アストンマーティンの主力モデルである「ヴァンテージ」。現行型は2018年に登場した通算4代目となるモデルで、2024年2月にマイナーチェンジモデルが発売となっている。最新のヴァンテージはどんな具合なのか。アストンマーティンにとって、どんな位置づけとなるクルマなのか。試乗してきた。
3.5秒で100km/hに達する高性能車に日本で乗る
「ヴァンテージ」のルーツをたどると、かつてはブランドのメインモデルだった「アストンマーティン・V8」の高性能モデル「V8 ヴァンテージ」(1977年)に行き着く。直近の3代目ヴァンテージ(生産期間:2005年~2018年)は今でも街で見かけるし、「ベイビーアストン」という愛称で親しまれ人気を博した。
アストンマーティンの現行ラインアップの中で、今回の試乗車である「ヴァンテージ クーペ」は最も安価に購入できるモデルだ。2,690万円なので使うのに勇気のいる言葉だが、同ブランドにデビューする人でも選びやすい「エントリーモデル」だと言えなくもない。
ただ、ひとたび走り出せば、すぐに「エントリーモデルなんて呼び方をして、すみませんでした」という気持ちになるのは間違いない。
2024年2月のマイナーチェンジで4.0LのV型8気筒ツインターボエンジンには大幅な改良が施された。最高出力は30%(155PS)増の665PS、最大トルクは15%(115Nm)増の800Nmにパワーアップしている。前後重量バランスは50:50の理想的な配分となり、最高速度は325km/h、0-100km/h加速は3.5秒を達成した。このスペックだけでも、尖ったモデルであるということは容易に想像できる。
「圧倒的なパワーや極めて鋭いハンドリング、精緻にチューニングされたフロントエンジン、後輪駆動のシャシーの絶妙なバランスを兼ね備えている」とアストンマーティンが公式に述べていることからもわかるように、チューニングされたシャシーやビルシュタインDTXアダプティブ・ダンパー、21インチのミシュランタイヤを装備したサスペンションシステムを採用するなどして、走りには一層の磨きがかかっている。
乗り心地はどうなのか
実際に乗り込んでみると、着座位置は低く、眺めはとてもレーシー。肌に当たる部分はソフトだが、硬めのバケットシートが全身をしっかりとホールドしてくれる。走り出すと、大音量かつ野太いサウンドが車内に響いてくる。レースシーンを想起させる硬めのブレーキとアクセル、重めでクイックなハンドリングに気分が高揚する。
走行中、路面の段差を乗り越えるとしっかりとした振動が伝わってくる。いわゆる「乗り心地がいいクルマ」であるとは思わないが、全身がホールドされているので安定感は高い。カーブでも安心して操舵に集中することができた。
ヴァンテージは「Wet」「Sport」「Sport +」「Track」の4種類のドライブモードと「Sport」「Sport +」の2種類のステアリング&エキゾーストモードを搭載している。いずれもデフォルトはSportモードだが、これでも十分にエキサイティング。それがSport +ともなれば、ハンドリングは非常にクイックに、アクセルはよりパワフルに変化する。刺激的な走りを堪能したいオーナーにとって、これほど魅力的なクルマはそう多くない。ただ、当然のことだが長時間の運転はかなり体力を消耗しそうだ。
インフォテインメントは改善の余地あり
刷新されたというインフォテイメントシステムは、車両情報がわかりやすく直感的に画面に表示される。ただ、評価が高い他社のモデルと比較すると、このあたりはまだまだ改善の余地がある。
そもそも、ナビに目的地を入力しても、通信の状況が悪いのかコンピューターの処理速度の問題なのか、なかなか案内が始まらない。始まったと思ったら画面がフリーズする、ということもあった。料金所を通過して高速道路を走っているのに、急に一般道の道案内が始まるというシーンも……。
最近はナビの使い勝手を最優先にするオーナーも増えてきている。走りを極めるのと同じくらいの熱量で、インフォテインメントシステムの使い勝手も極めてほしい。「ボンドカー」のイメージが強いアストンマーティンなので、「ハイテク」であることも重要だと思うのだ。
DB12とは違う個性
前に試乗した「DB12」よりも、かなり走りに特化したレーシングマシンに仕上がっていると感じた。同じクーペでも、それぞれに全く別の個性が与えられていることが確認できた。価格はヴァンテージ クーペが2,690万円、DB12 クーペが3,090万円と400万円の差がある。
ヴァンテージはアストンマーティンにとっての「エントリーモデル」だが、レーシングスピリットを存分に堪能できるモデルという位置づけでもある。機会があれば(なかなかないかもしれないが)、ヴァンテージとDB12の両方を比較試乗してみてほしい。どちらを選んでも間違いないが、ヴァンテージならアクセル全開で走りたくなる(?)かもしれない。