中東地域は、世界のエネルギー供給の要であり、そこで起きる紛争や緊張は、金融市場、特に為替市場に大きな影響を与えます。2025年6月、アメリカがイランの核施設を攻撃したことで、中東情勢は一気に緊迫化しました。
今回は、この情勢が為替市場に与えた影響を振り返り、今後の見通しについて分かりやすく考察します。
中東情勢が為替市場に与えた影響
1.円安・ドル高の動き
中東で緊張が高まると、為替市場では「有事のドル買い」と呼ばれる現象がしばしば見られます。これは、紛争や政治的、あるいは経済的に不安定な状況下で、投資家が安全資産として米ドルを選好するためです。
2025年6月のアメリカによるイラン攻撃後、ドル円相場は一時146円台から148円近辺まで上昇しました。原油価格の上昇や地政学リスクの高まりを受けて、ドル需要が増加すると見越した結果です。一方、日本は原油のほぼ全量を輸入に依存しており、原油高は貿易赤字の拡大を通じて円安圧力を強めます。
2.従来の「円買い」の変化
これまで、紛争など有事の際には、「リスク回避の円買い」が起こる傾向がありました。これは、日本は世界最大の債権国であり、円が安全資産とみなされていたためです。
しかし近年では、この傾向が弱まっています。日本の貿易赤字が常態化し、エネルギー価格の高騰も相まって、円安要因が優勢となっているためです。実際、2025年6月16日の週には、イスラエルとイランの衝突を受けて一時的な円買いが見られたものの、すぐにドル買いが優勢となり、円安が進行しました。
3.原油価格との連動
中東情勢の緊迫化は、原油価格の高騰を招きます。2025年6月21日 (米国時間)、米軍がイランの核施設を攻撃したことで、ブレント原油先物価格は1週間で急騰し、一時1バレル79ドルまで上昇しました(月初は60ドル台中盤)。これにより、日本の輸入コストが上昇し、円安圧力が増大しました。
一方、アメリカは世界最大の産油国であり、原油高がドル需要を後押しするため、ドル高・円安がさらに強まりました。
4.市場の乱高下
中東情勢に関するニュースは、為替市場に急激な変動をもたらしました。たとえば、6月23日にはドル円が148円台まで上昇した後、イスラエルとイランの停戦期待により143円台まで急落しました。このような値動きは、市場が地政学リスクの不確実性に敏感に反応していることを物語っています。
今後の動向と注目ポイント
1.中東情勢の今後の展開
為替相場の行方は、今後の中東情勢の展開に大きく左右されます。主に以下のシナリオが想定されます。
紛争の鎮静化:イスラエルとイランの停戦合意が継続すれば、原油価格の高騰が収まり、リスク回避姿勢も和らぐことで円安圧力は緩和されるでしょう。実際、トランプ大統領が停戦を発表した際には、ドル円が一時143円台まで下落しました。
紛争の激化:イランが報復に出たり、ホルムズ海峡の封鎖が現実味を帯びたりすれば、原油価格が再び急騰し、円安が加速する可能性があります。この場合、ドル円は地政学リスクの材料だけで150円を超える水準も視野に入ります。
米国の対応:トランプ大統領は外交的解決を模索する姿勢を見せていますが、軍事行動が強化されれば、さらなる「有事のドル買い」が起きる可能性があります。
2.原油価格の影響
原油価格の推移は、為替相場に直接的な影響を与えます。価格上昇が続けば、日本の貿易赤字が拡大し、円安要因となります。一方で、価格が落ち着けば、円安の勢いは弱まるでしょう。今後は、ブレント原油やWTIの動向が注目されます。
3.米国の金融政策
中東情勢によるインフレ圧力が高まれば、米国の利下げは先送りされる可能性があります。2025年6月のFOMC(連邦公開市場委員会)では、早期利下げには慎重な姿勢が示され、ドル高を支える材料となりました。今後は、消費者物価指数(CPI)や生産者物価指数(PPI)といった米国の経済指標が、重要な判断材料となります。
4.日本の経済状況
2025年5月の日本の消費者物価指数(CPI)は前年比3.7%と、2年4カ月ぶりの高い伸びを記録しました。特に食料品価格の上昇が目立ち、今後の原油高がさらに物価を押し上げる可能性があります。
これは日銀にとって利上げの材料となる一方で、地政学リスクが景気に悪影響を及ぼす中での利上げは、きわめて慎重な判断を迫られるでしょう。
個人投資家の方へのアドバイス
中東情勢の影響により、為替市場は不安定な状態が続いています。投資を考えている個人の方は、以下の点に注意してください。
最新情報を常にチェック:中東情勢や原油価格に関するニュースを継続的に確認し、市場の動きを予測する材料を集めましょう。
リスク管理を徹底:為替相場の変動が大きい局面では、損失リスクを抑えるための戦略が欠かせません。
長期的視点を持つ:短期的な値動きに振り回されず、経済の中長期的な流れを意識した投資判断を心がけましょう。
また、円安はガソリンや食料品などの価格上昇を通じて、日々の生活にも影響を与えます。生活費への影響を見越して、家計管理にも目を向けることが大切です。
おわりに
2025年6月の中東情勢緊迫化は、為替市場に大きな波紋を広げました。ドル円は一時148円台まで上昇するなどドル買い・円売りが進行した一方、停戦期待により円高に振れる場面も見られました。
今後は、中東情勢の変動、原油価格、日・米の金融政策、日本経済の動向が為替市場のカギを握ります。情報を的確に把握し、冷静な対応を心がけることが、変動する為替相場においては不可欠です。