インターネットのインフラ設備は近年かなり整いつつある中国ですが、一部のコンテンツに対しては規制がかけられているため、日本では閲覧可能なサイトも中国国内では閲覧できない可能性があります。
そういった状況を解決する手段として脚光を浴びているのが、VPNサービスです。
VPNサービスを利用すれば、海外のサーバー経由でインターネットに接続できるため、通常であれば規制対象のサイトであっても中国国内からアクセスできるようになります。
しかしながら、現在はVPNサービスも万能ではなくなりつつあるのが現状です。この記事では、中国で利用するのにおすすめのVPNサービスを紹介するとともに、中国国内のネットワーク事情などについても解説していきます。
中国に渡航予定のある方は、ぜひ参考にしてください。
中国で使えるVPNサービス選びのポイント
中国では、政府が国家規模のファイアウォールを設置しているため、本来の意味でのワールドワイドなインターネットと中国国内のインターネットの間に壁が存在する状態となっています。
その壁を越えてやりとりできる情報は、中国政府が管理・検閲した内容に限られます。
ある意味、中国のネットワークは実質国家規模の「超巨大イントラネット」と考える方が実情にマッチしそうです。
従来、中国政府にとってあまり都合が良くない情報は規制の対象となり、中国国内に流れないように管理されていましたが、ウクライナ戦争勃発や香港の統制強化が行われるようになって以降、その制限がより強化されているようです。
昨今はVPNサービスにも制限がかけられるようになっていることから、中国国内での利用を視野に入れたVPNのサービス選び方にも大きな変化が出ています。
こういった前提を踏まえ、中国で使えるVPNサービスを選ぶ際のポイントは、以下の3点です。
- 中国国内からの接続状況
- サーバーロケーション
- 実効通信速度
中国国内からの接続状況
規制が厳しくなった現在は、このポイントが最も重要な項目と言えるでしょう。中国国内から接続できなければ、意味がないためです。
以前は全く問題なく利用できていた大手VPNサービスも、今は安定して利用できる保証が失われています。ExpressVPNなどの大手すら、確実にサーバーに接続できる保証はありません。
また、「今日はVPNサービスが使えていても、明日も使えるかは分らない」というのが中国の現状です。
現在は接続状況も落ち着いているようですが、大前提として「常に確実に接続可能なVPNサービスはない」ということを理解したうえで、備えておきましょう。
サーバーロケーション
中国から使いたいネットサービスに対応したサーバーロケーションが用意されているか?という点を、事前にチェックしておきましょう。
「中国から日本で使っていたネットサービスを利用したい」ということであれば、日本で申し込めるほぼすべての有料VPNサービスのサーバーロケーションに日本が含まれているため、問題ありません。
「日本以外の国・地域限定のサービスを中国から利用したい」というケースにおいては、VPNサービスのサーバーロケーションが利用したいサービスを提供している国に対応しているか?という点を確認する必要があります。
とはいえ、この点においてもよほど特殊なネットサービスの使い方をしない限り、一般的なVPNサービスで対応できるはずです。
例外的に、中国から日本のネットサービスを利用することに特化したVPNサービスも存在しますので、中国以外の海外サービスを利用したい場合は注意しましょう。
実効通信速度
インターネット利用の際の快適さに大きく影響するのが実効通信速度と遅延(≒Ping値)です。
本当に高い通信速度が必要となるネットサービスはそれほど多くはないのですが、単純なWebブラウズでも通信速度や通信のレスポンスは利用の際のストレスにかなり影響を与えます。
サクサク快適なネット利用環境が欲しい場合は、口コミ等をしっかりチェックして実効通信速度の目安を確認しておきましょう。
中国で使えるVPNサービスおすすめ7選
前述した通り、中国のVPNサービス規制の強化の影響から、今の時点で「中国国内から確実に接続できる」と断言できるVPNサービスはないというのが正確なところです。
規制強化以前は確実に接続可能だった大手のVPNサービスも、今は繋がらないタイミングや地域が普通に発生しうる状態になっています。
ここでは、過去に中国国内から利用できた実績のあるVPNサービス7社をご紹介します。返金保証期間を設定している会社もありますので、心配な方はそういったサービスを選ぶと良いでしょう。
