【時候の挨拶】9月に使える挨拶言葉は? 書き方や文例を紹介
仕事で案内状などの文面を作成する時、プライベートでかしこまった手紙を書く時など、どう書き始めたらいいか悩みませんか? そこで便利なのが「時候の挨拶」。今回はライティングコーチの前田めぐるさんに、9月の時候の挨拶を教えてもらいました。
残暑見舞いの季節も過ぎたとはいえ、暑さがまだ残っている9月。それでも、朝夕はしのぎやすくなり、時折感じる涼風に秋の訪れを感じます。
暑さが少しずつ遠のいていくことにホッとしつつも、行く夏が惜しまれるかのよう。
一方で、実りの秋、読書の秋、スポーツの秋、食欲の秋……とさまざまに形容される秋は、それだけ楽しみも多いということ。
秋の夜長、そんな楽しみな景色を言葉でつづり、「手紙の秋」としてはいかがでしょう。
時候の挨拶とは?
時候の挨拶とは、季節や月の気候・行事を踏まえた挨拶で、手紙やメールの初めの部分に書く言葉や文章を指します。
「新秋の候」のように、「熟語などの一語」+「候」という形もあれば、「秋日和が続く頃」のように、文として書く形もあります。
ビジネスシーンやプライベートでは、書面や手紙での連絡、改まったメールの冒頭部分において使われます。
9月の「時候の挨拶」
9月の手紙に使える時候の挨拶を紹介します。
時候の挨拶
「〜の候(頃・季節)」の他に「〜のみぎり」という言葉もあります。「みぎり」とは、「時、折、時節」という意味です。
・「新秋(しんしゅう)の候」立秋(2021年の立秋は8月7日)から白露(2021年の白露は9月7日)まで
・「向秋(こうしゅう)の候」9月上旬
・「初秋(しょしゅう)の候」9月上旬
・「新涼(しんりょう)の候」9月上旬
・「早秋(そうしゅう)の候」9月上旬
・「白露(はくろ)の候」白露から秋分の日(2021年の秋分の日は9月23日)まで
・「爽秋(そうしゅう)の候」9月全般
・「涼風(りょうふう)の候」9月中旬
・「清涼(せいりょう)の候」白露から寒露(2021年の寒露は10月8日)まで
・「仲秋(ちゅうしゅう)の候」白露から寒露まで
・「野分(のわき)の候」白露から寒露まで(昨今では9月全般でも可)
・「秋涼(しゅうりょう)の候」9月下旬
上記の時期は、あくまで目安です。
「白露」と「寒露」は、1年を24に分けた「二十四節気(にじゅうしせっき)」の言葉です。
「白露」とは草木に降りた朝露が白く輝く頃のこと、「寒露」とは朝夕の冷え込みが増し、露が冷たくなる頃のことを表します。
時候の挨拶を使った例文
日中は残暑が厳しく、秋の実感が湧きにくい9月。しかし、朝夕は次第にしのぎやすくなり、ハギにキキョウなど秋の七草が目を楽しませてくれます。
夜ともなれば、どこからともなく虫たちのオーケストラが聞こえて、実りの秋を祝うかのよう。
夜空には秋の月。収穫を祝う十五夜(旧暦8月15日。2021年では9月21日)には、古くより芋やだんご、枝豆、ススキの穂などを供えます。
ビジネスシーンにおいても、機運をアップする前向きな言葉を取り入れて、実りの秋としたいものですね。
例文
・暑さ寒さも彼岸までとはよく言ったもので、昨今はこちらもしのぎやすくなりました。
・暑さも峠を越した頃、皆さまご健勝にてお過ごしのことと存じます。
・羊雲が広がる空に秋の訪れを感じる頃、益々ご活躍のこととお喜び申し上げます。
・初秋を迎え、いよいよご隆盛の段お慶び申し上げます。
・食欲とともに、秋の到来を感じております。
9月の「結びの挨拶」(例文付き)
続いては、9月にふさわしい結びの挨拶を紹介します。
「結びの挨拶」とは、本文で用件などを述べた後、結語(「敬白」「敬具」「かしこ」など)の前に添えるものです。
「末筆ながら、○○さまのご健康とご活躍を願っております」のように、相手の健康や繁栄を願ったり、「○○さまによろしくお伝えください」などのように、伝言を依頼したりする役割があります。
例文
・味覚の秋。近々、おいしいランチをご一緒しませんか?
