Ubuntuは"伸び盛り"なディストリビューション

欧米で大ブレイクしたから日本でも売れる -- つい短絡的に考えがちだが、実際にはそうならないことが多い。キャベツ人形然り、スパイスガールズ然り。あのスタートレックシリーズですら、日本での知名度は欧米のそれに遠く及ばない。Mr.スポック? ああ、アラレちゃんの? (あれはスコップ) といったところだ。

PCの分野も例外ではない。欧米、とくに欧州で大ヒットしたCommodore 64は、日本では国産8ビット機の陰に隠れてしまい、あまり売れなかった。Apple IIもそう、米国でのシェアを考えれば、日本ではマイナーだった。今にして思えば、どちらも製品の出来不出来という本質ではなく、販売戦略とかマーケティングという上っ面の部分に足りない点があったのだろう。

Ubuntu Linuxも、どちらかといえば同類項でくくられる存在。とてもよくできたディストリビューションなのだが、まだまだ日本ではFedoraやRed Hatといった既存銘柄を選ぶユーザが多いのだ。たとえば、一太郎 / ATOK for Linuxの対応ディストリビューションにも、Ubuntuの名は見かけない。人気を示すバロメーターの1つである書籍の出版点数はといえば、Fedoraの70とRed Hatの108というヒット数に対し、Ubuntuはわずか8だ (cbook24.comで検索した結果)。

しかし昨年あたりから、明らかに変化が生じている。Webのニュース系サイトでその名をよく見かけるようになり、日本語サイトを対象に検索したときのヒット数も増加傾向にある。前述のコンピュータ書籍にしても、Ubuntuをテーマにしたものは2007年半ば以降に発売のものが大部分を占めている。ここ日本で受け入れられなかったわけではなく、"伸び盛り"のディストリビューションなのだと理解したい。

平易かつツボを押さえた解説

ここに紹介する『Ubuntu Linuxではじめる Linuxパソコン』は、Ubuntuを始めようとするユーザを対象とした書籍。現行バージョン7.10 (Gutsy Gibbon) の日本語版をCD-ROMに収録、Ubuntuの導入から活用までを本書1冊でサポートする、全8章・232ページのいわゆる"入門書"だ。まずは順を追って内容を眺めてみよう。

第1章は、Ubuntuとは? Linuxとは? Windowsとの違いとは? といった、UbuntuおよびLinuxの紹介が中心。はじめてLinuxに挑戦する層をターゲットとした読み物で、平易に記述されている。強いて言えば、Debianとの関係やLTS (Long Time Support) 版の存在など、Ubuntuについて学ぼうとすると避けては通れない用語についても触れてほしいところだが、これも1つの割り切りと解釈したい。

第2章は、Ubuntuのインストール。Live-CDで起動するところから始まり、HDDへのインストール、パーティションサイズの変更を伴うWindowsとの共存、日本語セットアップヘルパの導入など、Ubuntuのインストールにあたりポイントとなる項目について記述されている。Ubuntuはよくできたディストリビューションで、一般的な構成のPCであれば難なくインストールできるため、とりあえずUbuntuを試したいユーザにとっては十分な情報量だろう。

とはいえ、"+α"な情報は少々不足気味。たとえば、3D風UIを持つウインドウマネージャ「Compiz Fusion」は174ページで紹介されているのだが、対応するグラフィックカード / チップが搭載されていなければ旧来のデスクトップ環境で動作することについては触れられていない。多ボタンマウスやトラックパッドの設定など、ニーズが高いと思われる項目について検討してもよかったのでは、と思える。

第3章は「Ubuntuの基本操作」ということで、Gnomeの基本的な使い方からファイルブラウザの利用法、Anthyを使った日本語入力まで、一通りの操作方法を紹介している。「Linuxの基礎知識」という項目では、Windowsと対比させつつLinuxのディレクトリ構造について解説しているので、デバイス名やマウントといった用語を知らない読者の助けになる。これは本書全体に言えることだが、ムダなく平易な文章で記述されているため、理解しやすいのではないだろうか。

第4章の「Ubuntuの付属ソフト」では、WebブラウザのFirefox、メールソフトのEvolution、オフィススイートのOpenOffice.orgなどなど、Gutsy Gibbonに収録されている主要アプリケーションが紹介されている。どれも1冊の本になるほど多機能なため、記述は総花的になりがちだが、はじめてLinuxに挑む層にはカタログ的役割を果たすはずだ。

第5~7章は、Ubuntuのカスタマイズ法を具体的に紹介。5章はSynapticを利用したパッケージの追加 / 削除を中心に、WineやVirtualBoxの使い方まで触れられている。6章は外付けHDDの接続やCD / DVDの書き込みなど、周辺機器の活用がメインだ。7章は、キーボードの設定やメニューのカスタマイズなど、Windowsでいうところのコントロールパネル的環境設定術が紹介されている。そして最後の第8章は、ログインパスワードを忘れたときの対策など、Q&Aスタイルで構成されている。

UbuntuはもちろんLinuxビギナーにお勧め

Ubuntu 7.1.0のインストールCD-ROM付きなので、すぐに始められます!

本書の特徴は、操作に関する説明の多くがGUIベースで、コマンドに関する記述がほとんど見られないことだ。コマンドの説明は、88ページに半ページほど割かれているが、そこには「本書では原則としてコマンドを使った操作は取り上げません」と明記され、11のコマンドがかんたんな説明とともに列挙されているに過ぎない。実際のところUbuntuではコマンドを必要とする場面は少なく、これはこれで1つの選択だろう。

CD-ROMの添付もポイントだ。CD-ROMはコスト増の要因、すなわち書籍の定価アップにつながるため、必ずしも読者の利益とはならないが、ISOイメージをダウンロードしてCD-ROMに焼いて……という手間と時間を考えると、書籍に添付されていたほうが便利なことも事実。これからUbuntuを導入しようという読者層を考えても、CD-ROM添付は妥当な判断といえる。

ともあれ、本書最大のセールスポイントは、ベテランライター佐々木康之氏による平易な解説にある。細かいことはさておき、まずはUbuntuを始めたい、Linuxを使ってみたい、という向きにはお勧めだ。ただしビギナー層向けに構成されているため、一通り覚えたら物足りない部分も出てくるはず。そのときはネットで情報を探すなり、より上級の書籍を購入するなり、ランクアップを図ればいいだろう。

『Ubuntu Linuxではじめる Linuxパソコン』

佐々木康之 著
技術評論社発行
2008年2月7日発売
B5変形判 / 232ページ / CD1枚
定価2,394円(本体2,280円)
ISBN 978-4-7741-3373-7

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