ここまではだいぶ基礎的/理論的なことをベースにして、アナログ電子回路技術について説明してきました。

今回からは、ラストに向けてということで、理論的な話題は混ぜるにしても、より高度なデバイスを使った、より実践的なアナログ電子回路製作に取り組んでみましょう。

少し複雑な回路構成およびデバイスですが、回路図を見ながら是非製作してみてください。

増幅するだけではメータは振れない(交流信号には反応しない)

前回まででマイクの音を増幅させる回路を製作し、実際に音が出ることを確認してきました。気持ち的には音を聞くだけよりも、ブイブイとメータを振らせてみる(図4-1-1)とか、少し機能を拡張したいと思うでしょう。

ところが、前回製作したOPアンプの出力をメータに直接接続しても「メータは振れません」。実際にテスタを3V程度の直流電圧レンジ(交流電圧レンジでは無い)にして、ヘッドフォンの代わりに接続し、マイクに声をかけてもテスタの針は振れないことが判ると思います。

一般的にメータは直流信号に対して反応し(交流に反応する種類もあるが、一般的なメータにおいては)、交流信号は図4-1-2のような波形(ちなみに筆者の声)であり、その平均値がゼロなわけですから、交流信号については反応しない(振れない)わけです。

図4-1-1 こんな風にメータをブイブイ振らせたい

図4-1-2 交流信号はこのような波形(筆者の声)だが、直流として平均値を考えるとゼロのまま

どうやってメータを振る回路を実現するか

メータを振らせるには音声の交流信号を、その大きさを保ったまま直流信号に変換する必要があります。そのための構成図(ブロック図と呼ぶ)としては、図4-1-3のように信号を整流する(上半分に折り返す)回路が必要です。と言っても、この回路をイチから作りこんでいくことは、結構大変です(実際には色々なノウハウが必要なので、簡単には作れない)。

そこで図4-1-4に示すような専用IC、AD737を使うことにしましょう。この素子は「交流信号のRMSレベルをDCに変換する素子」であり、図4-1-3で示される構成がすべて盛り込まれているものです。このAD737の「RMS」という用語は、交流の大きさを表すものですが、少し難しいので今の段階では理解していなくてかまいません。

現代のアナログ回路設計は、アナログ回路に関する知識とノウハウだけではなく、このような便利なICがいろいろと市販されていますので、それらのICを(目的の用途に対して適切に)探し出し、有効に活用する技術も必要です。この両方が伴ってこそ、洗練された回路が実現できると言えます。

図4-1-3 メータを振らせる回路を実現するための構成図(ブロック図)

図4-1-4 図4-1-3の回路構成をひとつの素子で実現できるAD737

実際に回路を設計してみる

それでは実際の回路設計を行ってみます。図4-2-1の左側の回路はここまでですでに完成しているものです。ここをそのまま生かし、この出力に同図の右側のようにAD737を接続します。また表4-2-1にここで使用する(追加する)素子の部品表を示しておきます。

単に接続するといっても、以下のようなポイントがあります。

規定の最低電源電圧を満足するよう電池の本数を変更

AD737の電源電圧は最低が±2.5Vとなっています。そのためここまで±1.5V(単3電池を1本×両極性=2本)の電源だったものを±3V(単3電池を2本×両極性=4本)に変更します。

一方AD8607の使用できる最高電源電圧は±2.5Vで、今回の±3Vでは規格外になってしまいます。そのため前回までに示したダイオードという素子を使って、強制的に電源電圧をAD8607で使用可能な2.3~2.4V程度まで低減させています。

図4-2-1 「メータを振らせる」動作を実現する回路図

表4-2-1 ここで使用する(追加する)素子の部品表リスト

AD737の機能の仕方

AD737の回路の部分を図4-2-2に抜き出します。このICは「RMSコンバータ」という機能を持っており、入力信号の大きさに比例した直流電圧を出力するというものです。この図ではICの内部構成についても記載されていますが、整流回路という部分で信号のマイナス部分をプラス方向に折り返し(絶対値を取り出すイメージ)、信号の大きさを求めるようになっています。

ところでこのIC自体は「RMSコンバータ」なのですが、その機能だと応答速度が遅すぎますので、今回はこの整流回路の機能を主として使い、入力信号の大きさをそのまま出力するという回路構成にしています。

AD737の動きを実際に測定する

AD737の回路の部分だけを試作して、音楽の信号波形を回路に入力して出力がどのように変化するかを見てみました。

図4-2-2は入力信号波形と出力電圧をオシロスコープで測定したものです。このように入力信号波形の大きさが(大きさが変わるごとに出力の大きさも変化はしていますが)直流的に、つまり信号の大きさを値として、出力が得られていることがわかります。

これを少し信号波形を大きくして、メータに接続すれば、音の大きさで針が振れる機能が実現できることになります。

なお出力電圧が「マイナス」方向に出ています。これはこのICの特性であるため、図4-2-1に示してあるように、このICの出力を(連載第8回図2-5-4(a)で示したような)反転増幅回路でプラス方向に極性反転させて動かすようにします。

図4-2-2 音楽の信号波形を入力して出力変化をオシロスコープで観測する

<イラスト: hayabusa>

著者:石井聡
アナログ・デバイセズ
セントラル・アプリケーションズ
アプリケーション・エンジニア
工学博士 技術士(電気電子部門)