高級腕時計のオンライン販売などを手掛け、創業からわずか3年で年商900億円目前と破竹の勢いを示すブランド専門店「陽吉」が、東京都・銀座に初の実店舗となる「陽吉 Store 銀座店」をオープンしました。独自の経営戦略で急成長している陽吉に高級腕時計のトレンドと今後の展望を聞きました。
腕時計は資産価値を意識して買う時代?
「日本の高級時計市場の概要、業界成長率、調査レポート 2024-2032」によると、2024年に1兆円だった高級時計の市場規模は2028年に1.2兆円、2033年には1.5兆円に拡大する見通しとなっています。インフレの傾向が強まる現代において、高級時計は“持ち運べる資産”としての価値や魅力があらためて見直されています。
ブランド品の買い取りや販売を手がける「陽吉グループ」は、今後も高級時計の人気は継続していくと分析しています。トレンドとなっているのは、ずばり資産価値の高い腕時計。例えばロレックスに代表されるようなスイスの時計ブランドは、品質の高さもさることながら、飽きのこないシンプルなデザインで永久定番ともいえるモデルが多数存在しています。
さらに、近年では金の価格が高騰していることもあって、ステンレススチールではなく金素材を使用した時計が資産価値という意味でも人気を集めています。金の腕時計を身につけることに抵抗がなくなってきたと答える若い世代も増えているそうです。資産価値の面からだけではなく、個性を表現するツールとしても高級時計が注目されているのです。
こうした状況の中、陽吉グループは独自のノウハウと経営戦略で売り上げを伸ばしてきました。創業した2021年には5,300万円だった売上高が、2024年には900億円目前まできているというから驚きです。わずか3年でここまでの急成長を遂げた理由は? 陽吉グループ代表取締役の吉山亨さんは次のように話します。
「高級時計の価格は、業者間だけで暗黙の利益率を弾き出して値付けを行うという、極めて不透明な商習慣が当たり前になっています。そこに疑問を感じました。そこでわれわれは、業界ではまったくといっていいほど浸透していなかった独自の売買方法を実践してきました。SNSを駆使した売買戦略です」(以下、カッコ内は吉山さんの発言)
経営戦略は「空中戦」で攻める?
腕時計は新品で購入する「1次流通」のほかに、個人所有の高級時計の売買であったり、国内のバイヤーが海外で買い付けた新品を販売するなどの「2次流通」が成熟しています。買い取り業者間で利益が出るように、個人から安く高級時計を買い取っている可能性も否定できないわけです。
陽吉グループはインスタグラムやYouTube、XなどのSNSを駆使して、高級時計を個人から直接買い取るSNS集客を実践し、成長してきたというのです。
吉山さんは「店舗での売買を地上戦とするなら、SNSでの売買をわれわれは空中戦と呼んでいます」と独自の戦略を話します。
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発表会の途中、吉山さん愛用の腕時計も紹介されました。世界三大時計の一角を占めるパテック・フィリップの「ノーチラス」(ホワイトゴールド製)というモデルです。入手困難でプレ値が続いているレアな1本ですが、使いやすくとても重宝していると話していました。筆者調べでは定価は1,052万7,000円ですが、2次流通では2,300万円くらい出さないと買えないようです
SNSを使った空中戦を展開しているからこそ、高級時計の販売価格を抑えることが可能だと言います。
「自社でSNSを運用して集客することで、広告費、写真撮影費、マーケティング費用などの販促・広告費を徹底的に抑えました。買い取った時計をわれわれがSNSで販売するため、仲介業者も存在しません。買い取り金額を最大限にまで引き上げることも、販売価格を最小限まで引き下げることも可能になりました」
成功の秘訣は「透明性」の高さなのかもしれません。
「いくらで買い取っていくらで販売するのかといった、通常の2次流通の店舗では絶対に知りえない情報をオープンにすることで、業界の透明化、お客様との信頼関係の構築に成功したと思っています」
実店舗を開設する理由は?
陽吉グループは創業3年目にして銀座に実店舗「陽吉 Store 銀座店」を開店しました。この動き、これまで業界があまり取り組んでいなかった“空中戦”から、従来のやり方である“地上戦”に戻ったようにも感じます。
これについて吉山さんは、「これまで陽吉では、オフィスに個人や業者を招いたり、郵送で送ってもらったりして時計を売買していました。ただ、オフィスだと不安を感じるというお客様もいらっしゃいました。実店舗がなければ、より高い信頼を得るのは限界があると感じました」と話します。
空中戦を主戦場としながらも、実店舗を構えることで信頼性を高め、SNSを使わないユーザーとのつながりも構築する。そのための店舗展開だといいます。
今後の展望は? 吉山さんの考えは以下の通りです。
「2026年の売上予測は1,300億円、2030年には2,000億円の達成を目指しています。それに合わせて、2030年までには15店舗を展開したいと考えています。銀座を起点に日本全国、いずれは海外にも規模を拡大したいですね」
高級時計の役割は時間を知ることだけではありません。収集することに喜びを感じるコレクターもいれば、資産価値を考慮し、投資するように時計を購入する人もいます。楽しみ方は多種多様です。特にコロナ禍以降は、現金を腕時計に変えて資産として保有する人が急増しました。陽吉グループはこの高級時計ブームの波に乗り、今後も成長していきたいと意気込んでいました。