ExpressVPN
ExpressVPNは、VPNサービスとして「おなじみ」と言える業界最大手級のサービスの一つです。中国国内においても、中国政府によるVPNサービス規制強化前までは確実に接続できていました。
2022年2月からの大規模規制中はExpressVPNでも接続できないタイミング、エリアが発生していたようですが、高度な暗号化技術とIPアドレスの秘匿技術の高さから、現在も多くの方から強い支持を得ています。
1ヶ月 | 12.95$ |
6ヶ月 | 9.99$/月 |
1年(+3か月無料) | 6.67$/月 |
速度 | 速い |
安定性 | 中(中国国内)/高い(それ以外の地域) |
サーバーロケーション | 105カ国 |
利用可能台数 | 8台 |
対応OS | Windows、MacOS、Android、iOS、Linux |
日本語サポート | あり |
返金保証期間 | 30日 |
ExpressVPNには、30日間の返金保証期間が設定されています。
MillenVPN
MillenVPNは、日本企業が運営する国産VPNです。国産VPNでありながら、海外大手VPNと同レベルの価格帯を実現。サーバーロケーションは世界45カ国72か所、同時接続台数も10台と、スペックに関しても申し分ありません。
主要な動画配信サービスへの対応状況も良好なため、利用するうえで不自由を感じることは少ないでしょう。
中国からの接続状況に関しても、公式HPにて海外大手VPNと比較しつつ、自信を伺える表記となっています。
1ヶ月 | 1,480円(税込) |
1年 | 540円(税込)/月 |
2年 | 360円(税込)/月 |
速度 | 速い |
安定性 | 中(中国国内)/高い(それ以外の地域) |
サーバーロケーション | 45カ国 |
利用可能台数 | 10台 |
対応OS | Windows、MacOS、Android、iOS |
日本語サポート | あり |
返金保証期間 | 30日 |
MillenVPNには、30日間の返信保証期間が設定されています。
NordVPN
NordVPNも、VPNサービス大手の一つです。各種サービスで定評あるブランドですが、中国国内からのVPN接続に関しての評判では前の2つのサービスに一歩譲る印象。
サービス内容の異なる3種類のプランがある点が、ややユニークと言えるでしょう。コンプリートプランには、1TBのクラウドストレージサービス利用権も付いてきます。
スタンダードプラン | 1ヶ月 | 1,760円(税込) |
1年 | 620円(税込)/月 | |
2年 | 540円(税込)/月 | |
プラスプラン | 1ヶ月 | 1,910円(税込) |
1年 | 770円(税込)/月 | |
2年 | 690円(税込)/月 | |
コンプリートプラン | 1ヶ月 | 2,100円(税込) |
1年 | 960円(税込)/月 | |
2年 | 880円(税込)/月 |
速度 | 速い |
安定性 | 低め(中国国内)/高い(それ以外の地域) |
サーバーロケーション | 58カ国 |
利用可能台数 | 6台 |
対応OS | Windows、MacOS、Android、iOS、ChromeOS、FireOS |
日本語サポート | あり |
返金保証期間 | 30日 |
※掲載価格は2023年4月の料金です。為替レートによって大きく変動しますので、最新価格は公式HPにてご確認ください。
NordVPNには、30日間の返金保証期間が設定されています。
以下の記事では、NordVPNの速度や性能を実機で検証しています。併せてご確認ください。
かべネコVPN
かべネコVPNは、日本の企業が提供するかなり後発のVPNサービスです。こちらのVPNサービスも中国国内での接続を強く意識、というよりは中国から日本国内のネットサービスを利用する目的に特化したVPNサービスと言っても良いかもしれません。
価格が他のサービスに比べて安く、契約期間中にVPNサービスを利用しなかった日があっても無駄になりにくい、とてもユニークなサービス料金体系を採用している点も大きな特徴と言えるでしょう。
1日3分以上VPNサービスに接続していなければその日はVPNサービスを使わなかったという扱いになり、その分は利用期間の延長に回せるのです。そのため、1ヶ月プランでも最大46日までの利用が可能です。
