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「ジャパニーズウイスキーだから売れる」時代は終焉、富山から世界へ「三郎丸蒸留所」が目指すもの

APR. 13, 2025 10:00
Text : 加賀章喜
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世界的なウイスキーブームが落ち着き「ジャパニーズウイスキーだから売れる」時代が終わろうとしている。ウイスキー業界はいまどんな舵取りが求められているのだろうか。若鶴酒造・三郎丸蒸留所の代表取締役社長CEO 稲垣貴彦氏の意見を伺った。

  • 三郎丸蒸留所を復活させた稲垣貴彦氏

空前のウイスキーブームが続いた20年

新興国での需要の高まりを受け、2000年代後半から世界中でウイスキーブームが巻き起こった。そしてジャパニーズウイスキーは世界的なコンペティションで立て続けに高評価を受け、ジャパニーズウイスキーの存在感が一気に高まる。

これを受け、日本国内でもウイスキー人気は加速する。とくに、サントリーが仕掛けたハイボール需要の喚起、ニッカウヰスキー創業者の竹鶴政孝氏をモデルにしたNHKの連続テレビ小説「マッサン」の影響は大きく、消費者のウイスキーへの関心は嫌が応にも高まった。

こうして世界中でウイスキーが求められ、ジャパニーズウイスキーの需要と供給のバランスは崩壊。とくに熟成年数が記載された製品は小売店の棚から消え、プレミアム価格で取引が行われるようになる。原酒不足も深刻化し、出荷制限も行われた。

ウイスキーブームはこういった過剰な需要とともに、消費者に嗜好の多様化をもたらす。これに応えるべく2010年以降に活発化したのが、シングルモルトのクラフトウイスキーだ。クラフトウイスキーを造る日本国内のウイスキー蒸留所はこの10年で10倍以上に増え、現在では140カ所以上。同時に輸出金額も10年で10倍以上の伸びを見せている。

  • 見学コースにあるモルトウイスキー蒸留所マップ。見学者が訪れたことのある蒸留所にシールを貼っていく

これからの日本産ウイスキー「個性を磨き、業界で支え合う必要性」

だが一方で、ジャパニーズウイスキーの輸出額は2022年の560億円をピークに2年連続で落ち込みを見せ、2024年の輸出額は436億円※となった。それでも酒類の中でもっとも多いが、明らかな変化が見て取れる状況だろう。代表取締役社長CEO 稲垣貴彦氏は現在の状況について、次のように感想を語る。

「ウイスキーって、仕込んでから製品となるまでに時間差がありますので、今後どうなっていくかはわからない面もあります。ひとつ言えることは、もう『ジャパニーズウイスキーだから売れる』という時代ではないということです」(稲垣氏)

いまはジャパニーズウイスキーだから売れるのではなく、蒸留所の個性がちゃんと伝わって売れる時代へと変化しつつある。すでに日本人でもジャパニーズウイスキーにどれだけ種類があるか把握するのが難しいのが現状だ。

「やはりこれからは、スコットランドの蒸留所のように個性をしっかりと持って、その味をきっちりと伝えていくことが求められると思います。ボトラーズとして日本の蒸留所の紹介を海外セミナーで行うことがあるのですが、ほとんどの方は蒸留所の名前すら知らない状態です」(稲垣氏)

そもそも、クラフトウイスキーの蒸留所が盛んに開業しているのは日本に限った話ではなく、ドイツでもフランスでも、中国でもオーストラリアでも同様だ。今後は、世界中の蒸留所との競争が始まっていくことになる。

「スコッチウイスキーは輸出で1兆円ですから、ジャパニーズウイスキーブームとは言っても、輸出額は20分の1の規模です。まだまだポテンシャルはあるので戦略的にプロモートしていかなければなりません」(稲垣氏)

従来、ジャパニーズウイスキーは国内で消費することを前提に造られ、海外で売るという意識は少なかった。しかしここ15年間、ジャパニーズウイスキーが世界的なコンペティションで高く評価され、5大ウイスキーとしても認識されるようになってきている。ジャパニーズウイスキーも海外での確固たるブランド価値を築いていく必要がある。

「日本も従来のあり方から、スコットランドのように互いが支え合うような構造を目指してウイスキー産業の体制づくりを広げていかなければ、元の状態に戻ってしまうんじゃないかと懸念しています」(稲垣氏)

※財務省貿易統計による

  • 「シングルモルト 三郎丸Ⅰ THE MAGICIAN」を手に取る稲垣氏

稲垣氏が注目するウイスキー蒸留所3選

ここで稲垣氏に、現在とくに注目しているジャパニーズウイスキーの蒸留所について伺ってみた。

ひとつ目は、宮崎県の黒木本店・尾鈴山蒸留所だ。

「尾鈴山の黒木さんは同い年なのですが『自分の理想とするスピリッツを造ろうと思ったら、突き詰めるとウイスキーになった』という独自のアプローチをしています。自社農園で麦を育てて、自社で手を使ってモルティングするという、いわば麹のような作り方をしています。麹とモルトの共通点を見いだしたというのがすごく面白くて、従来のウイスキーの枠組みを飛び越えた、唯一無二の蒸留所です。ニューメイクから全く違う個性を持っており、とても刺激を受けています」(稲垣氏)

ふたつ目は、岐阜県の舩坂酒造店・飛騨高山蒸溜所となる。

「僕個人の興味としてですが、やっぱり鋳造製ポットスチル「ZEMON (ゼモン)」が導入されている、飛騨高山蒸溜所を挙げたいと思います。三郎丸はピーテッドウイスキーを造っていますが、飛騨高山蒸溜所はノンピートをメインに造ります。しかも高度1,000mという高地で蒸留しているので、沸騰温度も低くなるんです。全く違った個性になるはずで楽しみです」(稲垣氏)

  • 飛騨高山蒸溜所は、三郎丸蒸留所でも導入されている「ZEMON」をつかってノンピートのウイスキーを造っている

三つ目は、鹿児島県の小正醸造・嘉之助蒸溜所だという。

「最後にディアジオが出資することになった嘉之助蒸溜所です。巨大な外国資本が日本のちいさな蒸溜所に価値を認めたというのは歴史的なことです。それが今後どういった影響をもたらすのか、日本のウイスキー業界をどう変えていくのか。非常に興味があります」(稲垣氏)


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※ 本記事は掲載時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。予めご了承ください。

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