アサヒビールとニッカウヰスキーは、本年創業90周年を迎えるニッカウヰスキーの洋酒事業を強化するのに先駆け、「ニッカウヰスキー 創業90周年方針説明会」を開催。創業90周年記念商品をはじめとする創業90周年に関する施策や展開についてを発表した。
●ニッカウヰスキーは重要な戦略子会社
「ニッカウヰスキーは、アサビヒールにとって、洋酒・スピリッツ事業を一手に担っている、大変重要な戦略子会社」という、アサヒビール 代表取締役社長の松山一雄氏。実際、アサヒビールが注力する領域として、年初会見において発表された「ビール強化」「スマートドリンキング」「High-Value」「業務用市場」「ニッカウヰスキー」の5つにおいて、後半3つがニッカウヰスキーの事業に直結している。
アサヒビール全体の2024年の事業方針は「もっともっと、面白くなる。アサヒビール」。嗜好品の業界として、「お客様にもっとワクワクするような商品であったり、コンセプトであったり、もしくは、ブランド体験の場、そういったものをどんどん提供していくのが我々のミッション」という松山氏は、その中でも「既存事業の価値向上」と「新市場・新価値の創造」を重視。その点においても、「ニッカウヰスキーの創業90周年は、私たちにとって大変重要な年」と強調する。
ニッカウヰスキーの昨年度売上状況をみると、海外市場では在庫状況などの問題で一時的に売上が伸び悩んだが、基本的には増加傾向で10年前と比べると約2倍へと成長している。日本国内においても、コロナ禍によって減少したものの2023年にはコロナ前の2019年を上回っており、こちらも堅調に伸長している。
一方、ウイスキー市場全体を見ても、全世界でウイスキーの消費が拡大。特に付加価値の高い“プレミアム”カテゴリーが堅調で、高価格帯の商品が伸びている。さらに、ジャパニーズウイスキーの販売量も年々拡大しており、ジャパニーズウイスキー、ひいてはニッカに対するニーズや価値も高まっているという。
かつて日本国内のウイスキー市場はかなり冷え込んでおり、在庫の山になっていたと振り返る松山氏。当時は焼酎などの多角化で乗り切ったものの、その影響もあり設備投資に関してはあまり攻めきれていなかったという。そのためグローバル市場においてジャパニーズウイスキーやニッカに対するニーズが高まるなか、対応できる供給能力を準備できていないのが大きな課題となっている。
そこで「ニッカウヰスキーの志(こころざし)」として、「プレミアムウイスキーカテゴリーでグローバルトップ10を目指す」という目標を掲げ、ビジネスの確立を狙っていくという。現状では40~50位相当であり、「非常に高い目標であることを理解したうえで」と前置きしつつ、「ニッカウヰスキーの目指すべきゴール」として設定。プレミアムセグメントではエイジングも重要となるが、現時点では原酒が不足しているため、短期的な目標ではなく、あくまでも中・長期的な目標で「これを目指して攻めていこうという意思表明」だと語った。
なお、ウイスキーにおけるプレミアムカテゴリーは、一瓶(700ml)あたり2,001円以上の商品が該当し、さらに5,000円を超える商品は「プレステージ」と呼ばれる。このプレステージも含めた「プレミアム」カテゴリーでしっかりと戦っていくために、ニッカウヰスキーでは生産数量の拡大を目指すため設備投資を増強。2019~2021年には、約65億円をかけて貯蔵庫の新設や蒸溜設備を増強したが、さらに約60億円をかけて樽貯蔵庫の新設などが実施される。「当然これでも足りない」という松山氏は、2025年以降も継続して設備投資を行い、グローバルのトップ10を目指せる環境を整えていくとの展望を明かした。
●新コミュニケーション・コンセプト「生きるを愉しむウイスキー」
続いて、ニッカウヰスキー 代表取締役社長の爲定一智氏が登壇。日本のウイスキーの父と呼ばれる、ニッカウヰスキーの創業者・竹鶴政孝氏の足跡を追いながら、「ひとりでも多くの人に、本物のウイスキーを飲んでもらいたい」という竹鶴氏の想いを受け継ぎ、90年にわたって挑戦を続けてきたと振り返る。
爲定氏は、ニッカウヰスキーならではの強みとして、竹鶴氏から受け継いだ「パイオニア精神」に加えて、「蒸溜所のテロワール」を挙げる。「ウイスキーは長い年月をかけてできるものなので、周囲の自然環境の影響を大きく受ける」ことから、ニッカウヰスキーでは、北海道の余市や宮城峡、さらにはスコットランドのベン・ネヴィスにおいてウイスキーの製造を行っているが、それぞれ地形や気候が異なっていることが、原酒ごとの豊かな個性を生み出しているという。
