氏が、岩井氏のイラストを実物のモックアップにしたのは鈴木氏だったことを明かした。鈴木氏は「どれだけ凄いかは僕にはわからないけど、モックアップは僕が作った。CGだけじゃわからないところがある。絵を実際にモノに起こしてみて、手に持ってみることが大事で、初めてそれを手にしたときに、楽器としての存在感や演奏スタイルがイメージできた」と語った。商品としてのイメージがやっと伝わってきたヤマハ開発陣は、そのモックアップを見て感嘆したという。
また杉井氏は、岩井氏から見せられた2次試作品イラストと現在の商品(TENORI-ON)がまったく同じ形状であることに触れ、「今思うと、岩井さんの頭には、すでにこういう形が明確にあったんだな」と開発当時を振り返った。