1ヶ月 | 880円(税込) |
3ヶ月 | 2340円(税込)(780円/月) |
6ヶ月 | 3480円(税込)(580円/月) |
1年 | 5760円(税込)(480円/月) |
速度 | 速い |
安定性 | 高め |
サーバーロケーション | 5カ国 |
利用可能台数 | 4台 |
対応OS | Windows、MacOS、Android、iOS (専用アプリなし) |
日本語サポート | あり |
返金保証期間 | 14日分(最大21日間) |
かべネコVPNには、14日分の無料期間が設定されています。
スイカVPN
スイカVPNは日本企業が手がけるサービスで、中国国内からのVPN接続を強く意識したサービスになっています。
中国を含めた海外から日本限定の動画配信サービスの多くを活用できるため、主に動画をたくさん視聴したい方におすすめです。
1ヶ月 | 950円(税込) |
3ヶ月 | 855円(税込)/月 |
6ヶ月 | 808円(税込)/月 |
1年 | 760円(税込)/月 |
2年 | 717円(税込)/月 |
速度 | 遅め |
安定性 | 中 |
サーバーロケーション | 45都市 |
利用可能台数 | 47台 |
対応OS | Windows、MacOS、Android、iOS (Android以外専用アプリなし) |
日本語サポート | あり |
返金保証期間 | 14日 |
スイカVPNには、14日間の無料期間が設定されています。
UCSS
UCSSは、中国からの接続に強くフォーカスしたVPNサービスです。「規制の影響を受けない国際専用回線を採用」しているとしており、これにより中国国内からのインターネット接続の高速性をうたっている点が大きな特徴です。
注意点としては、他の多くの有料VPNサービスがデータ容量無制限となっている中、UCSSの通信データ量には上限が設定されている点が挙げられます。
とはいえ、一般的なグローバルプランに加え中国特化プランを用意している点は、大きな強みと言えるでしょう。
ただ、そんなUCSSであっても、中国国内から接続ができないケースがポツポツと出てきているようです。
3ヶ月 | 50GB/月 | 36ドル |
100GB/月 | 49ドル | |
200GB/月 | 84ドル | |
300GB/月 | 126ドル | |
400GB/月 | 168ドル | |
500GB/月 | 210ドル | |
1年 | 50GB/月 | 108ドル |
100GB/月 | 147ドル | |
200GB/月 | 252ドル | |
300GB/月 | 378ドル | |
400GB/月 | 504ドル | |
500GB/月 | 630ドル |
速度 | 高速 |
安定性 | 高め |
サーバーロケーション | 14カ国 |
利用可能台数 | 3台 |
対応OS | Windows、MacOS、Android、iOS (Android、iOSは汎用アプリを使用) |
日本語サポート | あり |
返金保証期間 | なし |
※掲載価格は2023年4月の料金です。為替レートによって大きく変動しますので、最新価格は公式HPにてご確認ください。
UCSSには、無料期間や返金保証期間は設定されていません。
セカイVPN
セカイVPNは、日本企業が運営しているVPNサービスです。インターネットプロバイダでもあるインターリンクが運営を行なっており、プロバイダーらしい視点の気の利いたサービスと言えるでしょう。
料金も月額1,100円(税込)のみと、非常にシンプルな料金設定となっています。
1ヶ月 | 1,100円(税込) |
速度 | やや低め |
安定性 | 中 |
サーバーロケーション | 10カ国 |
利用可能台数 | 3台(同時接続数) |
対応OS | Windows、MacOS、Android、iOS、ChromeOS |
日本語サポート | あり |
返金保証期間 | 60日 |
無料期間が最大2ヶ月と長い点も、セカイVPNの特徴です。
中国でVPNサービスが必要な理由
現在、中国から中国国外のインターネットサービスにアクセスしようとしても、利用できないサービスが多数存在します。
そのため、以下のような理由でVPNサービスが必要です。
- 中国国内のネットワークはインターネットではない?
- 利用できないクラウドサービスが多い
- 情報保護の必要性
中国国内のネットワークはインターネットではない?
