芝浦工業大学(芝浦工大)と東京工業大学(東工大)の両者は2月15日、軽量・小型でありながら、衣服内に循環させる液体の流量を自己感知して温熱制御を可能にするウェアラブルデバイスを開発したことを共同で発表した。

同成果は、芝浦工大大学院 理工学研究科の桑島悠氏、芝浦工大 工学部の細矢直基教授、東工大 工学院 機械系の前田真吾教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国化学学会が刊行する材料と界面プロセスを扱う学術誌「ACS Applied Materials & Interfaces」に掲載された。

  • 今回開発されたPSEPを利用した小型ウェアラブル温熱制御デバイス

    今回開発されたPSEPを利用した小型ウェアラブル温熱制御デバイス。(中央・下)冷却した際の皮膚の温度。(右)操作インタフェース(出所:共同プレスリリースPDF)

夏場は車内が非常に暑くなる四輪モータースポーツ(特にクローズドボディの車両)で走るドライバー用のレーシングスーツや、化学療法用などですでに実用化されている液体冷却衣服は、衣服に埋め込まれたチューブを利用して、ポンプで冷たい液体を循環させ、体温を冷却させることを目的としている(温かい液体で身体を温めるのに使う場合もある)。しかし、従来の液体冷却衣服には液体を循環させるためのポンプなどの大型の装置が必要で、そうした装置はかさばる上に使用時は騒音が大きいなど、モータースポーツでは問題ないとしても、それ以外の用途(夏場の屋外での作業、冷房がない・使えない屋内での作業など)では利便性に課題を抱えていた。

そうした中、近年になってウェアラブル機器として注目されているのが、液体中に電荷を注入し、電界を利用して液体を移動させることで送液する「電気流体力学(EHD)ポンプ」。同ポンプは静音で軽量、他のポンプよりも高い流量を確保できるといった優れた点を持っており、身体にフィットしやすいソフトチューブと同ポンプを組み合わせることで、小型で静音なウェアラブル温熱制御デバイスを実現することが可能。しかし柔らかいチューブは、手足を曲げたり身体を捻ったりといった時などに、液体が閉塞する可能性があることが課題だった。そこで研究チームは今回、衣服用の新しい小型スマート電気流体ポンプ(PSEP)の開発を試みることにしたという。

今回開発されたPSEPでは、装置内を循環させている液体の流量をモニタリングする自己感知システムにより、これまで必要とされていた機器が不要となり、小型化が可能となったとする。そのため、従来のウェアラブル温熱制御デバイスの課題となっていた騒音や大きさ、ファッション性の制限を解決することができたとした。

PSEPの実現において最も重要だったのが、上述したように、EHDポンプにおける液体流量の自己感知システム。同システムは、PSEPの電極間の電流の変化を利用して流量測定を行う仕組みで、何らかの負荷や変動によって流量が変化すると、電極を流れる電流が変化する。その変化を利用して、装置自体の流量を測定する仕組みだという。今回の研究では実験的にモデルの検証が行われ、その結果が理論計算と一致していることが確認されたほか、PSEPは最大3℃の温度調節が可能で、個人の快適性を大幅に向上させられることが明らかにされた。

今回の研究では、同システムを使用して通常のシャツのポケットに収まるコンパクトなPSEPデバイスが製作されたほか、直感的な制御を実現するため、スマートフォンインタフェースが採用され、さらに、自己感知によって詰まりを検知してユーザーに通知する機能も搭載され効率的な運用を可能にしたという。

研究チームはPSEPに対し、将来的にはその耐久性を向上させるため、自己修復液体や先端材料などの技術を適用させていく予定としている。