小売業や製造業など、多くの現場において欠かせない在庫管理。適切な在庫管理がなされていないと、経営に大きな影響を与える可能性もあります。しかし、資金力に余裕がない中小企業事業者などの場合、在庫管理のシステム導入は難しいと考える経営者も少なくありません。そこで多く実践されているのが、エクセルによる在庫管理です。
今回の記事では、そもそもエクセルでの在庫管理は可能かについてや、エクセルで在庫管理を行う際の具体的な手順や方法、またリスクについても詳しく解説します。
エクセルで在庫管理は可能なのか?
表計算ソフトのエクセルは多様な用途で活用でき、ビジネスに欠かせないアプリケーションの一つですが、工夫次第で在庫管理にも応用が可能です。
たとえば、個人で事業を営んでいる方や、システムを導入できるほどの資金の確保が難しい企業にとって、高額な在庫管理のシステムやアプリケーションを導入するのは極めてハードルの高い問題です。
そのような事業者にとって、ビジネスの現場で広く利用されているアプリケーションのエクセルを活用した在庫管理は有効な手段になります。また、使い慣れたエクセルはデータの加工や編集作業が自在であることも大きなメリットです。
エクセルで在庫管理を行う3つの方法
エクセルを使い慣れていない方にとっては、具体的にどのような手順で在庫管理を行えば良いのか分からないケースも多いです。そこで、エクセルを在庫管理に役立てる手順と方法を3つ紹介します。
1 テンプレートを活用する
エクセルを活用して一から在庫管理表を作成するのは手間がかかります。普段からエクセルを使い慣れている方が自社にとって使いやすいように設計するのも良いですが、時間と手間を省くためテンプレートをベースにして、カスタマイズするのがおすすめです。
Web上にはエクセルで作成された在庫管理用のさまざまなテンプレートが公開されているため、業種や取り扱っている商品、事業規模に応じて最適なテンプレートを探してみましょう。
2 関数でカスタマイズ
在庫管理用のテンプレートを個別にカスタマイズする際には、エクセルの基本的な関数を覚えておくと効率的に作業を進められます。全ての関数を覚えておく必要はありませんが、特に利用頻度の高い以下の関数は最低限マスターしておくと役立つでしょう。
1 VLOOKUP
VLOOKUP関数は、商品マスタの中から特定の商品の単価や在庫数などをピックアップする際に役立ちます。
取扱商品の数が膨大になると、表の中から商品の型番を検索して在庫数や単価を手作業でコピーするのは手間がかかります。また、多くの作業を行う中で人為的なミスも発生するでしょう。
在庫管理においてVLOOKUP関数は不可欠な関数であるため、ぜひマスターしておきましょう。
構文 =VLOOKUP(検索値,範囲,列番号,検索の型)
検索値:商品の型番やJANコードなど、検索のキーとなるデータ
範囲:商品の型番や在庫数、単価などが記録されたマスタ
列番号:範囲の中で在庫数や単価など、どの列にあるデータを取り出すか
2 IF
IF関数は、ある一定の条件やルールに基づき、その結果を返す関数です。在庫管理では、たとえば「在庫数が5になったら発注フラグを立てる」などを指定できます。
構文 =IF(論理式,値が真の場合,[値が偽の場合])
論理式:A>0(Aは0よりも大きい)やA=1(Aは1と等しい)、A>=1(Aは1以上)など
値が真の場合:論理式の条件に合致する場合に表示させる値 たとえば「”◯”」など
値が偽の場合:論理式の条件に合致しない場合に表示させる値 たとえば「”×”」など
3 SUMIF
IF関数をさらに応用したものがSUMIF関数です。IF関数と同様に一定の条件を指定できますが、さらに条件にマッチするデータの合計値を返せるのがSUMIF関数です。たとえば「複数ある拠点ごとの在庫数を知りたい」「メーカーまたは製品ごとの在庫数を知りたい」など、サマリとしてまとめる際に役立ちます。
構文 =SUMIF(範囲,検索条件,合計範囲)
範囲:拠点ごとの在庫数を知りたい場合には拠点の列、製品ごとの在庫数を知りたい場合には製品の列 など
検索条件:東京拠点の在庫数を求める際には「”東京”」など
合計範囲:合計数を求める範囲を指定 在庫数の列など
3 マクロで最適化
関数よりもさらに効率化するためには、マクロを活用する方法もあります。
マクロは本来VBA(Visual Basic Application)のプログラミング知識が必要です。しかし「マクロの記録」の機能を活用することでプログラミング知識のない初心者でも簡単にマクロを組むことができます。
エクセルによる在庫管理の限界
エクセルによる在庫管理は手軽にできて、コストも抑えられるメリットがありますが、どうしても限界があります。在庫管理に特化した専用のシステムと比較した場合、どのような点が懸念されるのか見ていきましょう。
1 誤ってデータを消去する・入力を忘れる
エクセルは在庫管理者がファイルを開き、データを手作業で入力するのが基本となります。さまざまな関数およびマクロ機能などを利用しての自動化・効率化も可能ですが、自由に編集できる以上、担当者が誤ってデータを消去したり、そもそも入力を忘れたりする可能性もあります。
在庫管理表そのものは完成度が高くても、肝心のデータ入力や適切な管理が行われていないと、正しい在庫管理ができません。
2 更新履歴の管理
在庫管理表の作り方によっては、日別で在庫がどのように増減したかが分かりません。
また、単純にファイルの上書き保存を繰り返していると、更新後のデータなのか更新前のデータなのかが把握しづらくなる懸念もあります。また在庫管理のファイルを複数の管理者や担当者で編集していると、ローカルに保存した古いファイルのまま編集が行われ、適切に内容が更新されないケースも出てきます。
共有フォルダに最新のファイルをアップロードしておく方法もありますが、作業手順やルールを徹底しておかないと、更新すべきファイルを間違えるなど人為的なミスも起こりやすくなります。
3 関数やマクロの誤り
在庫管理表を作る際に、そもそも表の中の関数やマクロが誤っていると正しい結果が出力されません。たとえば30日の月と31日の月があるのに、合計を求める範囲が30日までしか選択されていないなど、初歩的なミスが起こる可能性も十分考えられます。
関数やマクロの誤りに気付かないまま管理表を更新し続けていると、後になってミスが発覚し取引上のトラブルに発展する可能性もあります。複雑な関数やマクロになればなるほど誤りが発生しやすいため、運用前にはテストを繰り返して正しいデータが出力されるかをチェックしておくことが重要です。
在庫管理システムの導入も検討してみよう
エクセルによる在庫管理方法はほとんどコストがかからず、極めて手軽に導入できるのが大きなメリットです。
しかし一方で、エクセルだけ使用した在庫管理では限界があるのも事実。そこで、エクセルの在庫管理での重大なミスの発生を防ぐためにも、在庫管理に特化した専用システムの導入も検討してみましょう。
「資金的に余裕がなく多額のコストをかけることが難しい」と悩んでいる事業者も多いですが、近年では比較的安価に導入できるクラウド型の在庫管理システムも登場しています。
複数社を比較し自社にとって最適な在庫管理システムを選定するためにも、まずは資料請求のうえ検討してみてはいかがでしょうか。