積水ハウスが被害にあった地面師詐欺の犯人は?事件の経緯からわかりやすく解説

積水ハウス地面師詐欺事件 アイキャッチ

NETFLEXでドラマ化され話題になった『地面師たち』ですが、実は本当にあった事件が元ネタになっていることを知っていますか?『地面師たち』は、大手不動産会社の積水ハウスが被害にあった巨額の詐欺事件が元ネタになっています。

「地面師の犯人グループは実在したの?」「犯人のその後は?捕まったの?」「どこまでが実話?」など、ドラマとの関連を疑問に思う人も多いでしょう。本記事では、積水ハウスをターゲットにした巨額詐欺事件の犯人について、2024年現在までの事件の真相や顛末をわかりやすく紹介します。

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目次

積水ハウスの地面師詐欺事件とは

まずは『地面師たち』の元ネタとなった積水ハウスの地面師詐欺事件について、概要から把握していきましょう。

偽造書類による取引で約55億5900万円の詐欺

『地面師たち』の元ネタとなった事件は、積水ハウス地面師詐欺事件と呼ばれています。2017年4~6月に取引がおこなわれ、同年6月1日に積水ハウス側の支払いが完了しましたが、同月6日に詐欺だと発覚しました。

本事件は、2017年4月4日に積水ハウスが地面師グループから土地売却の話を持ちかけられたことから始まります。詐欺と気付かないまま土地の売買に応じ、総額でおおよそ55億5,900万円を騙し取られました

地面師たちの手口は次のような流れです。

  • 詐欺に使えそうな土地を物色する
  • 詐欺のおとりとなる偽地主を探す
  • 登記簿謄本や身分証明書などの書類の偽造・改ざん
  • 偽地主が偽の不動産会社に売却を申し込んだことを装う
  • 偽造した書類などを用いて実際の不動産業者に転売を持ちかける

積水ハウスの事件でも、契約したのは所有者になりすましたおとりであり、提出された書類は偽物だったことが残金を支払ったあとに発覚しています。積水ハウスへの所有者移転登記が却下され、本来の持ち主の実弟への移転登記が認められたことで、詐欺被害が確実なものとなりました。

その後は刑事告訴により捜査が進み、2018年10月に地面師グループの一部が逮捕、2019年1月11日に主犯格とされる男が逮捕されて解決に至りました。詐欺の対象となった五反田の土地は、その後旭化成グループが正式な所有者から購入して取得しています。現在は高級タワーマンションに生まれ変わりました。

地面師とは

地面師とは、所有者を偽装して不動産取引をし、代金を騙し取る不動産詐欺師の呼称です。実際には別の人物が所有している土地の売却を持ちかけ、代金を搾取します。地面師は戦後から存在していたとされ、バブル期には多くの巨額被害がありました。

地面師たちは、主犯とは別に所有者のなりすまし役や売買を請け負う役、司法書士役など、さまざまな役を演じる人間を用意し、グループでの行動によって信ぴょう性を高めます。さらに、不動産取引に必要な書類の偽造や改ざんなどもおこなうので、相手に疑う余地を与えません。

積水ハウスの事件を起こした地面師グループ10人は有罪判決を受けています。しかし、現在も活動を続ける地面師たちは多く、再度多額の詐欺事件が起こる可能性もゼロではありません。

複数の要因で積水ハウスは騙される

大手不動産会社であり、豊富な取引経験がある積水ハウスが詐欺被害に遭ったのには、複数の要因が絡んでいました。主に考えられる要因を次にまとめました。

  • 対象の土地の価値が高く競合が多かったため、契約を焦ってしまった
  • 景気状況が読めず、早急に契約を結んで利益を得たかった
  • 各種書類の確認や裏取りを怠った
  • 取引のリスクや不可解な点に向き合わず、利益を追求した

詐欺の対象となった土地は、五反田駅からほど近い「海喜館」という古い旅館の跡地でした。その土地は当時100億円以上の価値があるとされ、多くのディベロッパーや不動産会社から注目を集めていたといいます。地面師たちが積水ハウスに格安の70億円での売却を持ちかけたことで、売買の締結を焦ったことが大きな原因のひとつです。

積水ハウスは、契約を結んで利益を得ることを追求したあまり、書類の確認や裏取り、リスクなどの確認を怠ってしまいました。社員のなかには、取引に疑問を抱き意見する人もいたようです。しかし当時の社長は、売買契約後に所有者本人から「私は契約していない」という旨の連絡があっても、競合他社による妨害と判断してしまうなど、かなりの焦りがあったと見られています。

