格付会社のムーディーズが米国債の格下げを発表しました。しかし既に同業2社は格下げ済みです。また引き下げられたとはいえ、米国債は日本国債よりも上位の格付けです。このため、今後も米国債は4%を超える金利(10年債)を得られる、有力な金融商品の座を維持すると予想されます。米国債の格下げについて、他の国債の格付の比較などを用いて解説します。
ムーディーズが米国債の格下げを発表
5月16日に格付会社のムーディーズが米国債の格下げを発表しました。これまでの「Aaa」から「Aa1」へ1段階引き下げが行われています。ムーディーズの格下げにより、世界3大格付会社の全てが米国債を最上位から引き下げました。
ムーディーズの各国の国債格付け
ムーディーズの新たな国債格付けは以下となっています。
- Aaa → ドイツ、オランダ、オーストラリア、ニュージーランド、スイス、シンガポール、カナダ、EU他
- Aa1 → アメリカ、オーストリア、フィンランド
- Aa2 → 韓国、アラブ首長国連邦(UAE)
- Aa3 → 香港、台湾、イギリス、フランス、サウジアラビア、チェコ、アイルランド他
- A1 → 日本、中国、アイスランド他
国債の最上位格付「Aaa」には手堅い財政運営で知られるドイツなどが並んでいます。なお、日本は「A1」でありアメリカの3段階下となります。
格付けとは?
格付けとは、企業や国などが発行する債券などの信用力を評価した指標です。 信用格付会社(格付機関)により付けられ、債務不履行(デフォルト)を起こす可能性がどの程度あるかを示します。代表的な格付会社には、ムーディーズ、S&P(スタンダード&プアーズ)、フィッチ・レーティングスなどがあります。
格付けは、最も信用力の高い「Aaa」から、投機的水準の「B」や「C」、最も低い「D(デフォルト)」までのランクに分かれています。「A」や「Baa」までは「投資適格」とされ、安定した債券と評価されますが、「Ba1」(ムーディーズの場合、他社はBB)以下になると「投機的(ジャンク)」と見なされ、リスクが高まります。特に国内では内規で「Ba1(BB)」以下の債券には投資できない機関投資家が多いため、債券による資金調達を行う際は「投資適格」の維持が欠かせません。
格付けは投資家にとって、信用リスクの判断材料となります。また、企業や国にとっては、格付けが高いほど低金利で資金調達ができるメリットがある反面、格下げされると資金調達コストが上昇します。
日米ともに財政赤字のため、国家運営に国債の発行は欠かせません。米国債の格下げは、今後の米国政府の資金調達コスト増に直結します。
格下げがあっても米国債に安心して投資できるのか?
近年では個人投資家でも米国債投資を手掛ける方も増えています。ネット証券などでは、手軽に米国債投資が可能です。
米国債の格下げが行われましたが、米国債への投資は今後も続けてよいのでしょうか? 結論から言えば、格下げが行われたものの、米国債への投資は今後も続けられます。これまではドイツと同等の最上位の格付であった米国債は、1段階引き下げられオーストリア、フィンランド並みとなりました。それでも、まだ日本国債の格付よりも上位です。よって、格下げはあったものの米国債はまだ充分投資対象として見ることができます。
機関投資家が投資を見送ることの多い「Ba1」の「投機的(ジャンク)」格付には、アメリカと日本いずれもまだ距離があります。なお、参考までに「Ba1」格付けの国債は以下の国となります。
- ブラジル、モロッコ、アゼルバイジャン他
米10年債の投資で4%台の金利収入が得られる
米国債はムーディーズの格下げが行われましたが、米国債の市場金利である米長期金利にそれ程大きな影響は与えていません。米10年国債の金利はトランプ関税ショック時に一時的に3%台となりましたが、2025年は概ね4%台半ばの水準で推移しています。
日本の10年の個人向け国債の金利が0.84%(25年5月発行、税引前)であり、米国債は日本国債よりも高い金利が得られる金融商品です(ただし為替リスクがある点は注意が必要)。
今回の米国債の格下げに右往左往する必要はない
既にS&P(スタンダード&プアーズ)、フィッチ・レーティングスが米国債を最上位から1段下の格下げにしていたこともあり、ムーディーズの米国債の格下げは金融市場に大きな影響は与えませんでした。今回の米国債引き下げで投資家は右往左往する必要はありません。
ただしトランプ関税ショック時に明らかになったように、米国債の市場金利である米長期金利の動向は世界の金融市場に大きな影響を与えます。ムーディーズの格下げは米長期金利に大きな影響を与えませんでしたが、今回を契機に、米国の長期金利の動向に注意を払うのもよいのではないでしょうか。