2019年に、子どもたちにパソコンやタブレットなどのデジタル機器やそれらを活用するためのネットワーク環境を用意し、子どもの個性に合わせた教育環境を実現することで、より効果的に学力を伸ばす取り組みとして「GIGAスクール構想」がスタートして以来、全国の学校では「教育へのICTの活用」が進められている。

今回、筆者が取材した横浜市立六つ川台小学校は、その中でも先進的な「6年間の感謝と思い出をプロジェクションマッピングで表現しよう」という授業を行っている。この授業では、エプソン販売が展開する「プログラマッピング」を導入することで、児童自身がプロジェクションマッピングをプログラミングできる環境を整えている。

本稿では、中間報告として行われたプレ発表会の様子と「プログラマッピング」の導入を決めた横浜市立六つ川台小学校 校長の鳥山真氏と6年1組の担任である有馬広貴氏へのインタビューの模様を紹介する。

プロジェクションマッピングで「成長」を振り返る

今回、筆者が見学させていただいた授業は、横浜市立六つ川台小学校 6年1組の総合の時間で行われている「6年間の感謝と思い出をプロジェクションマッピングで表現しよう」という授業だ。

この授業は、年間70時間設けられているという総合学習で、児童たちがプログラミングの仕様を学び、班で話し合ってプロジェクションマッピングを完成させていくというもの。いま児童たちがプロジェクションマッピングのお題として取り組んでいるのは「成長」を主テーマとした「6年間の振り返り」だ。

  • プレ発表の様子

    プレ発表の様子

各班が、1年生から6年生までの1学年ずつを担当し、その学年で起きた出来事やイベントを振り返りつつ、そこから学んだことや成長したポイントを、プロジェクションマッピングで紹介していく。

中間報告として行われたプレ発表では、「6年1組の教室」「体育館」「図工室」「和室」の4カ所を順に巡りながら、各学年のプロジェクションマッピングを投影していた。

  • 運動会の競技のことや遠足、校外学習など、さまざまなイベントを通じて成長したことをプロジェクションマッピングで紹介していた

    運動会の競技のことや遠足、校外学習など、さまざまなイベントを通じて成長したことをプロジェクションマッピングで紹介していた

各班が作成したプロジェクションマッピングは、イラストや音楽、写真などがふんだんに使用されており、真面目な内容の中で、時には笑いが起こる場面もあるなど、班ごとの工夫が光るクオリティの高い出来栄えだと感じた。

授業の最後に講評を行ったエプソン販売 販売推進本部 VP MD部の赤井聖弥氏も「横浜市立六つ川台小学校の皆さんは、複雑なプログラミングを行っていてレベルが高い」と評価していた。

  • 講評を行ったエプソン販売 販売推進本部 VP MD部の赤井聖弥氏

    講評を行ったエプソン販売 販売推進本部 VP MD部の赤井聖弥氏

プログラマッピングで「子どもの夢を叶える」

ここまで紹介した横浜市立六つ川台小学校の総合学習の時間を支えているのが、プロジェクターで使えるアプリケーションの新商品としてエプソン販売が商品化した、プログラミング的思考を育む知育アプリ「プログラマッピング」だ。

プログラマッピングの選定は、6年1組の担任である有馬氏が「児童が安全に興味をもってプログラミングに取り組めるように」という考えで導入を決めたという。

「授業に導入してから、まずは仕様に慣れる意味も込めて、テーマを設けずに児童たちがプロジェクションマッピングを作成したのですが、7月のクラス発表の時にはすでに『自分たちで作れて楽しかった』という声が聞かれていました。また『次はどんな作品を作ろうかな』といった前向きな姿勢の児童も多かったので、みんな興味をもって取り組んでいると思います」(有馬氏)

  • 横浜市立六つ川台小学校 6年1組の担任 有馬広貴氏

    横浜市立六つ川台小学校 6年1組の担任 有馬広貴氏

このような児童たちの良いモチベーションには、「個人の力量差が産まれないようにグループでの活動にする」という有馬氏の工夫も功を奏しているようで、自然とグループ内での困りごとを相談しながら解決している様子がうかがえるという。

一方で、今回のプレ発表を通じて見えてきた課題もあるという。

「プロジェクションマッピングは、映像を活用するという性質上、気持ちを表現することに難しさがあります。子どもたちはどうしても『成長したことはこれです』というように文字で表してしまうというところに課題があります。しかし、この中間発表を通じて、自分たちの課題を改めて整理して、最終の発表までに修正していく、というように学びを深めたいと考えています」(有馬氏)

しかし有馬氏も鳥山校長も「『プロジェクションマッピングの完成度』よりも学んでほしいところは別にある」と語っていた。

「この授業の本当の目的は『素晴らしいプロジェクションマッピングの作品を作ること』だけではありません。友だちと葛藤しながら作品の完成に向けて話し合う時間だったり、企業で働く社会人という普段は会えない素敵な大人たちとの出会いを通じて、社会に興味をもってもらうことが何よりも重要だと考えています」(鳥山氏)

  • 横浜市立六つ川台小学校 校長の鳥山真氏

    横浜市立六つ川台小学校 校長の鳥山真氏

最後に3月の最終発表に向けての目標を有馬氏に聞いた。

「まず1番は子どもの気持ちを子どもたち自身で実現することです。総合の授業は『子どもの夢を叶える』ことができる授業だと思っています。子どもたちの気持ちを最大限に優先しつつ、プロジェクションマッピングを見てくれた人に『どんなことを伝えたいか』まで考えられる授業にしていけたらいいな、と思っています」(有馬氏)