さらに「卓越した技術」として、個性の異なる原酒を調和させるブレンドの技術、樽を丹念に仕上げる技術などを挙げる爲定氏だが、「ウイスキーづくりに必要な技術は、経験により蓄積されるものが多く、一朝一夕で身につくものではありません」とし、「創業者からこれらの技と志を受け継ぎ、品質にこだわったウイスキーづくりを繋いできたからこそ、今のニッカウヰスキーがある」との見解を示した。
創業90周年を迎えるにあたり、これまでの強みを活かし、ニッカブランドの魅力やウイスキーの愉しみ方をさらに多くの人に伝えていくために、「生きるを愉しむウイスキー」という新たなコミュニケーション・コンセプトを策定。さらに、「ニッカウヰスキーとしての宣言(マニュフェスト)」を掲げ、ニッカウヰスキーのあるべき姿を示していくという。
また「ウイスキーの持つ個性や多様な愉しみ方を通して、人生そのものを愉しんでほしい」という想いを発信していくため、シンガーソングライターであり俳優の福山雅治氏をスペシャルアンバサダーに起用。福山氏は国内のアンバサダーとして活動していく予定で、詳細についてはあらためて発表される。
さらに、創業90周年記念商品として「ザ・ニッカ ナイン ディケイズ」を創業記念日の7月2日に2,000本(日本:1,000本/海外:1,000本)と10月に2,000本(日本:1,000本/海外:1,000本)の計4,000本を2回に分けて数量限定で発売する。「ナイン ディケイズ」は、1940年代から2020年代まで、9つの年代に渡る多彩な原酒を使ったブレンデッドウイスキー。余市蒸溜所や宮城峡蒸溜所に現存する最古のモルト原酒、今はなき西宮工場で作られた長期熟成のグレーン原酒、さらには門司工場とさつま司蒸溜蔵のグレーン原酒やベン・ネヴィスのモルト原酒など、ニッカウヰスキーの多種多様な原酒を使用したものとなっている。
一般的に、ウイスキーは熟成年数が長いほど高級で、価値の高いと思われがち。しかし「ナイン ディケイズ」は、「従来のエイジングに対するイメージにとらわれず、各年代の多様な原酒をブレンドすることによって、ニッカウヰスキーの90年の歩みを表現した渾身の一品になっております」とその仕上がりに自信を覗かせる。なお、「ナイン ディケイズ」では、木製の化粧箱が使用されるが、内側には鏡が取り付けられており、左側は受け継がれてきた歴史、右側は未来への挑戦を表現。「ナイン ディケンズ」はあくまでも90周年の限定品となっているが、「これ以外にも新ブランドの開発や既存ブランドの新たな提案に取り組んでいく」と爲定氏は予告する。
さらに、ニッカウヰスキーが目指す世界観を体験できる場を国内外で展開し、日本国内では都内にコンセプトバーを7~12月に期間限定でオープン。店内では実際にウイスキーを愉しめるほか、コンセプトを体感できる展示も予定されている。そして、海外では7月以降、ロンドンやパリ、ローマ、ニューヨークなどのバーで、90周年を記念するイベントやオリジナルカクテルの展開が計画されている。
これらのコンセプトバーでは、ニッカウヰスキーの新たな価値を体感できる様々なドリンクを提供。ニッカウヰスキーの欧州アンバサダーであるスタニスラヴ氏が考案したオリジナルカクテルも提供される。オリジナルカクテルは「ニッカ セッション」をベースにしたもので、ウイスキーの新たな魅力を感じることができるユニークなカクテルに仕上がっているという。
また、これまでから世界的なバーイベントの公式スポンサーを務めてきたニッカウヰスキーだが、引き続きスポンサーシップにも注力。「グローバル規模のイベントにスポンサーとして参加することで、イベントに参加している世界のトップバーテンダーやお客様に、ニッカブランドの魅力を知っていただく機会を作っていく」とした。
「創業者・竹鶴政孝から受け継いた、品質にこだわったウイスキーづくりを土台として、継続的に設備投資をしていくことで、製造能力を増やし、ユニークな商品の開発や多彩な愉しみ方の提案をしていくことによって、『生きるを愉しむウイスキー』を皆さまに届けていきたい」という爲定氏。将来的にはプレミアム以上のレンジで、グローバルトップ10入りすることを志とする上で、「志なので期限は設けていませんが、今のお客様が欲しいという商品が手に入らないという状況はできるだけ早く解消していきたい」とし、「原酒製造能力の増強と原酒バランスの最適化、これを並行して進めていきたい」との展望を明かした。
●9つの年代、150種類以上の原酒をブレンド
続いて、ニッカウヰスキー チーフブレンダーの尾崎裕美氏が、創業90周年を記念して発売される「ザ・ニッカ ナイン ディケイズ」の詳細を紹介するのに先立ち、あらためてニッカウヰスキーの歴史を振り返る。
