ChatGPTなどの生成AIの登場により、4度目のAIブームが到来したといわれています。
文章や画像、音楽、動画などのコンテンツづくりなどもAIが担うことができるようになり、私たちの働き方やビジネスの世界が大きく変わりつつあります。
今回のAIブームは、過去の一過性のものとは異なり、インターネットやスマートフォンと同じように私たちの生活に不可欠な存在として定着するでしょう。
ビジネスにおけるAI活用も一層進み、AIを活用する企業とそうでない企業の競争力の差は、ますます広がっていきます。
本連載ではAI活用が当たり前になる社会においてこれまで価値を見出されてこなかった「音声」の可能性について紐解いていきます。
第4回~6回では、営業やマーケティング、人材育成など、実際の業務での音声AIの活用法について解説します。今回は、マーケティングや商品開発における「音声データ」の活用例を紹介しましょう。
顧客の声からアイデアを引き出す
これまで顧客の声を直接聞くには、BtoBの商品・サービスの場合は商談に同席したり、BtoCの商品・サービスの場合にはグループインタビューやテストマーケティングを行ったりと、一般的に手間やコストのかかる手法を実施していました。
インターネットでの購買活動が一般的になってからは、アンケートやヒアリングの工数は以前に比べて軽減。しかし、これらの手法はテキストデータによる回答収集にとどまるため、お客様の「本音」や「ニュアンス」を十分に捉えられないという課題がありました。
そこで、商談やユーザーインタビュー、コンタクトセンターなどで交わされるお客様との会話を「音声データ」として蓄積。お客様のパーソナリティやニュアンス、緊急度、温度感を伴う定性・定量データを、工数をかけることなく自動でビッグデータとして収集でき、分析に活用してみるのがいいでしょう。
例えば会話の内容をキーワードで整理することで、見込み客がどのような機能に興味を持ったのか、価格についてどのような反応を示したのかといったことを把握できます。これにより、マーケットインの商品開発やマーケティング施策を実現できるのです。
音声データによる市場ニーズの把握
第3回でも述べたように、収集した音声データや分析結果は、CRMなどの共通プラットフォームに蓄積し、社内部門を横断してデータを収集・共有できる仕組みを作ることが重要です。
CRMがデータリッチになるほど、音声データを聞き直したり、要約を読んだりすることで新たな課題やニーズを見つけ出せます。
マーケティングでは、営業やカスタマーサクセスが取得したお客様の意見や声をふまえて、新たな業界向けにDMやメルマガを出したり、顧客の関心が高いテーマでキャンペーンやセミナーといった次の施策を企画したりできるでしょう。
このような活用の広がりを生み出すためにも、特定部門からの一方通行ではなく、社内の各部門が音声データを集め、共有し、誰もが簡単に使える環境を整えることが重要です。
コールセンターが”マーケティングセンター”に
ある大手金融機関では、これまでプロダクトアウト的に金融商品を提供していました。
しかし、現在はコールセンターでの会話をすべてビッグデータとして収集。それを「クオンツ」と呼ばれる金融商品を組成する担当者やマーケター、営業などに共有することで、マーケットインの発想へ転換を図り始めています。これにより、顧客一人ひとりに合った金融商品の組成やマーケティング、営業活動ができるようになります。
さらに、音声データが蓄積されると、「何月何日何時何分頃にどの地域にどのような提案を行うと顧客価値を最大化できるか」といったデータが明確になります。このデータを基に、自動顧客対応AI、自動営業AI、自動マーケティングAI、自動金融商品生成AIなどの構築も目指せます。
実はいちばん顧客の声が集まる貴重な場が、コールセンターです。このように顧客の声を音声データとして活用することで、コールセンターが「セールスセンター」や「マーケティングセンター」としての機能を持ち、利益を生み出す重要な顧客接点となります。
音声データを商品開発やマーケティングに活かすことで、顧客の声をより深く理解し、精度の高い意思決定ができるようになります。今後、AIの活用が進む中で、音声データを活用することは業務の効率化だけでなく、事業戦略全体の革新にも貢献します。