中国国内のパブリックなネットワークもインターネットと呼ばれてはいますが、その環境は少なくとも日本のインターネット事情とは大きく異なります。
中国政府が管理する「グレート・ファイアウォール」と呼ばれる国家規模のファイアウォールにより、外部のインターネットと隔離されているからです。そのため、外部のインターネットサービスについては、中国政府が許可を与えたものしか利用できません。
中国国内のネットワークはインターネットとは別物で、「国家規模の超巨大イントラネット」と見なす方が、かの国のネットワーク事情をイメージしやすいのではないでしょうか。
利用できないクラウドサービスが多い
前述したグレート・ファイアウォールの影響により、中国外部の(本来の)インターネットのサービスの多くに対して中国国内からアクセスできません。
もっともメジャーなところでは、Google検索が挙げられます。YouTubeやツイッターもアウトです。その他のクラウドサービスも、多くが利用できなくなっています。
短期の観光旅行くらいの期間であれば、中国外のインターネットサービスが使えない状態でもそこまで不便はないかもしれませんが、ビジネスでの長期出張の場合はインターネットが自由に使えないと仕事にならないのではないでしょうか。
情報保護の必要性
中国国内のネットワークは、基本的に中国政府により監視されており、発信内容には検閲も行なわれます。
そのため、発信する情報の内容を保護する必要があるのであれば、VPNサービスによる通信経路の秘匿、通信内容の暗号化は必須です。
規制対策に!中国滞在中は複数のVPNサービス契約がおすすめ
中国にビジネスや旅行で出かけた際に、Google検索、YouTube動画といった「普段利用しているインターネットサービス」を利用したいならば、VPNサービスは必須です。
ですが、前述したように現在の中国においては、確実に接続できると言い切れるVPNサービスは存在しない状況になりました。最近は様々な地政学的事情も絡んで、さらにネット利用に関する規制が強化されているようです。
そのため、1つのサービスに依存してしまうと、そのサービスが接続不可能となった際のリスクが高いと言わざるを得ません。
中国から自由にインターネットを利用する確率を少しでも高めたい方は、渡航前に複数のVPNサービスに申し込んでおくことをおすすめします。
中国でいざ新しいVPNサービスに申し込もうと思っても、申し込めない、というか公式HPに接続できないケースがほとんどだからです。
複数契約におすすめの組み合わせ
複数のVPNサービスを契約する際は、サービス内容や方向性が異なるもの同士を組み合わせ、それぞれのサービスに欠けている部分を補完し合うのが一般的です。
ですが、今の中国国内のネットワークの状況を考えると、何より「接続性の高さ」を優先すべきでしょう。その意味では、比較的接続安定性が高い「ExpressVPN」と「MillenVPN」の組み合わせが第1のおすすめパターンと言えます。
特に、MillenVPNは日本企業が提供するサービスのため、グローバル企業による大手VPNサービスとは様々な点で一線を画すイメージがあります。
実際、今でも比較的安定した接続性を保っているようですので、MillenVPNを軸に他の海外VPNサービスを検討するというパターンもありでしょう。
中国特化度が高い「かべネコVPN」や、若干設定の手間がかかるものの「UCSS」の中国特化プランもおすすめです。
中国でVPNは違法?合法?
中国においては、「政府の認可したネットワーク以外でインターネットに接続してはならない」という決まりがあります。
ただし、上記の法律はVPNを名指しで禁止しているものではないため、解釈によって合法・違法の判断は異なるのが現状です。
また、過去に中国で外国人がVPNサービスを利用したことを理由に摘発・逮捕されたという事例はないこと、接続できなくなったVPNサービスが増加していることから、VPN利用者の取り締まりという形ではなく、VPN接続自体をブロックするという方向で規制を強めている状況が伺えます。
まとめ
現実問題として、中国ではVPNサービスなしで快適なインターネット利用は行えません。秘匿性の高い情報を取り扱っている方にとっては、VPNサービスは必須と言っても良いでしょう。
また、利用できるVPNサービスも随時変化しています。
滞在期間にもよりますが、必要に応じて複数のVPNサービスに申し込んでおくなど、打てる対策は打っておくことをおすすめします。