“推しにお金を注ぐ=愛”? 人類・総推し活時代で目指すべきは「サステナブルな推し活」!
働き方も、恋愛も、生活様式も、全てのあり方が少し前とは違う令和の今。数えきれない変化の裏にある「新マネーハック」を、さまざまな分野の専門家たちが回答します。今回の回答者は、ひらりささん。
今回のお悩み「“推しにお金を注ぐ=愛”だと思ってしまう。しんどい推し活はやめた方がいい?」
男性アイドルを推しています。可能な限り現場に行きたいし、CDや円盤も積みたいし、グッズも欲しいし……仕事をがんばってもお金が足りず、SNSを見ると周りはもっと推しにお金を注いでいるように見えてつらいです。つらい気持ちになるくらいならオタ卒した方が良いのでしょうか。(20代後半/小売)
こんにちは、文筆家のひらりさです。オタク女子集団「劇団雌猫」として活動をはじめて、もう8年。活動当初は想像していませんでした。「推し活」が流行語大賞にノミネートされるようになり、「オタク」よりも「推し活女子」という言葉が広がるとは……。
私たち自身も先日、『毎日がもっとキラキラする! はじめての推し活』なる本を刊行しました。推しを持ったばかりの小学生のお子さんや、その保護者に向けた本を出したいと依頼されて、書きました。人類・総推し活時代……!
私たちが10代の頃に比べると、「アイドルを応援しているなんてキモい」とか「アニメやマンガのキャラクターに恋してるなんてキモい」といった偏見は薄れたように思います。いわゆる「公式」「運営」も、推している人たちの熱量に注目し出し、オタクたちの「推し活」はマーケティング戦略に組み込まれるようになりました。ツアーに全通して全てのステージのレポートをSNSに流したり、新曲のストリーミングをせっせと再生してチャート入りに貢献したり。
推し活は、「推す」側の人生に張り合いをもたらすとともに、「推される」人たちが知名度を高めたり売り上げを得る上で、不可欠なアクティビティとなっているのです。
健全な推し活、いくつになっても難しい
けれど。推し活が当たり前になり、誰もが推し活に片足を突っ込んでいる中で、正解の見えない悩みも増えたようには思います。「推しにお金を注ぐ=愛”だと思ってしまう」というのが、まさにその一つでしょう。
私も現在進行形で、とあるジャンルのオタクをやっています。ステージに立つタイプの推しを追いかけて、あちらこちらの劇場を訪れています。今のところ東京・神奈川の劇場に彼女が立つときだけ行っているのですが、長く応援しているファンの中には、地方の劇場についていく人が珍しくありません。ちょうど先日、遠くの劇場に彼女が初めて立つことが発表されました。うーん、遠いし、お金もかかる。でも、その劇場に「初乗り」となると、その晴れ舞台をお祝いしたい気持ちもある。
今の私の状態は「行きたいけれど時間とお金を気にしている」状態なのか、「正しい推し活として行くべきだと思っているが、気が引けている」状態なのか。
推しの舞台そのものを見ることよりも、推しに時間/お金を注ぎ、それを推しにもアピールすることに気がいっているなあと思うことが、この歳になってもあるのです。健全な、推し活、とっても難しい……。
友人が推し活でピンチになったときのこと
長年オタクをやっていると、周囲でも「これは危うい」という出来事を目撃したことは多々あります。
20代の頃のことです。大学生の友人から、若干パニック気味の連絡が来ました。
「今、地方のツアコンに入っていたのだけれど、帰りの交通費が足りないかもしれない。どうしよう」
ゆっくり事情を教えてもらうと、預金残高がほぼゼロなのに、地方遠征を決行してしまったのだとか。
自己責任だからと突き放すこともできたかもしれません。しかし、彼女の様子は明らかに普通ではありませんでした。動揺を落ち着かせるため、郵便局の制度を使って急遽、現金3万円を送りました。
後から聞いたところによると、彼女は就職活動でうまくいかず、現実逃避のように推し活へ没頭していたのだそうです。身の丈を超えたお金を使い続けているとき、メンタル面での不調やバランスの乱れが潜んでいることがありえます。
宝くじで1億円を当てた人や、寝ていても家賃収入が得られる人が「推しにお金を注ぐ=愛”」という思想を持っていても、ご自由に、という感じですが、労働でお金を稼いで暮らしている人が、この思想を採用していると、とても危険だと思います。
SNSでの比較が招く推し活の過熱
こうした思想が広がる背景には、ソーシャルメディアの影響も大きそうだと感じます。
たとえば、ソーシャルメディアは推しの情報収集や共有に無くてはならないものですよね。ただ推しの発信を見て幸せになったり、ただ推しの情報を交換してハッピーになるだけで済めばいいのですが……他人と自分を比較する材料が豊富に出回っており、ネガティブスイッチを押してしまう危険性も高いツール。
「私だけ全然いいねしてもらえない……」「あの人、今回あんなにCD積んでイベント当選目指してたんだ……私ももっとお金出せば良かった」
自分軸を失って、他人の背中を追いかけだすと、推し活は地獄になりやすいと感じます。
情報共有で得られるメリットも多いですし、「そういう楽しみ方もあるんだ」とか「この人の推し分析面白いな」という観点で、オタク同士繋がるのは楽しいですよね。ですが、楽しさよりしんどさが勝っている場合は、やはり、バランスを崩しているのではないかと疑ってみることが大事でしょう。
目指すは、サステナブルな推し活
きれいごとを言うわけではなく、“推しにお金を注ぐ=愛”というのは違うと宣言したい。愛の大きさは自分にとっての重さや熱量で決まるものであって、かけたお金や時間とイコールになるものでも、他人と比べる道具でもありません。
一方で、この一億推し活社会において、お金や時間をかけることが周りに自分の熱量を示すのにわかりやすい手段であり、奨励されていることは間違いありません。それは推し活や、現在のファンビジネスの構造上の話であって、愛の本質ではない、と私は言いたいです。この方が、「持続可能な推し活」が可能になると思うのです。
SDGsを意識して末長く推すこと。そのほうが、推しにとっても、自分にとっても、やさしい推し活になると思いませんか?
さっそく自分を変えたいというあなたに、今すぐ始められそうなことを提案してみます。
1.毎月の「推し活予算」を決める
理性がある人なら、これがベストですね……! 卒業やお祝いごとの時などは予算を増やすなど、メリハリをつけるのも大事だと思います。
2.ソーシャルメディアを見る時間を限定する
SNSを完全に見ないで推し活をすることは難しいと思いますが、時間制限は結構おすすめです。最近私も始めたのですが、めちゃくちゃ精神に良いです。無駄に時間を使わなくなると、自分を愛する心が高まります。
3.貯金や投資といったマネーリテラシーを身につける
手前味噌ですが、劇団雌猫の『一生楽しく浪費するためのお金の話』、とってもおすすめです。(コミカライズも出ました!)
推しは本来、あなたの生活を豊かにしてくれる存在。勢いあまってオタ卒までしてしまうのはもったいない。そして、ファンが無理をして自分を追い詰めることは、推しにとっても心苦しいはずです。オタ卒というよりは、「推しにお金を使う=愛」と信じ込んで苦しくなる推し活から卒業しましょう!
令和のマネーハック120
「推しにお金を使う=愛」ではないのが大前提。推し活予算を決めたり、SNSとの付き合い方を見直したりして、“サステナブルな推し活”をしよう。
(文:ひらりさ、イラスト:itabamoe)
※この記事は2025年04月21日に公開されたものです