・朝夕はめっきり涼しい昨今、お風邪など召しませんようにお過ごしください。
・どうぞお元気で、爽やかな秋を満喫なさいますよう願っております。
・どうか、実り多き季節を楽しまれますように。
・御地では朝夕肌寒い日もあると聞いています。ご家族ともどもご自愛ください。
9月の時候の挨拶「シーン別の例文」
時候の挨拶を組み入れた例文を、ポイントともに以下に紹介します。
今回の例文は、新商品発表会の案内状と、ご来場者へのお礼です。
新商品発表会への案内状
実りの秋は海の幸や山の幸だけとは限りません。暑い夏が終わり、活動しやすくなる秋には、ビジネスでも新たな展開を図り、収穫を得たいものですね。
そんな時、手紙などのアナログなツールは、デジタル社会だからこそ、特別な手触りや温もりがあります。
なかでも、洋封筒で送る案内状はフォーマルな印象があり、チラシやDMに比べると捨てられにくいもの。例文のように、一般公開に先立って案内する理由を書くことで、期待感を増すことができるでしょう。
例文
謹啓 新涼の候、貴社におかれましては益々ご隆盛の段お慶び申し上げます。
平素はひとかたならぬご厚情をいただき、感謝申し上げます。
さて、このたび弊社では、かねてより開発を進めてまいりました○○がようやく完成し、新製品発表会でお披露目の運びとなりました。
つきましては、一般公開に先立ち、日頃お世話になっているお得意先さまに開発の経緯や効果的な活用法など直接お伝えいたしたく、下記の通りご案内申し上げます。
実りの秋、ご多用のことと存じますが、業界をリードされる貴社にぜひご高覧いただき、ご意見ご感想など頂戴できましたら光栄でございます。
スタッフ一同、心よりお待ち申し上げます。
謹 白
記
日 時 令和○年9月○日 (○曜日)午前(午後)○時〜○時
会 場 株式会社○○ ○F
○○県○○市○○町○○丁目○○番地
電話 ○○−○○○○−○○○○
◇新商品発表会・ご来場者へのお礼状(手書きの場合)
お取引先へのご来場お礼状には、
・印刷したお礼状を記念品などに同封する
・印刷したお礼状を郵送する
・手書きのお礼状を郵送する
などの方法があります。
印刷したお礼状の差出人は代表取締役の名前が一般的ですが、手書きのお礼状については、担当者名で書くようにします。
当日か翌日に出すと、間延びした印象を避けられるだけでなく、時候の挨拶などを省いてすぐにお礼から書き始めることができるため、簡潔でインパクトがあります。
例文
拝啓 本日はお忙しい中、新製品発表会にご来場いただき、誠にありがとうございました。
開発スタッフも、日頃から業界紙などでよくお名前を存じ上げている○○さまにお褒めのお言葉を頂戴し、大変励みになったと申しておりました。
もちろん、私も感慨ひとしおでございました。これを機に、さらに一丸となって頑張ってまいりたいと存じます。
今後とも一層のご指導ご支援をお願い申し上げますとともに、貴社の益々のご発展を願っております。書中ではございますが、お礼まで申し上げます。
敬 具
時候の挨拶をビジネスレターで使う場合の書き方と注意点
最後に、基本的な手紙の形式と注意点を紹介します。
手紙の形式
手紙の形式に必ずしも決まりはありません。個性的な手紙が喜ばれることも多いものです。
ただし、面と向かって会う時とは違い、特にビジネスシーンでは失礼にならないようにと考えることが多いため、慣習的な順序に沿った手紙の形式があります。
大きく分けると「前文・本文・末文・後付け・副文」の順です。
「前文」:頭語
「頭語」とは手紙の冒頭に用いる言葉で、後述する「結語」と対応するものを用います。
頭語には、次のようなものがあります。
【一般的な頭語】
拝啓・拝呈・啓上・啓白・呈上・拝進
【特に丁重な頭語】
謹啓・粛啓・恭啓・謹呈・敬呈
【返信する場合の頭語】
拝復・復啓・敬復・拝披
