承認欲求が強い人の特徴と対処法【心理カウンセラーが解説】

承認欲求は「自尊心を持ちたい」という人間にとって自然な欲求です。しかし承認欲求が強い人は、そのせいで苦労してしまうことも。今回は心理カウンセラーの笹氣健治さんに、承認欲求とは何なのかや承認欲求が強い人の特徴、承認欲求との上手な付き合い方を解説してもらいます。

承認欲求は、人間なら誰もが持ち得る欲求です。

承認欲求を持っていると、もっと頑張ろうというモチベーションが高まる一方で、つい無理をしてしまったり、頑張った結果が出なくて落ち込んでしまったりすることもあります。

本コラムでは、「私は承認欲求が強いかも?」と感じている人のために、承認欲求とはどのような欲求なのか、自分の承認欲求とどう付き合えば良いのかについて解説していきたいと思います。

そもそも「承認欲求」って何?

まずは、そもそも承認欲求とは何なのか、自己顕示欲と違いはあるのかについて解説します。

承認欲求とは基本的欲求の1つ

「承認欲求」とは、アメリカの心理学者マズローが体系化した人間の動機づけ理論に出てくる基本的欲求の1つです。

私たち人間は、全生涯を通じて常に何かを求め続けながら生きています。

なぜそういう生き方となるのか、マズローはその動機となるものを分析・整理して5つの基本的欲求としてまとめました。

それが「生理的欲求」「安全欲求」「所属欲求」「承認欲求」「自己実現欲求」の5つで、これらを階層化したのが欲求5段階説です。これは知っている人も多いかもしれませんね。

5つの欲求は、基本的には、低次の欲求が満たされると、その上の欲求が生じると考えられています。

まずは本能的な食欲や睡眠欲などの「生理的欲求」があって、それが満たされると、身の安全や安定を求める「安全欲求」が生じます。

続いて、自分を受け入れてくれる仲間や集団を求める「所属欲求」が生じ、それが満たされた後に、いよいよ「承認欲求」が現れます。

このことから分かる通り、承認欲求を持っている人は、社会生活を営む上で最低限の環境がすでに周りにあり、今は人間としてさらに上を目指そうという段階に入っているといえます。

承認欲求を持つことは、下位の欲求が満たされた人に生じる自然な反応なのです。

「承認欲求」と「自己顕示欲」の違いは?

読者の中には、承認欲求は自己顕示欲と違いがあるのか疑問を持った人がいるかもしれませんが、承認欲求と自己顕示欲は同じものではありません。

自己顕示欲には、承認欲求の他にも、所属欲求や安全欲求も含まれている場合があるからです。

自己顕示欲は「自分をアピールしたい」という気持ちです。

その中には、「仲間に自分を受け入れてもらいたい」といった所属欲求や、「自分の立場を確保したい」といった安全欲求なども含まれていると考えられます。

マズローが示した5つの欲求は、基本的な欲求として提唱されたものであり、「自己顕示欲などその他の欲求には、5つのうちの複数が内在していると考えられる」というわけです。

承認欲求を満たす方法

さて、承認欲求について、もう少し詳しく見ていきましょう。

マズローによると、承認欲求とは「自尊心を持ちたい」という欲求です。自尊心とは、「自分で自分のことを誇らしく思う心」のことです。

この承認欲求を満たすには、大きく分けて2つの方法があります。

1つは、理想や目標を達成することによって自分で自分を承認する方法。

もう1つは、他人から称賛されたり高く評価されたりすることによって「自分が承認された」と感じる方法です。

承認欲求が強い人の特徴

そもそも「承認欲求が強い人」とは、どのような人なのでしょうか?