周辺の住民など、第三者に所有者の顔を確認するという基本的な地面師対策ができていれば、防ぐことができた事件でした。

事件後に小説・ドラマ化

積水ハウス地面師詐欺事件は、新庄耕(小説家)によって2019年に『地面師たち』というタイトルで小説化されました。現在は続編である『地面師たち ファイナル・ベッツ』も刊行されています。

小説『地面師たち』は、2024年7月にNetflixでドラマ化されました。小説・ドラマでは、交渉役として活動する地面師を主人公として、不動産詐欺をおこなう地面師グループの犯行を描いています。

この事件は当時のニュースでも多く取り上げられましたが、小説化・ドラマ化されたことによって再度注目を集めることとなりました。

犯人のリーダー格はカミンスカス操

積水ハウス地面師詐欺事件で逮捕された犯人集団のリーダーは、カミンスカス操という50代後半の男性です。もともとは小山操という名前でしたが、逃亡前の時点で結婚したリトアニア人の妻の姓に変更しています。

ドラマ『地面師たち』に出てくるキャラクター「ハリソン山中」(演:豊川悦治/俳優)は、カミンスカス操をモデルにしているとされています。

この章では、一連の事件の主犯であるカミンスカス操について解説します。

事件前は不動産デベロッパーで幹部待遇

カミンスカス操は1959年生まれで、逮捕当時は59歳でした。当時、60代近い男性が巨額の詐欺を働いたとして、メディアでもかなり大きく取り上げられています。

事件前は1994年創業の新興マンションデベロッパーのABCホーム(※2009年に負債総額約103億円で倒産)で働き、幹部として活躍しました。ABCホーム設立者である塩田大介とともに、大手不動産会社の在庫物件を低価格で転売するなどして、利益を大きくしていきます。

しかし、2008年に塩田とともに脱税の容疑で逮捕され、懲役6ヵ月の実刑判決が下り服役していました。服役後は不動産ブローカーに転じ、地面師たちと共謀するようになったとされていますが、ABCホームに勤めていた当時から地面師たちと関係があったのではないかとする声もあります。

事件後に海外へ逃亡

積水ハウス地面師詐欺事件の調査の末に警察は、犯人グループのリーダー格としてカミンスカス操を逮捕しようとしていました。しかし、カミンスカスはフィリピン・マニラに逃亡しました。

マニラには以前結婚していたフィリピン人がいたため、その女性を頼ったそうです。フィリピンで69日間に渡り逃亡を続けましたが、観光ビザが切れたことで強制的に出頭させられ、日本で身柄を拘束されました。逮捕されたのは、事件発生から2年が経過しようとする2019年1月11日でした。

カミンスカス操の逮捕は詐欺事件で17人目

カミンスカスが逮捕された時点で、詐欺事件に関わる人物はすでに16人逮捕されていました。カミンスカスは17番目の逮捕者となります。

2020年の時点では、17人のうちカミンスカスを含む10人が起訴されました。カミンスカス以外の9人は一審で有罪判決が言い渡されています。カミンスカスの弁護側は、「地主がなりすましとは知らなかった」として無罪を主張し、一審で有罪判決後控訴しました。二審でも無罪を主張しましたが認められず、上告も退けられました。

2024年現在は懲役11年の有罪判決を受け服役中

カミンスカス操は詐欺罪で懲役11年の有罪判決が言い渡されました。上告が棄却され、一審と二審の判決が確定したのは2021年7月7日で、事件発生から4年かかったことになります。

カミンスカスの弁護側は最後まで無罪を主張していましたが、グループの中心的な人物であったことや、少なくとも1億円の分け前を得た事実があることから有罪判決に至りました。

カミンスカス操は東京拘留所で拘留されたのち、現在は服役中です。

積水ハウスの地面師による詐欺事件の影響

地面師詐欺事件以降、積水ハウスや社会、企業にはさまざまな影響がありました。大きなものとして、積水ハウスの内紛と社会への影響の2点を解説します。

積水ハウスでの内紛

事件後、積水ハウスには社外監査役と社外取締役による調査対策委員会が置かれました。

内部調査の結果、当時の社長である阿部俊則氏を含む4人の役員に重い責任があるとして、解任要求が下されました。社長の解任は取締役会で採決がおこなわれましたが、過半数を満たさずに解任できず、積水ハウス社の内紛につながりました。

