男性不妊や男性機能障害、男性更年期障害といった男性特有の健康課題は、日本社会においてなかなか触れにくい領域といえる。そんなメンズウェルネスの課題に対しデータドリブンなアプローチを行うことで、密かに注目を集めている企業がアルファメイルだ。
男性の健康問題をITで解決するアルファメイル
アルファメイルは、テクノロジーを活用し、男性向けに最新のヘルスケアソリューションを提供している会社だ。女性の抱える健康問題をテクノロジーで解決することを目指したフェムテック(Femtech)の男性版と考えれば分かりやすいだろう。
アルファメイルが提供しているサービスは大きく3つある。ひとつ目は主にLINEを通じて行われる、メンズウェルネスに関する相談。二つ目はメンズウェルネスに関する検査や情報の提供。そして3つ目は、最新の知見に基づいたサプリメントの販売となる。
現在、同社のLINE相談には約4万アカウントが登録しており、毎月1,000アカウントのペースで友だち登録が増えているという。アルファメイルが支持を集めているのはなぜなのか。代表取締役 CEO/サービス開発室 室長の渡邉洋樹氏に伺った。
日本ではメンズヘルスに悩む男性に救いがない
渡邉氏は学生時代を海外で過ごしてきた。ニュージーランドの高校を卒業後に渡米し、カリフォルニア大学バークレー校(UCB)に入学。飛び級によって3年で卒業した後、日本に帰国してNTTドコモに入社した経歴を持つ。NTTドコモでは5年間、事業計画・施策立案、外資製薬会社向けのITコンサルティングなどを担当。そして2018年に一念発起し、自らアルファメイルを設立する。
「アルファメイルの事業を説明すると、基本的には、男性が相談しづらい悩みの解決です。専門家に直接相談できる場を作り、個々のユーザーに合った解決策を提案するというプラットフォームを運営しています」(渡邉氏)
日本人は、世界的に見ても性に関する悩みを抱えている人が多い傾向にある。男性の3人に1人はEDの傾向があるともいわれながらも、内に秘めやすい国民性や理解されにくい男性の立場も相まって、男性が自身のセクシャルウェルネスに向き合える環境に乏しい。
男性不妊やED、セックスレスなどの問題は、友人や家族、パートナーはもちろん、医師にも相談しにくい現状がある。かといってネットで調べても学術的根拠の乏しい情報が前面に出てきがちで、正しい情報に行き着くのも難しい。
海外生活の中で、メンズヘルスケアに真剣に向き合う文化を目の当たりにしてきた渡邉氏は、そんな日本の現状に疑問を感じたという。これが起業のきっかけだった。
「私自身、20代前半で帰国し社会人になり、日本と海外とのカルチャーギャップや多忙な仕事のなかで精神的なストレスを感じ、男性機能面で悩んだ事があるんです。でも、ネットで調べても医療情報は見つからないし、メンズクリニックに行ってもまともに話を聞いてもらえなくて、“救いがない”と感じました。悩んでいる人はたくさんいるはずなのに」(渡邉氏)
フェムテック(Femtech)という言葉はあっても、メンテック(Mentech)のような言葉はいまのところ存在していない。渡邉氏はそんな男性の性の扱いを見直し、ヘルスケア業界におけるメンズヘルスケアのイメージを変えることを目指している。
「メンズヘルスケアといえば更年期男性をイメージするかも知れませんが、当社で働いている社員の多くは20~30代です。メンズヘルスケアを偏見なく捉え、恥ずかしがることなく堂々と取り組める人は、若い方にこそ多いのかもしれませんね」(渡邉氏)
品質・効果・安全性にこだわったサプリメント
アルファメイルの事業の中核は、情報の提供サービスだ。医療とヘルスケアの専門家による対談や健康的なライフスタイルなどのコンテンツを発信している。
同時に、LINEの公式アカウントを窓口とし、薬剤師や睡眠指導士、トレーナー、サプリ専門家などが一対一で直接アドバイスを行っている。とくに営業活動を行ってはいないそうだが、前述したとおり、LINEの友だち登録数は約4万を実現。WebメディアやSNSを通じて着実にユーザーを増やしている。
収益の柱のひとつは、テストステロン(男性ホルモン)分析。テストステロンは男性のヘルスケア全般に影響を与えている。同社は、毛髪から過去数カ月のテストステロン平均値を計測する自宅完結型テストステロン計測キット「テストステロンテスター」を提供しており、その結果を課題解決に活かしている。
もうひとつの柱はサプリメントの販売。大手製薬会社がまだ取り扱っていない原料を、日本のガイドラインに基づいて、どこよりも早く安全に提供していると渡邉氏。
「アルファメイルは、“業界でもっとも優れたプロダクトを開発できたときのみリリースする”というポリシーをもっています。我々の強みは新しい成分へのアクセスが早いことです。十分な臨床データがなければ取り扱わず、原価も他社の約2.5~3倍かけています。だからこそ日本では馴染みのない成分も入っていますが、並行輸入とは異なり、成分調査などをすべてインハウスで行い、日本のルールに基づいて、GMP(適正製造規範)認定を受けた工場で、100%国内製造しています」(渡邉氏)
すでに多くの支持を得ているアルファメイルだが、今後はユーザーとのコンタクトポイントを増やしつつ、より顧客志向のサービスを広げていきたいという。同時に、AGA(男性ホルモン型脱毛症)や男性の睡眠障害といった課題に対するアプローチも進めていくそうだ。
メンズヘルスケアのイメージを変える
この20年間、男性のテストステロンは世界的に減少傾向にある。原因は運動不足とも、食生活とも言われているが、とくに日本の男性に顕著な、いわゆる“草食化”は世界的にもフォーカスされている。そんな日本人男性の現状を変えるためにも、渡邉氏は「社会の理解を変えなければならない」と声を大にして話す。
「三大欲求という言葉があるように、性とは、食や睡眠と同じように真剣に向き合うべきテーマです。恥ずかしい、汚いといったイメージで放置してよいものでは決してありません。やはり、困ったときに相談できない環境を一番変えなければならないと思っています。医療とヘルスケアの境目はだれもが捉えにくいので、まずはメンズヘルスケア業界のイメージを改善し、専門家へアクセスしやすくしなくてはなりません」(渡邉氏)
アルファメイルは将来的な姿として、ヘルスケアと医療の融合を実現したうえでの上場を目指しているという。可能な限り副作用のリスクのある治療に頼らず、パーソナライズされたソリューションを提供することで、日本人男性のQoLを高めるという狙いだ。
「海外では、メンズヘルスケア分野で上場した企業がすでにあります。しかし、日本ではまだまだ一般化していません。メンズウェルネスは不妊問題、ひいては少子化問題にも繋がります。性がテーマになると及び腰になる方は多いのですが、だれかがやらないといけない大きな課題です。我々の思いに賛同してくれる人がいましたら、ぜひ一緒にお仕事をしたいと思います」(渡邉氏)