「あばたもえくぼ(痘痕も靨)」の意味は? 使い方を例文と共に解説
「あばたもえくぼ(痘痕も靨)」とは、「好きになると欠点ですら良く見える」という意味です。今回はライティングコーチの前田めぐるさんに、正しい使い方や類語、対義語について、例文とともに解説してもらいます。
「あばたもえくぼ」の「あばた」とは、「欠点」を比喩的に表す言葉です。「えくぼ」とは文字通り、笑うと口の端にできる、愛らしいくぼみのことです。
「あばた」と「えくぼ」、いったいどんな関係があるのでしょうか? 意味と使い方を調べてみましょう。
「あばたもえくぼ」の意味と語源
まずは「あばたもえくぼ」の意味と語源を見てみましょう。
意味は「好きだと欠点でも良く見える」
「あばたもえくぼ」を辞書で引くと、次のように書かれています。
あばたもえくぼ【痘痕も靨】
好きになると欠点まで好ましく見える意。
(『広辞苑 第七版』岩波書店)
「あばたもえくぼ」は、一般的にはひらがなで書きますが、漢字にすると「痘痕も靨」と書きます。
「好きになった相手は、欠点までも良く見えてしまう」という意味です。
特に、恋をしている相手に夢中なさまを表す時に「好きになったら、あばたもえくぼですね」というふうに使われます。
語源は「顔のくぼみもえくぼに見える」
「あばた」とは「痘痕」と書き、「天然痘が治った痕」や「重症化したにきびや、水ぼうそうの痕」を意味します。
天然痘とはかつて存在した、伝染力が非常に強い疫病です。治癒したとしても顔面にくぼみのような痕が残るため、江戸時代には「美目(みめ)定めの病」として、忌み嫌われていたそうです。
そんな「あばた」も、その人を好きな相手から見れば魅力的なえくぼに映るというのが、この言葉の由来です。
「あばたもえくぼ」の使い方(例文つき)
「あばたもえくぼ」は、恋愛に夢中になっている人のさまを表すことわざです。
相手の短所までが長所に見えてしまうさまをいい、次のような場面で使われます。
恋愛中の2人について友人同士で話す時
人間、自分のことはさておき他人のことは冷静に見つめられるもの。「あばたもえくぼ」は恋愛中の当人ではなく、第三者同士が話す場合にも使われます。
ほとんどの場合、ネガティブな意味合いになってしまうので注意が必要です。
例文
・「○○さん、あんな軽そうな男のどこが良いんだろう」
「まさに、あばたもえくぼ、だよね」
好きな相手を周囲からけなされた時
「あばたもえくぼ」という言葉は、恋愛中の人の周囲が使う場合が多いでしょうが、次のような場面では恋愛中の本人も使えます。
一目ぼれの場合は、最初から「あばたもえくぼ」ですが、友人関係から恋愛関係になった場合、初めは「あばたがあばた」に見えていた可能性は考えられます。
そんな相手のことが周囲にけなされたら、次のようにかばいたくなるものです。
例文
・最初は、うるさくて苦手なタイプだった。でも今は「あばたもえくぼ」かもしれないけど、賢くて弁が立つ人だと思っているよ。
恋に夢中な人に対して忠告する時
恋人について素晴らしい褒め言葉を並べたててのろける友人。その通りの恋人なら申し分ないのですが、恋人について良からぬうわさを聞いてしまった……。
そんな友人の恋人について友人に忠告する時に、冷静になってもらうためのアドバイスとして下記のように使えます。
例文
・そういうのを「あばたもえくぼ」というんだよ。かわいらしい欠点なら良いけれど……少し冷静になって確かめてごらん。
「あばたもえくぼ」を使う上での注意点
「あばたもえくぼ」を使う時は、以下のことに注意しましょう。
「あばたもえくぼ」は褒め言葉ではない
これまで述べてきたことから分かるように「あばたもえくぼ」の「あばた」とは、「欠点」の比喩です。
「えくぼ」という言葉が入っているので何となくかわいい響きだと感じるかもしれませんが、褒め言葉にはなりません。
フランクに言い合える友人同士で、その友人の好きな相手について使うことはあり得ますが、そうでない場合は悪口になってしまうこともあります。
関係性や相手の気持ちに気をつけて使いましょう。
好きな相手に直接「あばたもえくぼ」とは言わない
「あばたもえくぼ」は、恋をしている人がその相手に使うと気分を損ねる言葉です。
例えば、コンプレックスを抱えている女性に、ある男性が次のように告白したとします。
・付き合ってください。あなたの全てが、私から見ればあばたもえくぼなんです。
こう言われた女性は、かなり複雑な気持ちになるのではないでしょうか?