取締役会の結果、阿部氏は自らを解任しようとした会長を退任させ、阿部氏自身が新しい社長を指名するなどして、社内は混乱に陥ります。内紛にともなって積水ハウスの株価は下落し、株主の怒りを買う結果となりました。最終的に阿部氏は、積水ハウスの個人株主によって訴えられました。しかし裁判所の判断では、阿部氏は株主に損害賠償を支払う責任はないとしています。

リスク管理の重要性の顕在化

積水ハウスの地面師事件は、不動産業界や社会に大きな影響を与えました。積水ハウスが地面師たちに騙されてしまった原因として、適切なリスク管理がなされていなかった点があります。結果55億5,900万円という巨額の詐欺被害に遭ってしまったことで、業界や社会にリスク管理の重要性を示す形となりました。

この事件では、取引内容の精査や信用調査の未実施、知人による本人確認をおこなわなかったことなど、当時の積水ハウスのリスク管理不足が露見しました。不動産業界に限らず、詐欺被害に遭わないためにはリスクを理解して適切に対応することが大切です。基本的なルールを忠実に守ることで防げる被害も多くあります。

積水ハウス以外の地面師による詐欺の例

地面師による詐欺被害は、積水ハウスの事件以外にも事例があります。ここでは3つの事例を紹介します。

新橋の資産家女性詐欺事件

都内新橋の土地でも地面師による詐欺事件がありました。事件の対象となったのはJR新橋駅近くの土地です。建物は木造で古かったため資産的な価値はほとんどありませんでした。しかし土地はどちらも新橋駅からほど近く、16億円以上の価値があるとされました。

地主の資産家女性はアルコール依存症によって体調を崩し、住民税を滞納していたようです。その影響で、該当の土地は都税事務所から差し押さえを受けました。それを機に地面師たちは地主女性のパスポートを偽造し、彼女の住民票を不正に移動して土地の売却に進みます。テナントビルの土地は5つの会社の間で6回も売買され、最終的にはNTTグループのNTT都市開発によって買い取られました。

この事件が注目されているのは、NTT都市開発が土地を購入してから1年3ヵ月後、本来の地主だった女性が白骨死体で発見されたからです。地面師たちが殺害したという説も浮上していますが、パスポート偽造などの犯人も捕まっておらず、結論ははっきりしないままです。

浜田山の駐車場詐欺事件

東京都杉並区浜田山の駐車場も地面師たちによる詐欺の舞台になりました。地面師たちは横浜市内の不動産会社から2億4,500万円を奪取しています。

この事件で地面師たちは、地主のなりすまし役を立てることで業者を騙しました。犯行は偽の地主が地面師仲間の会社に土地を売却してから転売するという、積水ハウスの事件と同様の手口でおこなわれました。

間に会社を挟むことで、表向きでは転売利益や手数料の利があることを取引の理由に説明することができます。また、実際に土地の売買契約書を見せることで、相手に安心してもらえる点もメリットです。地面師による詐欺事件の典型的な例といえます。

最終的には、この事件に関わった地面師10人が逮捕されました

杉並区業者が被害を受けた不動産詐欺事件

最後に紹介するのは、2012年に起きた不動産詐欺事件です。ターゲットとなった都内の土地は何年も放置されており、地主は事件が起きる何年も前に死亡していました。

地面師たちは、地主がすでに亡くなっていることを知りながら、地主の女性になりすまして詐欺を強行しました。この事件でも、偽造パスポートや偽の売買契約書が用いられ、杉並区の不動産会社は4,700万円を支払っています。

4人組だった犯人は全員逮捕されましたが、なりすまし役だった1人を除いて、嫌疑不十分で釈放となりました。地面師から土地を購入した不動産会社は、詐欺に気付かないまま建設会社に土地を売却。自体が発覚したときその土地には、建築会社から建売住宅を購入した一般的な家族が住んでいました。しかし、事件は不起訴となっていたため、土地は依然住民の持ち物として管理されることとなりました。

個人でもできる地面師による詐欺への対策

これから不動産の購入や売却を考えている人は、地面師による詐欺を不安に思ってしまうかもしれません。この章では個人でもできる地面師詐欺への対策を4つ紹介します。

不動産所有者の身元確認

まず被害に遭わないためには、買いたい不動産の所有者が本人か確認する必要があります。

身分証明書は精巧に偽造されていることが多いため、素人目には本物かどうか見分けることは難しいです。不動産売買では、必ず所有者と購入希望者本人が顔を合わせて話し合う機会があります。直接面談した際、会話に不自然な点がないかよく確認しましょう。

