NHKの連続テレビ小説『虎に翼』に登場した"山の境界線"を巡る問題。主人公の寅子が調停を担当したことで記憶に残っている方も多いと思います。土地や不動産にまつわるトラブルは、相続にもつきもの。今回は、トラブルになりやすい『農地の転用と境界線問題』について解説します。

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突然親からふってくる「土地・不動産」問題

こんにちは、行政書士の木村早苗です。ひさしぶりに実家に帰省したら、ご両親に「近所の親戚から土地を駐車場に貸してほしいと言われてさ」だとか「もう米作りも辞めたし家でも建てたらどう?」なんて相談を受けたことはありませんか。

土地や不動産に関する相談は、子の世代にはいつも突然やってきます。地方から都会に出ている方ならなおのこと。親はずっと考えているのでしょうけど、顔を見るのを待ち望んだように突然話し始めるんですよね。

この場合、後者は水田なので絶対ですが、前者の土地も農地であれば「農地転用」の手続きが必要です。

「農地」は勝手に転用・売買できない

「農地転用」とは、自分の農地を駐車場や宅地など農地以外に使うことです。本来、土地も私有財産なので使い方も売買も自由であるはずです。しかし農地だけは「農地の保全」や「農業生産力の維持」を理由として「農地法」により利用や売買が制限されています。

第64条 次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の拘禁刑又は三百万円以下の罰金に処する。

この「各号」は、たとえば「第4条1号 農地を農地以外のものにする者は、都道府県知事~(略)~の許可を受けなければならない」などが含まれ、無断転用の禁止を示しています。

ということで、もしご両親に頼まれて農地以外の何かにするのであれば、まず行うべきは市役所や町役場への相談予約です。住民票の発行などと違い、農地転用のような許認可は突然行ってもやってくれません。

まず日程を決め、相談に必要な土地の資料を揃えてから各自治体窓口(※1)を訪れ、転用できる土地か、転用にはどんな手続きが必要か、などを確認しなければなりません。

最初の相談で必要な書類
(1)農地の所在と地番(場所)・地目(用途)・地積(面積)・所有者がわかる「登記事項証明書」
(2)農地の形と周囲の位置関係を示す「公図」
(3)固定資産税の「課税証明書」か「名寄帳」
(4)農地周辺の住宅分布を確認する「住宅地図のコピー」

農地の転用で注意したいのが「境界線」

今回申請の詳細は省きますが、書類の中で特に注目してほしいことがあります。それは、「登記事項証明書」と「公図」からわかる土地の境界線です。

「登記事項証明書」は法務局で出してくれますが、地目が現況と違う場合や境界線がはっきりしないことがあります。地番確認の際に気づかれた時は、すぐ土地家屋調査士に依頼し、境界線を確定させてください。

なぜそこまでする必要があるかというと、相続した土地が後々、トラブルに巻き込まれる恐れがあるからです。例えば境界線が曖昧なまま家を建て、完成後に隣地を超えていることが分かり、訴訟になったケースもあります。お隣の方と和解できれば幸いですが、そういかないことだってもちろんあります。その場合、新築云々に関係なく更地にする原状復帰が基本の対応。もしものとき、安心して相続してもらうために、境界線の確定は必須の手続きなのです。

境界線を確定させる流れとしては、土地の物理的な測量に加えて、測量後に隣地所有者による「立ち会い」も行われます。自治体が所有する側溝や道路などに面している場合は、管轄行政地の担当者も含めた「官民立ち会い」になるため、さらに時間と費用がかかります。

立ち会いでは、土地家屋調査士の作った測量図を元に、ご本人だけでなく隣接地の所有者が全員集まり、境界線を確かめた上で署名と捺印を行って公式な境界を確定します。行政担当が参加する場合はその日程調整に1カ月半ほど必要な自治体もあるので、何らかの期限がある場合は注意が必要です。

出費も増えてしまいますが、その後のトラブルを避けるためにも必ず行ってください。

関東・中部・北陸・近畿出身者は特にご注意を

昭和26年から行われている国による地籍調査(※2)は、現時点で国土の53%。都道府県別の進捗差も大きく、関東・中部・北陸・近畿で大幅に遅れていることがわかります。筆者の住む滋賀県も調査が遅れている地域ですが、どうやら県の15%にも達していないようです。

  • 地籍調査進捗率(令和5年度末時点、令和6年6月調べ)/国土交通省『全国の地籍調査の実施状況』より引用

そう考えると、地籍調査が遅れている地域や山間地に故郷がある方ほど、自分で地積測量を行わなければならない可能性が出てきます。どんなことでも体力が落ちてからでは億劫になるばかり。ご両親とも協力し、早いうちに解決しておくことをオススメします。

(※1)市役所内の「農業委員会事務局」などが多い。名称が異なる地域もあるので該当地を管轄する自治体にご確認ください。
(※2)市町村が行う一筆ごとの土地の所有者、地番、地目を調査し、境界の位置と面積を測量する調査