ChatGPTなどの生成AIの登場により、4度目のAIブームが到来したといわれています。
文章や画像、音楽、動画などのコンテンツづくりなどもAIが担うことができるようになり、私たちの働き方やビジネスの世界が大きく変わりつつあります。
今回のAIブームは、過去の一過性のものとは異なり、インターネットやスマートフォンと同じように私たちの生活に不可欠な存在として定着するでしょう。
ビジネスにおけるAI活用も一層進み、AIを活用する企業とそうでない企業の競争力の差は、ますます広がっていきます。
本連載ではAI活用が当たり前になる社会においてこれまで価値を見出されてこなかった「音声」の可能性について紐解いていきます。
これまでの連載では、AI時代における音声データの可能性や活用基盤の整備、具体的な業務における活用法について解説してきました。最終回では、これから迎えるAI全盛時代に経営者に求められるスキルについて紹介します。
AI社会での競争力を高める
AIが広く普及し、さまざまな業務で利用されるようになった社会では、企業の成長はAIの活用度合いに直結します。
マネージャーや経営層も、ベテランの判断基準や過去の事例といったデータを材料にすることで、日々の意思決定における負担が軽減され、より正確かつロジカルに判断できるようになります。こうした効率化は現場の担当者の負担やミスの減少にもつながるでしょう。
このような変化の出発点は、いずれも音声データを増やすことです。日頃の会議やミーティングの内容を音声データとして蓄積していくことを徹底し、習慣化していくことが大切です。
企業独自のAIをつくる
AIを活用する際は、インフラレイヤー、データレイヤー、アルゴリズムレイヤー、アプリケーションレイヤーという複数のレイヤーで考えることが重要です。
報道では主にインフラレイヤーとアルゴリズムレイヤーが注目されます。巨大な資本が必要で、IT大手企業による巨額投資が行われるためです。これらの技術はやがて一般化し、少数の大企業が市場を寡占する傾向があります。
アルゴリズムレイヤーにおいては、分野ごとに最適化されたLLM(大規模言語モデル)が乱立すると考えます。分野ごとに最適化するためには、各分野の固有のデータが必要です。日本企業は職人気質に起因する細部へのこだわりがあるため、固有データを持つ潜在力を持っています。規模の小さな企業であっても、膨大な固有データを持っていれば、それをもとにAIをチューニングし、ビジネスを一気に加速させる可能性があるのです。自社の保有データを把握し、アウトプットイメージを描いてみましょう。そのイメージから逆算し、迅速にデータ基盤を構築しデータを蓄積することが、競争力強化の鍵です。
「AIにできないこと」が競争力を生む
AIが様々な業務を担うようになれば、新たな成長の機会を模索する時間が私たちに生まれます。その鍵となるのが「AIにできないこと」です。
例えば驚異的な身体能力や、一緒にいて心地よいと感じさせる本能的な魅力は、AIには代替できません。自分の意思で自由に移動できることも人間特有の能力です。
経営においても「現場を知る」という言葉があります。現場は社会変化の最前線です。現場で何かを感じ取ることや、そこにいる人の考えを学ぶことは企業にとって貴重な資産となります。
また、AIを活用するうえで「AIの出力に責任を持つ」という役割も重要です。AIがどれほど精度を高めても、完全に誤りがないわけではありません。AIの出力を鵜呑みにせず、常に批判的な思考で検証し、業務に組み込むことが求められます。
経営者に求められる変革のリーダーシップ
AIは社会を変える力を持っていますが、変革の主役はあくまでそれを活用する「人」です。変革のリーダーシップを発揮するため、経営者には未来を描く力、伝える力、共感する力、実行する力の4点が必要です。
・未来を描く力
データに基づいたロジカルな戦略立案にAIを活用すれば、より精度が高まるでしょう。一方、情熱や直感といった一見非論理的なアプローチで価値を創造する力は、人にしかできません。AIが「おすすめしない道」を切り拓いていくことは、AIでは見いだせない未知の分野の探求につながる可能性を秘めています。
・伝える力
データに基づいた説得力のある説明もAIの強みです。経営者は、それに加え、熱意や信念を伝えることで、従業員にやる気や信頼が生まれ、行動を起こす原動力となります。
・共感する力
事前にプログラムしない限り、AIに過去の経験や相手の感情をもとに共感する機能はありません。人の気持ちや考えに共感する力は人にこそできる能力で、チームの結束を強化し大きな組織を作れます。
・実行する力
1人でできることには限界があり、目的やビジョンを共有できるチームを作ることで、課題解決に向けた実行へとつながります。異なる背景や専門知識をもつ多様性のあるチームでは、解決策やイノベーションが生まれやすくなります。
AI技術の発展は、日本企業にとって一気に変革をもたらすチャンスです。日本政府も2023年5月のG7広島サミットで「広島AIプロセス」を立ち上げ、AIに関する国際的なデファクトスタンダードを作る動きを見せています。
この公的な動きに民間企業も積極的に参加し、官民一体となってAI社会を実現していくことで、日本がAI時代における「資源国」となり、再びグローバル社会における存在感を高める契機となるでしょう。