世界的に続いている日本酒ブーム。さまざまな銘柄がひしめくなか、“淡麗辛口”というスタイルでブームを牽引しているブランドが朝日酒造の「久保田」である。
そんな久保田を、旬の会席料理とともに“熱燗”で味わえるスペシャルイベントが1月27日に開催された。会場となったのは、赤坂の繁華街からやや離れた住宅街に佇む和食料理の名店「赤坂 渡なべ」。今回はそんな特別な一夜の全貌をお届けしたい。
久保田」を熱燗で楽しむスペシャルなペアリングイベント開催!
今年、誕生40周年を迎えた朝日酒造「久保田」。日本屈指の知名度を誇るトップブランドのひとつで、なんと現在では17種類もの銘柄をラインナップしている。もともとは1830年、「久保田屋」の屋号で酒造りをスタートし、まもなく200年の歴史を数えようという超老舗だ。
そんな朝日酒造が今回、タッグを組んだのは赤坂の名店「赤坂 渡なべ」。ミシュラン東京2024、2025の「セレクテッドレストラン」に2年連続で選ばれた、今もっとも勢いのある和食料理店のひとつである。
このコラボイベントは昨年11月末にも行われており、次回開催は3月に控えている。今回のテーマは「熱燗とのペアリング」で、久保田の「萬寿」「千寿」シリーズの熱燗に合った特別会席コースを店主の渡邉さんが作ってくれる内容となっている。定員は12名、会費は2万2,000円。
前肴とのペアリングは「久保田 千寿 吟醸生原酒」で、まずは氷を入れたロックスタイルでスタート。
原酒ということで、アルコール度数は19度と高め。酒匠の佐藤さんによると、「これは私の考えですが、温かいものが“お燗”というわけではない。すごく冷たくしてもいいし、ロックでもいい。温度変化できるのが“お燗”だと私は思っています」とのことである。
さらに、「特に飲み慣れない方は、ちょっと氷を入れるだけで非常に味わいが広がってくると思います。揚げ物などと合わせてお楽しみください」とのアドバイスも。
実際、新潟銘菓「柿の種」の衣を纏わせたあんこうの唐揚げとともに味わってみたが、吟醸香がするキリッと冷えた生原酒があんこうの旨味を広げ、フレッシュな口当たりで油をさっぱりとさせてくれる。すごく合う。
あん肝の奈良漬け添えは新潟の銘菓「ハッピーターン」に合わせて。意外すぎる組み合わせだが、あん肝の旨味溢れる深いコクがハッピーターンの甘じょっぱさと絶妙にマッチする。これもやはりロックで飲む生原酒と相性抜群だ。
続いて同じ「久保田 千寿 吟醸生原酒」が“飛び切り燗”で到着。70度まで上げたという。「度数が強く、中途半端な温かさだとアルコール感が強くなってしまうので、高温にして一気にそれを取りました。熱々の状態で茶碗蒸しと合わせてください。温かい料理には、温かい日本酒が合います」と佐藤さん。
飛び切り燗で飲む生原酒はロックのそれとはまるで違った表情をみせる。香り高いが、どこかライトだ。ナマコの内臓の塩辛“このわた”を使った茶碗蒸しと最高に相性が良く、このわたの濃厚な磯の香りが口の中に広がっていく。
後肴にはお店の名物「からすみドリア」が用意された。ペアリングは久保田の最高峰「久保田 萬寿 自社酵母仕込」を常温で。このわたに並ぶ日本三大珍味のひとつ、からすみの熟成したチーズのような風味と旨味に、萬寿ならではの重層的でエレガントな風味がマッチする。
佐藤さんいわく、「久保田の萬寿の自社酵母仕込は単体で美味すぎるので、逆に食事とは合いにくい。でも、魚卵系は味が強いので今回、合わせてみました」。魚卵に唯一合う酒が日本酒と言われているようだが、確かに最高級の酒&魚卵珍味のペアリングは唯一無二のマリアージュを醸しているようだ。
新潟のブランド豚「純白のビアンカ」のごま和えと「久保田 千寿」の熱燗のペアリング。豚肉の甘み・旨味と白ごまの芳醇な風味がキレのある千寿と実に好相性である。それより驚いたのが……
お燗の出汁割りである。
「こちらは一番出汁で、昆布と鰹節、めじ節(まぐろ節)をブレンドしています。今日はお酒の出汁割りに合うように、少し濃いめのお出汁でご用意しております。出汁に対して、4分の1の量のお燗を入れてください」(渡邉さん)
合わせたのはこちらも「久保田 千寿」で、これが唸るしかないほどのクオリティの高さだった。出汁のクリアながら強烈な旨味に千寿の風味がまろやかに溶け込み、体に染み渡っていく。
「久保田 千寿 純米吟醸」はお造里とともに。チャイロマルハタにはお燗、アオリイカには常温がおすすめとのことだ。ちなみに、刺し身に柑橘を絞ることで、日本酒にはない“酢酸”の要素が加わり、より全方位的なペアリングが生まれるという。
富山県氷見の天然寒鰤は湯霜で、大根おろしと芽葱、柚子胡椒おろしぽんずあんを添えて「久保田 千寿 純米吟醸」とペアリング。ほのかな酸味と芽葱のピリッとした苦みが純米吟醸酒の旨味と見事に混じり合う。
焼肴の「鰆炭火焼き 海老芋 ふきみそ 酢橘」には再び「久保田 千寿 吟醸生原酒」を。そして……
「ずわいがに 柚子釜みそ焼き」には「久保田 萬寿 自社酵母仕込」が再度登場。
煮肴の「聖護院かぶら 大黒しめじ 九条葱 かき 羽太 生姜」には、この日初めてとなる「久保田 萬寿」が登場。70度まで温めたお燗の華やかでふくらみのあるやわらかな味わいが、出汁のきいた煮肴の優しく繊細な味わいと完璧にリンクする。
残った出汁には「久保田 萬寿」を入れて再び出汁割りに。
食事は「鰤大根と芹の炊き込み御飯 蜆赤だし 香」。新潟県関川村でとれたお米を使っているそうだ。傍らには安定の「久保田 千寿」をセッティング。
ラストの甘味まで一切抜かりがない。「道明寺椿もち 甘酒アフォガード」のコンビで、久保田の酒粕から作った甘酒を……
チョコレートのアフォガードにかける。
これが脅威のマリアージュを発揮。甘酒の自然な米の甘さと酒の風味がビターなチョコレートの味わいと完璧に調和している。道明寺椿もちのあんこも、ペアリングで出された常温の「久保田 萬寿」と意外なほどの相性の良さをみせてくれた。
そもそも熱燗という発想とは縁遠い位置にあったはずの「久保田」だが、飲み方と合わせ方次第でここまで美味しく、そして新鮮に味わえるとは、その引き出しの深さに恐れ入るばかりである。
次回のコラボイベントは3月24日で、「お花見」をテーマに行われるという。チケットは2月17日にPeatixにて販売されるとのことだ。ぜひ、久保田と和食の無限の可能性を探りに、赤坂を訪れてみてほしい。