【返信が来ないうち再送する場合の頭語】
再啓・再呈・追啓・再白・再陳
【急ぎの場合の頭語】
急啓・急呈・急白・急陳・火急
【時候の挨拶を省略する場合の頭語】
前略・略啓・略陳・草啓・冠省・前省・略省・寸啓
「前文」:時候や安否の挨拶
頭語の後に1文字分空けて、前段で紹介したような「時候の挨拶」を書きます。
事務的な文章では時候の挨拶を省き、「時下ますますご清栄のこことお慶び申し上げます」などと書くこともできます。
安否の挨拶は必須ではありませんが、書く場合には、時候の挨拶の後に続けます。
まず相手の安否に触れてから、次に自分の安否や近況について「私どもは元気に過ごしております」などと述べます。
また病気見舞いや相手側に不幸があった時には、自分側の安否や近況は述べないようにします。
「本文」:起辞
「前文」である時候の挨拶の後に、改行をし、1文字下げて書きます。
起辞とは、書き出しから用件に移る際の接続詞で、「さて・ところで・早速ながら・このたびは・今般」などがあります。
返信の際には「ついては・つきましては」などを使います。
「本文」:用件
起辞に続いて、用件を書きます。
移転・転任・結婚・転職・退任・お礼など、さまざまな用件があります。気配りをしつつも、誤解や不明のことが生じないよう、具体的に書きましょう。
「末文」:結びの挨拶
「本文」の用件の後に、改行をし、1文字下げて書きます。
基本的には相手の健康や繁栄を願う言葉を書きます。さらに、伝言を添える場合もあります。
「末文」:結語
結びの挨拶と同じ行の最下部か、改行した次行の下方へ配置します。
「頭語」と対応させる言葉を用います。具体的には、次のようなものがあります。
【一般的な結語・返信や再送する場合の結語】
敬具・拝具・拝白・敬白・拝答
【特に丁重な結語】
敬白・謹白・謹具・再拝・謹言・頓首
【急ぎの場合・時候の挨拶を省略した場合の結語】
早々・怱々・不一・不二・不備・不尽
「後付け」:日付
「末文」の後に改行し、2~3字下げて年月日を書きます。
「後付け」:署名
日付の次行の下方に、差出人名を(自筆で)書きます。
「後付け」:宛名・敬称
署名の次行の上方に、相手の氏名を書き、「様」「先生」などの敬称を添えます。
宛名が連名の際は、敬称はそれぞれに付けます。なお、「御中」は会社や団体に用います。
「副文」
副文とは、書き漏れたことや付け加えたいことを短く添える文章のこと。「追伸・追白・尚々」などと書き出します。
ただし、副文には「重ねて申し上げる」というニュアンスがあるため、お悔やみ状や目上の人への手紙では使用しないのがマナーです。
時候の挨拶についての注意点
お詫び状や見舞状など、急な手紙では頭語や時候の挨拶を省き、以下のようにすぐ本文に入ります。
お詫び状(例文)
・先般はご迷惑をお掛けし、大変申し訳なく思っております。
災害の見舞い状(例文)
・このたびの台風○○号による浸水、被害が大きく心配しております。状況はいかがでしょうか。
病気の見舞状(例文)
*・このたびはご入院されたとのこと、驚いております*。
病気見舞いでは「たびたび」「四」などの忌み言葉に気を付けましょう。
また、長期の入院で文通のようにやりとりしている手紙では、季節の言葉も入れて良いでしょう。
夏から秋、ビジネスも活発になる時期
味覚の秋という言葉がぴったりの9月。例年であれば、涼風に夏の疲れを癒やしたら、会食のお誘いなども増え、本来はビジネスも活発になる時期です。
断続的な緊急事態宣言でビジネス会食や営業もなかなか思うようにできないコロナ蔓延下。
オンラインでのコミュニケーション力を高めつつ、ビジネスレターなどで言葉力・手紙力をアップする時期と捉えて行動するのも良いですね。
(前田めぐる)
※画像はイメージです
※この記事は2021年08月27日に公開されたものです