製造原価と売上原価は、同じ原価を扱うため混同する人もいるのではないでしょうか。原価管理を行う上で、製造原価と売上原価の違いは理解しておかなければなりません。この記事では、製造原価と売上原価の違いについて紹介するとともに、計算する際の注意点も解説します。
製造原価とは
製造原価とは、「製品やサービス(以降はまとめて製品と表現)を製造する際にかかる原価」のことです。製品を製造するのに必要な原材料にかかる費用、製造を行う設備にかかる費用、製造する人の人件費は、すべて製造原価になります。
1、製造原価の内訳
製造原価の内訳は、形態別で「材料費」「労務費」「経費」に分けられます。また、形態別の製造原価は、それぞれ直接・間接の違いでも分類でき、全6種類の製造原価となります。以下に、6種類の製造原価をまとめました。
概要 | 具体例 | |
---|---|---|
直接材料費 | 製品の製造に直接使った原材料の費用 | おにぎりを製造する場合なら米、海苔、具材、調味料など |
直接労務費 | 製品の製造に直接携わった人の人件費 | 製造工場のラインで加工・包装などを担当する人が直接製造に携わった時間分の賃金 |
直接経費 | 直接材料費・直接労務費以外で製品の製造に直接かかった経費 | 製造を外部委託した場合の外注費など |
間接材料費 | どの製品にどれだけかかったか分類できない材料費 | 製造工場の機械に利用する潤滑油、飲食店の出前にかかるガソリン代など |
間接労務費 | どの製品にどれだけかかったか分類できない人件費 | 製造に間接的に関わる従業員の給料、賞与、退職金、福利厚生費など |
間接経費 | どの製品にどれだけかかったか分類できない経費 | 複数の製品を製造している工場の光熱費や工場のラインで働く人々の交通費、保険料など |
材料費・労務費・経費の分類は比較的わかりやすいでしょう。ただし、外部に製造を委託する外注費は、自社の人間が働くわけではないため労務費ではなく経費に分類される点は要注意です。
直接費・間接費は、個別の製品にどれだけかかったかを明確に区分できるかどうかで分類します。個別の原材料費、製造に直接関わっている人が製造作業をしている時間の賃金などは直接費です。間接費は、直接製造に間接的に関わる従業員の給料、工場の光熱費などが相当します。
間接費は、特定の割合で「配賦(はいふ)」して、各製品の製造原価に加算します。
2、製造原価の計算式と計算例
製造原価の計算式は、以下の通りです。
当期の製造原価=期首の材料・仕掛品の棚卸高+当期の総製造費用ー期末の仕掛品や未使用の材料費
製品の製造は、毎期都合よく完了しているわけではありません。製造途中の製品(仕掛品といいます)にかかった製造原価は差し引き、来期完成後に仕掛分の製造原価を足しこむ必要があります。期末ごとに仕掛品の数を確認する作業を「棚卸(たなおろし)」と呼びます。
それでは、家具製造工場を計算例として見てみましょう。製品を2種類製造し、以下の状況です。
- 整理ダンス:前期仕掛品100個・当期製造完了500個・当期仕掛品・150個
- ダイニングテーブル:前期仕掛品50個・当期製造完了200個・当期仕掛品・50個
原価は以下の状況だったと仮定しましょう。
形態別の製造原価 | 整理ダンス | ダイニングテーブル | 間接費 (整理ダンスとダイニング テーブルの配賦割合) |
---|---|---|---|
材料費:5,000万円 | 2,000万円 | 2,500万円 | 500万円 (整理ダンス2:ダイニングテーブル2.5) |
労務費:3,000万円 | 1,200万円 | 1,250万円 | 600万円(1.2:1.25) |
経費:2,000万円 | 500万円 | 700万円 | 800万円(5:7) |
上記の条件から、当期のダイニングテーブル製造原価を計算すると以下のようになります。(前期の製造原価は当期と同じと仮定)
製造原価種別 | ダイニングテーブルの当期製造原価 |
---|---|
直接材料費 | ・1個当たりの原価 ・当期完成品 ・当期仕掛品 ・前期仕掛品 ・当期の直接材料費 |
直接労務費 | ・当期の直接労務費(計算方法は直接材料費と同じ) |
直接経費 | ・当期の直接経費(計算方法は直接材料費と同じ) |
間接材料費 | ・当期全体の間接材料費 ・1個当たりの間接材料費 ・当期の間接材料費(計算方法は間接材料費と同じ) |
間接労務費 | ・当期の間接労務費(計算方法は間接労務費と同じ) 約39万円+約157万円ー約39万円=約157万円 |
間接経費 | ・当期の間接経費(計算方法は間接経費と同じ) 約93万円+約373万円ー約93万円=約373万円 |
個別に6種類の製造原価を算出して合算することで、当期の製造原価が算出できます。
売上原価とは