承認欲求は「自尊心を持ちたい」欲求ですので、裏を返せば、今は自尊心が十分に持てていないことになります。

つまり、承認欲求が強い人は、「現時点では自分で自分のことを誇らしく思えていない人」ともいえます。

なぜ自分のことを誇らしく思えないのか、その理由を考えることで、承認欲求が強い人に見られる特徴が浮き彫りになってきます。

では、典型的な特徴をいくつか挙げてみましょう。

(1)自分に満足できない

承認欲求が強い人は理想が高いために、なかなか自分に満足することができません。

よりレベルの高い自分になりたいという意識を強く持っていて、もっと上を目指そうと努力し続けます。

(2)自己評価が低い

承認欲求が強い人の中には、本当はそれなりの成果を上げているのに自分自身への採点が厳しく、その結果として自己評価が低くなっている人もいます。

自分はまだまだだと常に思っていて、なかなか自信が持てません。

(3)劣等感が強い

自分自身を評価する際に、つい他人と比較してしまう癖があるのも承認欲求が強い人によく見られる特徴です。

しかも、常に自分よりも結果を出している人と比べるので、当然ながら自分は負けていると思うことになり、劣等感が強くなります。

(4)目立ちたがり

承認欲求が強い人は、周りから注目や喝采を浴びる自分を誇らしく思う傾向があるので、自己アピールをしがちです。

自分では気づいていないかもしれませんが、周りからは「目立ちたがりのうぬぼれ屋」だと思われていることもあります。

(5)他人に気を使う

承認欲求が強い人の多くは、自分で自分を認めるのが苦手で、他人から認められることでようやく自分を肯定的に受け入れられます。

「悪く思われないようにしよう」と、つい他人に気を使い、相手の言うことに従ってしまう傾向があります。

▶次のページでは、承認欲求が強い人のメリット・デメリットを紹介します。

承認欲求が強い人のメリット

承認欲求が強いことは、さらに上を目指すモチベーションにつながるというメリットがある半面、副作用的な弊害が生じるデメリットもあります。

承認欲求が強いことで、どのようなメリットとデメリットが生じる可能性があるのかを知っておくと、自分の承認欲求とうまく付き合うヒントが得られるかもしれません。

そこで、承認欲求が強いことのメリット・デメリットを整理しておきたいと思います。

まずは、承認欲求が強いことのメリットについて見ていきましょう。

(1)チャレンジ精神が持てる

承認欲求が強い人は、「自分で自分に誇りを持てるようになるためには社会的に成功しなければならない」と思っている人が多いです。

このような気持ちがあると、高い目標を設定してそれを達成しようというチャレンジ精神が持ちやすいです。

(2)人に好かれる

承認欲求が強い人は、「他人から承認されるためには相手に喜ばれることをしなければならない」と思っていることが多いです。

そういう行動を進んで行うので、他人から好かれやすくなります。

(3)責任感が強くなる

人の役に立つことで他人から承認されようとするのも承認欲求が強い人の特徴です。

そのため、頼まれた仕事などをしっかり確実にこなす責任感を強く持つことになります。

承認欲求が強い人のデメリット

次に、承認欲求が強い人のデメリットについて見ていきましょう。

(1)燃え尽きる恐れがある

他人からの承認を期待していても、承認するかどうかは相手次第ですので、いくら頑張っても認められない場合があります。

頑張っているのに一向に認められない状況が続くと、徒労感に襲われて燃え尽きてしまう恐れがあります。

(2)無力感でやる気が喪失する

努力がなかなか結果につながらないこともあるものです。

そのせいで承認が得られない状態が続くと、「やってもやってもダメだ」という気持ちなってしまい、無力感が湧いてきて、何もかもやる気が起きなくなってしまうこともあります。

(3)イエスマンになる

他人から承認されることに意識が向きすぎると、相手の意見や指示に逆らわない癖がついてしまう可能性もあります。

そのせいで、いわゆるイエスマンになったり、便利屋として都合良く使われてしまったりすることにもなりかねません。

ここまで、承認欲求が強いことのメリットとデメリットを紹介してきました。

承認欲求が強いことが良いのか悪いのか、一概には決められない点に気づいたのではないかと思います。

理想は、メリットを生かしながら、デメリットに陥らないよう、うまくバランスをとる意識を持つことだといえるでしょう。

▶次のページでは、承認欲求への対処法を紹介します。

承認欲求への対処法

最後に、承認欲求が強くなっている時の対処法として、簡単で有効な取り組みを2つ紹介したいと思います。

これから紹介するのは、カウンセリングでも行われることがあるイメージワークで、無意識を活性化して本質的な部分に気づくための取り組みです。

承認欲求は無意識で起きているものなので、考え方を意識的に変えようとしても、なかなか効果が出ないことも多いです。

それに対して、イメージワークは無意識に刺激を与えることでの効果が期待できます。

特に、先ほど述べた3つのデメリットが当てはまっていると思われた方は、ぜひ試してみてください。

(1)自分自身をねぎらう

まずは軽い瞑想状態をつくります。

ソファに楽な姿勢で座るか、布団に仰向けに寝転んで、目を閉じてゆっくり深呼吸を繰り返します。

鼻から大きく息を吸い込みながらお腹を膨らませ、十分に膨らんだら、唇を少し開けて細く長く息を前方に吐き出します。

これを5~6回繰り返すと、全身の力が抜けて楽な気持ちになっていきます。

そうしたら、自分自身にねぎらいの言葉を掛けてみてください。「私はよくやっている」と。

なかなか結果が出なくても、周りから認めてもらえることが少なくても、一生懸命に努力を続けている自分。

その頑張りをよく分かっている自分が自分をねぎらうことで、少し救われた感覚になっていることに気づけるかもしれません。

そうやって、また頑張ってみようかなと思えたら、それはとても素晴らしいことです。

頑張りすぎている自分に気づいた時や、夜に眠りにつく前などにやってみてください。

(2)周りの人の笑顔を想像する

これも軽い瞑想状態で行います。1つ目の対処法と同様に、深呼吸をしながら楽な状態をつくります。

そして、目を閉じたままで、自分の頑張りを分かってほしい人の顔を思い浮かべてください。

家族の誰かかもしれませんし、友人もしくは職場の上司や同僚かもしれません。あるいは、常連のお客さまや、取引先の担当者の顔が浮かんでくるかもしれません。

次に、その人がうれしそうに優しくほほ笑みかけてくれる顔をイメージします。

イメージの中のその人が「いつもよく頑張ってくれてるよね」「ありがとう」といった言葉を掛けてくれるかもしれません。

そのとき感じる心地良さを十分に味わいながら、今度は逆に、「いつもありがとう」と、感謝の言葉を返してみましょう。

その言葉を聞いた相手の人が、またほほ笑み返してくれるかもしれません。

もしかすると、感謝の言葉ではなく、「ごめんなさい」といった言葉の方がふさわしいと感じる場合があるかもしれません。「ごめんなさい」と相手に伝えながら、もし涙が出てきたら、その感情を押さえずに、今の感覚を十分に味わってください。

こうやってイメージの中の対話を通して、何か大切なことに気づくかもしれませんし、後になってから大切な何かに気づくかもしれません。

最後は、このような貴重な体験ができる自分の心の豊かさに感謝して、この取り組みを終えます。

自分を認めて承認欲求とうまく付き合うことが大切

承認欲求が強い人は、成功に向けて努力する意識が高い一方で、なかなか結果が出ない状態が続くと精神的に参ってしまう可能性があるので、注意が必要です。

大切なのは、自分の承認欲求とうまく付き合うこと。

理想を高く持ちつつ、自分を信じて着実に一歩ずつ前進するように行動していけば、結果はついてくるはずです。

(笹氣健治)

※画像はイメージです

※この記事は2021年10月25日に公開されたものです

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