また可能であれば、購入予定の不動産の周辺住民に売り主の本人確認をおこなうこともおすすめです。

信頼できる不動産会社や司法書士を利用する

不動産を購入する場合、多くの人は不動産会社を介して物件を探したり契約をしたりします。信頼できる不動産会社を利用することで、地面師などによる詐欺を避けることも可能です。不動産会社を利用する際は公式サイトで業績を確認し、過去の利用者による口コミ・評判がないか調べてみるとよいでしょう。

また不動産を購入する際は、多くのケースで不動産会社が紹介する司法書士に登記手続きを依頼します。詐欺が目的の取引の場合、司法書士も詐欺師集団の一員であることが多いです。司法書士の経歴についても、一度事務所ホームページや口コミを調べておくと安心材料になります。

未活用の土地は早期に処理する

自分が所有する土地が地面師たちに狙われる可能性もあります。地面師たちがターゲットにするのは、所有者が遠方に住んでいたり高齢であったりするなど、管理が行き届いていない土地です。遠方に住んでいるからなどの理由で放置していると、地面師の被害に遭うかもしれません。

未活用の土地は、売却や譲渡などで早めに処分することをおすすめします。相続土地国庫帰属制度という、土地を国に返す制度を利用することもひとつの方法です。早めに手放すことで固定資産税などの維持費を支払う必要がなくなるなど、所有者にとってもメリットが大きいです。ぜひ検討してみてください。

空き家問題について解説したこちらの記事もおすすめです。

詐欺の疑いを専門機関に相談する

詐欺に遭ったかもしれない、取引相手が地面師かもしれないと思ったら、専門機関に相談しましょう。相談先は、消費者生活支援センターや警察をおすすめします。連絡先は次のとおりです。

  • 消費者生活センター電話番号(消費者ホットライン):188
  • 警察相談専用電話番号:#9110

2020年には「土地を高値で買い取る代わりに一時的に土地を買ってほしい」「あとで返金するので税金対策として土地を買ったらどうか?」などと言って、お金を騙し取る詐欺が明るみに出ています。このように不動産に関して怪しい営業があった場合にも、消費者センターや警察を頼りましょう。

不動産は取引金額が大きくなるため詐欺のターゲットになりやすいです。購入や売却は専門機関を頼りながら慎重に進めましょう。

信頼できる不動産会社の探し方

記事の最後に、信頼できる不動産会社の選び方を解説します。地面師たちなどによる詐欺を防ぐためには、信頼できる不動産会社を選ぶことも大切です。詐欺を目的にした業者はもちろん、自分たちの利益ばかりを追求する業者も避けて、安心の不動産取引を目指しましょう。

複数の不動産会社を比較する

信頼できるかどうかは、複数の不動産会社を比べることで初めて判断できます。1社に相談するだけでは、担当者の対応に問題がないかや金額が妥当かなどについて、比較対象がないため判断が難しいでしょう。信頼できる会社を見つけるためにも複数の不動産会社に相談しましょう。

売却する場合も購入する場合でも、相談するだけなら費用はかかりません。複数の会社に相談して会社の実績や対応を比較しましょう。

不動産一括査定サイトを利用する

売却する場合、複数の不動産会社の比較に便利なのが、不動産一括査定サイトです。条件を入力するだけで、その地域や物件に対応できる不動産会社を自動的にピックアップしてくれます。自力で不動産会社を回るよりも効率的なのでおすすめです。

また不動産一括査定サイトは、独自の基準で悪質な不動産会社を排除したサービスも多いです。地面師などの詐欺集団はもちろん、悪い口コミが多い不動産会社なども排除されているので、安心して利用できます。

不動産一括査定サイトのおすすめが知りたい場合は、こちらの記事も参考にしてください。

まとめ

ドラマ『地面師たち』のモデルとなった事件は、2017年に発生した積水ハウス地面師詐欺事件です。この事件の犯人グループはすでに逮捕されており、そのうちの10人が起訴されています。ドラマで俳優の豊川悦治が演じたハリソン山中のモデルであり、この事件の主犯格とされるカミンスカス操は2019年1月に逮捕され、2024年現在は 懲役11年の有罪判決のもと服役中です。

地面師たちは地主になりすまし、身分証明書を偽造するなどして多額の詐欺を働いています。積水ハウス地面師詐欺事件の犯人は捕まりましたが、現在地面師として活動する人がいなくなったわけではありません。

このような詐欺に遭わないためには、信用できる不動産会社を選んで慎重に取引することが大切です。この記事を参考に、安心できる不動産取引をおこないましょう。


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この記事を書いた人

マイナビニュース不動産査定編集部は、家の売却、家づくり、リフォームなど不動産に関わる様々な情報をわかりやすくお届けします。

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