売上原価とは、「売れた商品やサービスにかかった原価」のことです。製造原価では、製造するモノを「製品」と呼ぶのに対し、売上原価では販売するモノを「商品」と呼んで区別します。(会計上では製造原価は「製品」売上原価は「商品」に分類される)
売上原価は当期販売した商品の仕入原価となります。仕入原価とは、商品自体の仕入価格だけでなく、商品の運賃や販売時に使用する資材費(ビニール袋や包装紙など)といって経費も含む原価のことです。
売上原価に含まれる費用の範囲は、製造業・小売業・サービス業など業種によって違いがあります。
1、売上原価の内訳
売上原価の内訳は、以下の3種類に分類できます。
- 期首商品棚卸高:期首時点の在庫にかかった商品の仕入原価
- 当期商品仕入高:当期仕入れた商品の仕入原価
- 期末商品棚卸高:期末時点の在庫にかかった商品の仕入原価
売上原価の管理には、毎期末に商品の棚卸を行い、在庫数をチェックすることが重要です。
2、売上原価の計算式と計算例
売上原価の計算式は以下の通りです。
売上原価=期首商品棚卸高+当期商品仕入高-期末商品棚卸高
売上原価は、前期から持ち越した販売品と当期の仕入原価を足し、期末時点の在庫にかかった仕入原価をマイナスすることで算出できます。
例えば、仕入原価1個1,000円のシャンプーを例に考えましょう。期首時点の在庫数は100個、当期の仕入数は1,000個、期末時点の在庫数は50個とすると、計算は以下の通りです。
期首時点の商品仕入原価:1,000円×100個=10万円
当期の仕入原価:1,000円×1000個=100万円
期末時点の商品仕入原価:1,000円×50個=5万円
当期の売上原価=10万円+100万円ー5万円=105万円
製造原価と売上原価の違い
製造原価と売上原価の違いはどこにあるのでしょうか。原価の中でも製造原価か売上原価か迷う場合や、製造原価から売上原価を計算する処理方法についても解説します。
1、製造原価の計算対象と売上原価の計算対象
製造原価は「製品の製造にかかった費用」+「期首と期末の仕掛品にかかった製造原価」が計算対象です。一方、売上原価は「商品の販売にかかった費用」+「期首と期末の在庫にかかった仕入原価」が計算対象となる点が大きな違いです。
2、この原価は製造原価?売上原価?
自社で製品を製造して商品販売も行っている場合、どのように計上するか迷う費用に人件費があります。このケースでは、基本的に商品を製造する従業員の人件費を「製造原価」に分類します。売上原価内の仕入原価は、製造原価とイコールです。販売や管理に関わる人件費は「販売費」や「一般管理費」に分類され、売上原価には含みません。整理すると以下のようになります。
人件費 | 製造原価 | 売上原価 | |
---|---|---|---|
部門 | 製品の製造部門 | 直接労務費として計上 | 製造原価に含まれる |
商品の販売部門 | 計算対象外(販売費) | 計算対象外(販売費) | |
総務部門 | 計算対象外(一般管理費) | 計算対象外(一般管理費) |
小売業のように商品の製造に関わらない場合は、そもそも製造原価に関わる従業員はいないため、人件費は一般管理費として計上します。
製造原価と売上原価を計算するときの注意点
原価を計算する際、製造原価・売上原価別に注意点を示します。
1、製造原価は原価に含まれる費用を正確に分類する
製造原価は、原価に含まれる費用を製品別に正しく分類しましょう。人件費や設備費用などは、多数の製品に関わります。各製品で人件費や設備費用を按分して配賦することで、製品別の製造原価は正確に算出でき、今後の製造計画に役立ちます。
2、売上原価を計算する場合在庫分の仕入原価は除外
売上原価の計算時は、今期販売した数分を計上し、期末の在庫分にかかった仕入原価は除外するようにしましょう。毎期末は商品の棚卸しを必ず行い、在庫数を整理することで、当期の正しい売上原価が算出できます。
3、人件費の扱いに注意
人件費の扱いは、業種別で異なります。本記事内では、主に製造業と小売業について解説しましたが、その他の業種でも、人件費をどのように扱えばいいか確認しましょう。人件費と混同しやすい経費に外注費もあります。外注費は、製造原価の直接経費に含まれます。
原価管理システムを利用して製造原価と売上原価を効率的に管理
製造原価と売上原価の概要と違い、計算方法について解説しました。説明をわかりやすくするために製品数を少なくしましたが、実際には数多くの製品・商品があり原価管理の負担は大きくなります。
原価管理システムを導入すると、製品別・部署別の製造原価や、現時点での売上原価が見える化でき、経理部門の負担を大幅に削減可能です。また、経営戦略を立てるための正しい原価管理もしやすくなります。
原価管理システムの導入を検討されている場合は、ぜひ製品の資料を入手して検討材料としてお役立てください。