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3 「なんかよかった」で終わらない 絵画の観方

なぜモネの『舟遊び』はすべてがポワポワとしているのか

MAR. 28, 2025 11:30
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この連載では、『美術館が面白くなる大人の教養 「なんかよかった」で終わらない 絵画の観方』(KADOKAWA)から一部を抜粋し、有名な絵画に秘められた物語や歴史を読み解いていきます。絵画に描かれた物語や歴史を知れば美術館に行くのが楽しくなるだけでなく、あなたの教養のレベルが1段階上がるかもしれません。

今回取り上げるのは、クロード・モネの『舟遊び』という作品です。

以下、『美術館が面白くなる大人の教養 「なんかよかった」で終わらない 絵画の観方』から抜粋します。

自然は不変ではない - モネが気づいたこと

さて、いつも通りまずは作品を観てみましょう。画面に描かれているモティーフはシンプルですね。二人の白い服を纏った女性が、水面に浮かぶ舟に乗っています。水面は穏やかで波はほとんど立っていません。晴れているのでしょう、二人と舟が水面に反射して映っていますね。二人とも小さな舟の縁にゆったりと座って、談笑しています。

  • モネ『舟遊び』

    モネ『舟遊び』

さてここまで本書を読んできたあなたは、この絵の異常さに気が付かれたと思います。今までの絵画と比べると、あまりにも雑に描かれている、そんな風に感じたのではないでしょうか。粗いタッチで描かれたこの絵は、すべてがポワポワとして見えます。女性の顔を見てください。どこに鼻や目があるのでしょうか? 指先は潰れてしまっており、ただの白い塊になってしまっています

―中略―

なぜモネはこのような絵を描いたのか。その理由は、今までの描き方にモネが囚われなかったことにあります。例えば、それまでの絵画はアトリエ内で描かれるのが普通で、屋外の風景であっても室内のアトリエで絵画は制作されてきました。しかしモネはそうした先例を踏襲せず屋外での制作を行いました。

―中略―

彼はそうやって自然の中で、自然をあるがままに描こうとしてみました。そうやって自然の中で描こうとした結果、彼はあることに気がつきます。それは彼が目にしている自然が決して不変ではないという事実です。自然の中にあっては、風が吹けば草がそよぎ雲が流れれば日陰ができます。太陽はずっと同じところにいないので、風も雲もなくとも光の量は時間と共に変わっていきます。描かれる自然の中に存在するモティーフも、そうした外的要因により、何もしなくとも見え方が変わっていきます。決まりきった色彩がそれぞれのモティーフにあるのではなく、モティーフ自身の色彩は時の変化と共に移り変わっていくことになるのです。

そうしたことに気がついたモネは同時に、今までの描き方では、移り変わっていく大気や光までは表現できないことにも気がつきました。今までのように輪郭線の中を同じ色で塗りつぶすようなやり方では、鮮やかな色彩も揺れ動く光の感覚も表現できない。そう気がついた彼は、今までの古い描き方を捨て、新しい描き方を開発します。それが筆触分割と呼ばれる技法です。

筆触分割では丹念に調合した絵具をモティーフ固有の色として塗っていくのではなく、光のプリズムを構成する7色を基本とし、その色彩を素早くキャンバスの上に置いていきます。7色までは基本的に使えますが、それ以外の色を使いたい時はどうすれば良いのか。自然は刻々と変わっていくので、毎度それらを丁寧に混ぜ合わせている時間はありません。なので網膜の中で混ぜ合わせるという手法が使用されます。色を隣り合わせて配置することによって、少し離れてみた時に別の色に見えるという目の錯覚が使われているのです。

―中略―

実際のこの絵を生で見ると、水面が美しく煌めくように感じられ、本当に光が反射している水面を見ているかのような錯覚を覚えます。戸外の現実の移り変わる光の世界を、キャンバスに閉じ込めることにこの絵は成功しているのです。それは今までダ・ヴィンチでさえもできていなかった光、移り変わる自然を画面に捉えるという試みでした

『美術館が面白くなる大人の教養 「なんかよかった」で終わらない 絵画の観方』(井上 響 著/秋山 聰 監修/KADOKAWA 刊/定価2,200円)

美術館に行って楽しめる人、楽しめない人の違いは、ちょっとした観方の差だった!? 美術館に行くのが好きなのに、絵画に興味はあるのに、なんとなく楽しみきれない。そんな悩みを抱えている人は少なくないと思います。その効果的な解決方法は、自分なりの絵画の観方を身につけることです。そうすることで、まるでピントの合ったメガネをかけるように、色鮮やかに、そして今までと違ったように作品を鑑賞することができます。でも残念なことに、絵画の観方は基本的に誰も教えてくれません。そこで、東大の美術史で学んだ筆者が今回、こっそりと絵画の観方、そのコツをまとめました。有名絵画を含む130点以上の作品を使って、絵画の観方を解説をしています。具体的に本書で解説している観方の秘密は「物語」と「歴史」の知識。この2つの知識を身につけることで、自然と絵画の観方が身についていきます。


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※ 本記事は掲載時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。予めご了承ください。

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