ニッカウヰスキーの歴史は、創業者・竹鶴政孝氏の理想とするウイスキーづくりに即したもので、まずは「スコットランドと似た、冷涼で湿潤な環境でウイスキーを作りたい」という想いから、1934年に北海道の余市に蒸溜所を設立。そして、「タイプの異なる複数のモルトウイスキーを作りたい」という想いから、1969年に宮城峡蒸溜所が設立された。宮城峡は余市と同じく非常に冷涼で湿潤な環境だが、余市が海沿いであるのに対して、宮城峡は森に囲まれた山の中。環境がまったく異なっているため、製造される原酒も異なったタイプになるという。そして、「おいしいブレンデッドウイスキーを作るために、カフェ式蒸溜機で作ったグレーンウイスキーを作りたい」という想いから、西宮工場にカフェ式連続式蒸溜機を導入し、1964年に本格稼働。この蒸留機は1999年に宮城峡蒸溜所に移設されている。
こうした、様々なタイプのウイスキーをつくりたいという竹鶴氏の想いを受け継ぎ、1989年にはスコットランドのベン・ネヴィス蒸溜所をグループ会社に迎え、2017年にはおもに大麦焼酎を作っていた福岡県の門司工場で新たにグレーンウイスキーの製造を開始。さらに2018年には、おもに芋焼酎を作っている鹿児島県のさつま司蒸溜蔵でグレーンウイスキーの製造を開始している。
ニッカウヰスキーで作られている様々な原酒を知ってもらうために、2021年から展開されているのが「ニッカ ディスカバリーシリーズ」。2021年は「原料の多様性」、2022年は「酵母の多様性」、2023年は「グレーン原酒の多様性」をテーマにした商品が限定発売されたが、90周年を記念して、2024年に発売される「ザ・ニッカ ナイン ディケイズ」は、その集大成になるという。
「ナイン ディケイズ」は、余市、宮城峡、ベン・ネヴィスのモルト原酒のほかに、西宮、宮城峡で作られたコーンを原料としたカフェグレーンやカフェモルト原酒、さらには門司工場の大麦グレーン、さつま司の大麦グレーンやコーン&ライ麦グレーンを使用。さらに、「ナイン ディケイズ」ということで、10年を単位に1940年代から2020年代まで9つの年代で作られた原酒がブレンドされている。古いものでは1945年に余市で製造されたモルト原酒も使用されており、ピートの強度や樽の種類、酵母のタイプを変えることによって多彩に作り分けられた150種類以上の原酒をブレンド。グレーンとモルトをブレンドするブレンデッドウイスキーは、一般的にグレーンの比率が高いものが多くなっているが、「ナイン ディケイズ」は、モルト原酒の比率が高い、モルトベースのブレンデッドウイスキーとなっている。
「ナイン ディケイズ」の香りから感じられる、アップルパイやレーズンのような濃密な甘さは、おもにシェリー樽の原酒から由来したもの。シェリー樽原酒としては、余市、宮城峡、さらにはベン・ネヴィスのシェリー樽原酒が使用されている。そして、トーストを思わせるような香ばしい樽熟成香は、一般的なアメリカンホワイトオーク、ジャパニーズオークといわれるミズナラ、ヨーロピアンオークなどを使った新樽原酒からのものとなっている。また、ピート由来の穏やかなスモーキーさに加えて、1940年代、50年代、60年代といった古酒が使われていることから、アンティークな家具のような、どこか懐かしいレトロな木の香りが感じられる。
こうした個性豊かな原酒をブレンドすることによって、それぞれを繋あわせているのが、まろやかで柔らかい、カフェグレーンなどのグレーン原酒。そこに、門司やさつま司で製造された新たな個性のあるグレーン原酒をブレンドすることによって、エッジを立て、輪郭をはっきりとさせており、「香りをかいでいると、古い樽が貯蔵された貯蔵庫の中を歩いているような気分にさせてくれる」と尾崎氏は表現する。
味わいについては、芳醇で厚みのある樽感をベースに、シナモンを思わせるようなスパイシー感が特長。このスパイシー感は、樽由来の部分もあるが、「さつま司で作られたライ麦を原料としたグレーン原酒も影響しているのではないか」と尾崎氏。そして、ローストナッツやダークチョコレートのようなコク、ピートのビターさ、アプリコットジャムやメイプルシロップのような甘さが感じられる。この甘さは、シェリー樽由来である一方、酵母を変えることで非常に熟成したコクのある甘い香りのある原酒が作られていたので、そういった原酒からの影響もあるとのこと。こういった多様な香りも相まって、本当に暖炉の前にいるような、温かさやぬくもりを感じるようなテイストになっているという。
そして、余韻に関しては、穏やかなピート、深いコクと甘酸っぱさを伴った、重厚で心地良いビター感が長く続く。なお、「ナイン ディケイズ」のアルコール度数は48%。加水することによって、さらにいろいろな香りが花開いていくので、「ぜひ加水したものもお試しください」と尾崎氏は付け加えた。