この言葉を言い換えれば、他人から見れば「全てがあばた」、つまり「全てが欠点」と言っているのと同じです。
これでは恋が成就しないどころか、相手から「顔も見たくない」と言われそうですね。
全てがえくぼのように素敵だと思うのなら、そのまま次のように言うと良いでしょう。
・付き合ってください。あなたの全てが魅力的です。
「あばたもえくぼ」の類語(例文つき)
「あばたもえくぼ」と似た意味の言葉として、次のような言い換え表現が考えられます。
「惚れた欲目(ほれたよくめ)」
「欲目」とは「ひいき目」のことで、「好きになると相手のことが実際以上に良く見え、欠点さえも良く見える」という意味。
「あばたもえくぼ」と全く同じ意味で、好きな人には使わない方が良い言葉です。
例文
・親友から、彼女の自慢話をよく聞かされたが、実際に対面して「惚れた欲目だな」と思った。
「屋烏の愛(おくうのあい)」
屋烏とは、屋根に止まった烏(からす)のこと。
「人からあまり好ましく思われない烏でも、愛する人の家の屋根に止まっていると、それさえも愛らしく感じられる」という意味。
つまり「深く相手を愛すると、その人に関する全てのものに愛情が及ぶ」というわけです。
「あばたもえくぼ」は好きな相手の欠点について述べたものですが、「屋烏の愛」は「好きな人を取り巻く全てに愛情を感じる」という意味です。
あくまで「相手に関すること・もの」を指し示して「屋根の烏」というので、好きな相手に直接使える言葉ではありません。
例文
・いくら彼女が屋烏の愛を貫こうとしても、彼の浮気相手にまで情を感じたりはしないはずだ。
「縁の目には霧が降る(えんのめにはきりがふる)」
霧がかかると相手がはっきりと見えませんよね。
「縁の目には霧が降る」は、「縁あって結ばれる2人の目には、霧がかかったように全てが美しく見える」という意味です。
「お互いに相手がはっきりと見えていない」ということになるので、この言葉も好きな相手に直接使う言葉ではなく、第三者が使う言葉です。
「あばたもえくぼ」と違う点は「縁あって結ばれる」というニュアンスがあることです。
例文
・再婚相手を延々と褒める母を前に、「縁の目には霧が降る」とはよく言ったものだと思った。
「あばたもえくぼ」の対義語(例文つき)
次に、「あばたもえくぼ」と反対の意味を持つことわざを紹介します。
「坊主憎けりゃ袈裟(けさ)まで憎い」
その人を憎らしく思うと、その人に関わるもの全てが憎らしく思えてくるという意味のことわざです。
「あばたのえくぼ」は好きな相手の欠点さえ良く見えるという言葉ですが、「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」は欠点や長所は関係なく、憎悪を感じるさまを表します。また、恋愛とは関係ありません。
憎らしい相手に対して直接、あるいは間接的に使われます。例文のように、第三者が客観的な視点で使うこともあります。
例文
・坊主憎けりゃ袈裟まで憎いとはいえ、不倫相手の親を悪く言うのは感心しない。
「親が憎けりゃ子も憎い」
文字通り、親が憎ければ、その子どもまでも憎らしく思うという意味。
「あばたもえくぼ」は好きな相手について言う言葉ですが、「親が憎けりゃ子も憎い」は、憎らしい相手について言う言葉です。これも恋愛とは関係ありません。
例文
・「親が憎けりゃ子も憎い」と言うけれど、こんなかわいい子に何も罪はないだろうに。
「あばたもえくぼ」で笑い飛ばせる関係性
「あばたもえくぼ」という言葉には、どこかほほえましい響きがあります。もちろん、褒め言葉ではないので、不用意に使える言葉ではありません。
さんざんのろけ話をする友人に「あばたもえくぼだね」と言えば、「欠点が見えないんだね」という意味にもなってしまうからです。
一方で、それほど恋に夢中になっている友人へのうらやましさもあるのではないでしょうか。
互いの恋人を「あばたもえくぼだね」と言い合っても笑い飛ばせるような親友がいるとしたら、それはなかなか素敵な関係だといえるでしょう。
(前田めぐる)
※画像はイメージです
※この記事は2021年10月27日に公開されたものです