ゼロコロナや不動産バブルの崩壊、若者の失業率20%越えなど、中国経済の先行きは決して明るくない。経済成長率も鈍化傾向にあり、外国企業にとって中国は既に“美味しい”国ではなくなっている。世界の工場としての中国は既に終焉を迎えている。そのような中、中国の国家外貨管理局が11月3日に公表した7月~9月期の国際収支で、外国企業による直接投資が日本円でおよそ1兆7600億円のマイナスになったことが分かった。この統計が公表された1998年以来初めてのマイナスとなり、外国企業の新たな投資よりも撤退や規模縮小が大きくなったことを意味する。

外国企業による中国への直接投資が初めてマイナスになった理由はどこにあるのだろうか?。ここでは2つの理由を挙げたい。1つは、改正反スパイの施行だろう。今年も帰国直前のアステラス製薬の日本人男性が中国当局に拘束されたことが大きなニュースとなったが、中国では断続的に日本人や欧米人が拘束されている。そのような中、スパイ行為の定義が大幅に拡大され、捜査当局の権限が強化された改正反スパイ法が7月に施行された。

これまでのところ、改正反スパイ法で拘束された日本人はいないが、中国当局がスパイ行為の疑いで外資系企業のオフィスを家宅捜査したりするなど、最近中国では外国企業や外国人へ監視の目が強まっていると言われる。自社の社員が拘束される恐れがあると、外国企業の間では中国進出の動きが鈍くなってきている。

また、経済的威圧があろう。経済的に中国が大国化すると同時に、中国は関係が冷え込んだ諸外国に対し、輸出入規制や関税引き上げなど経済的に圧力を掛けてきた。たとえば、中国は台湾産のパイナップルや柑橘類、オーストラリア産のワインや牛肉などの輸入を一方的に停止するなど、両国に経済的威圧を仕掛けた。そして、今年7月、日本が米国と足並みを揃える形で先端半導体分野の対中輸出規制を開始して以降、中国による日本向けの経済的威圧が絶えない。中国は8月より、半導体の材料となり、日本が多くを中国に依存する希少金属ガリウムとゲルマニウムで輸出規制を強化し、福島第一原発の処理水放出に伴っては日本産水産物の輸入を全面的に停止した。日本の水産業者の中には売り上げの半分以上を中国に依存していた企業もあり、経済的威圧によって大きな被害を被るケースも見られた。

こういった改正反スパイ法、経済的威圧が外国企業の対中投資意欲を失わせていることは間違いない。来年秋には米国で大統領選挙が行われるが、現在のところバイデンとトランプの再戦が色濃くなってきているが、どちらが大統領になっても中国への厳しい姿勢はその後の4年間も変わらないだろう。そして、その攻防は経済や貿易の領域で展開されていくことから、改正反スパイ法、経済的威圧のリスクは今後も付きまとう。よって、外国企業の対中投資は今後もマイナス傾向が続くだろう。