2022年11月7日、仏・トゥールーズ大学病院などは、鼻腔がんで鼻と口蓋の前部を失った患者に対し、3Dプリントされたバイオマテリアルと高度な移植手術の活用により鼻を再建することに成功したと発表した。では、がんによって失った鼻をどのようにして取り戻すことができたのだろうか。今回は、こんな話題について紹介したいと思う。

  • がんで失った鼻を3Dプリンタと移植手術によって再建する方法とは

    がんで失った鼻を3Dプリンタと移植手術によって再建する方法とは

がんで失った鼻を再建する方法とは?

今回手術を受けた患者は2013年に鼻腔がんを患ったといい、放射線治療と化学療法を受けてきたものの、鼻の大部分と口蓋の前部を失ってしまったという。患者はそれ以降、鼻がない状態での生活を余儀なくされ、鼻の再建に向けて、ある程度の厚みがあり血流が保たれた状態の皮膚を移植する「皮弁移植」を実施したのだが失敗したとのこと。また、プロテーゼという人工軟骨の着用などの検討も実施したが、困難であったという。

そこで研究チームは、次のような外科的な処置を提案した。まず3Dプリンタを活用し、バイオマテリアルで3次元的に鼻を造形する。以下の画像の左側にある、白色の鼻の形をした人工物(バイオマテリアル)がそれだ。この3Dプリント技術には、骨の再建に強みを持つベルギーの医療メーカー「Cerhum」のテクノロジーを活用している。この技術で再建する鼻の形状や大きさは、放射線治療の前に撮影されていた画像から計測したという。

そして、患者のこめかみの皮弁とともに、3Dプリントしたバイオマテリアルを患者の前腕部分に装着。2ヶ月後には、前腕部の皮膚の定着が完了したという(画像右側)。そしてその後、定着した部分を患者の鼻の領域へと移植したとのこと。移植の際は、前腕の皮膚の血管と顔の血管を接続するマイクロサージェリーによって血管再生に成功。これにより患者は鼻の再建に成功したという。また手術後は、10日間の入院と3週間の抗生物質投与を実施。その後も経過は順調だという。

  • 3Dプリントしたバイオマテリアルを活用し前腕部に移植された鼻

    3Dプリントしたバイオマテリアルを活用し前腕部に移植された鼻(出典:トゥールーズ大学病院)

いかがだっただろうか。これは世界的に見ても前代未聞の試みだという。なぜならば、鼻のような部位は血管が発達していない領域で脆弱なため、このような再建手術は行われてこなかったのだ。また、骨の再建に特長のある医療メーカーの技術を活用した点も大きいだろう。同様の疾患などを抱える多くの患者に希望を与える、素晴らしい事例ではないだろうか。