2006年にスイス・ジュネーヴで創業した高級腕時計ブランド「パーネル」。超複雑機構といわれる「トゥールビヨン」の腕時計を専門とする非常に珍しいブランドです。今回はパーネルを間近で見る機会を得たので、どんな腕時計なのかじっくりと観察してきました。
トゥールビヨンしか作らない?
腕時計ブランドのパーネルは、2006年にスイス・ジュネーヴでジョナサン・パーネル氏が創業しました。今でも現存していて人気のある時計ブランドの多くが1700~1800年代にはすでに存在していたことを考えると、創業から20年足らずというのは「超」新進気鋭の新興ブランドといえるでしょう。
他の時計ブランドと大きく異なるのは、超複雑機構「トゥールビヨン」を搭載した時計のみを生産するために創業したという点です。
そもそもトゥールビヨンとは機械式時計の機能のひとつです。腕時計を装着したときの姿勢差のズレを解消する機構で、フランス語の「渦」に由来しています。トゥールビヨンは数々の発明を成し遂げた天才時計師のアブラアン・ルイ・ブレゲ氏(1747-1823)によって1801年に誕生しています。
こちらは昨年末に新作として発表されたブレゲの「クラシック トゥールビヨン 3358」というモデルです。本来、トゥールビヨンは補正機構である以上、見せる必要はありません。ただ、各メーカーはその造形の美しさを伝えるため、動きを見て楽しんでもらうため、あえて文字盤から見えるようにデザインしています
このトゥールビヨンを作れるブランドは非常に少なく、歴史あるメーカーでも高い技術力を有していなければ作ることはできません。仮に作れたとしても、途方もない時間と手間がかかるため、安くても数百万円(タグ・ホイヤーのトゥールビヨンだと480万円ほど)から、高ければ数千万円はくだらない超高級腕時計となっています。
パーネルはこのトゥールビヨンの腕時計を作るために創業したというのですから、いかに異質なブランドであるかがおわかりいただけると思います。
世界で5本しか存在しない?
今回、実機を見ることができたパーネルの腕時計は、デザイナー細川雄太氏が手がけるファッションブランド「レディメイド」とのコラボレーションで誕生した「エスケープ Ⅱ サファイア」(ESCAPE Ⅱ SAPPHIRE)というモデルです。世界5本限定で、世界初となるバイカラーの多軸トゥールビヨンと12個のバゲットカットダイヤモンド、そして47色の手書きレインボーカラーが鮮やかなゼンマイが特徴です。
文字盤の下半分には、世界最速となる3軸ジャイロトゥールビヨン2基を搭載しています。3軸が高速で回転することで、重力の影響を最小化できるという機構です。少々難しい話になってきましたが、つまり、人が作れる限界ギリギリの、究極の機構を搭載しているといっても過言ではないのです。
今回、プレス向けにパーネルの実機を披露してくれたのは、腕時計などのブランド品の売買を手がける「陽吉」という企業です。担当者によると、「世界に5本しかありませんが、おそらく公開時点では、日本国内には当社が所有する1本しか存在していないと思います。5本のうち残りの4本は、誰もが知る有名人や富豪が所有していると聞いています」とのことです。
レディメイドの細川氏は、「反戦のメッセージを込め、希望や未来への架け橋という意味を持つ虹色を使用した」とコメントしています。その言葉通り、腕時計としては鮮やかで明るい雰囲気に仕上がっていました。
陽吉によると「エスケープ Ⅱ サファイア」は個人から買い取ったものだそうで、現在の取引価格は2億3,000万円ほど。すでに1億円近く相場が上昇しているようです。今後はさらに高騰していくことも予想されるそうで、まさに持ち運べる“億ション”といった感じです。
パーネルは知名度こそあまり高くないかもしれませんが、どの腕時計ブランドもマネのできない超絶技巧を持っていることは間違いありません。今後も多くの時計愛好家を超絶技巧と斬新なパッケージで驚かせてくれるはずです。ただ、たとえ億超えの時計が手に入ったとしても、腕に付けて街を歩くのはちょっと怖いので遠慮したいところですね。