キヤノンは7月12日、リサイクルにおけるプラスチック片の種類選別の際に判別が難しい黒色プラスチック片とその他の色のプラスチック片を、高精度かつ同時に選別できるトラッキング型ラマン分光技術を開発したことを発表した。

  • トラッキング型ラマン分光技術を活用したシステムのイメージ。

    トラッキング型ラマン分光技術を活用したシステムのイメージ。(出所:キヤノン)

環境問題への意識の高まりもあって重要度が高まっているプラスチックのリサイクルだが、そのためにはABSやポリプロピレンといったプラスチックの種類を正確に選別する必要がある。現在プラスチック片の選別において用いられる近赤外分光法は、可視光を通さず反射もしない黒色プラスチック片の選別ができないという課題があるという。

一方で、レーザ光をプラスチック片に照射して物質の分子情報を取得するラマン分光法は、黒色プラスチック片の判別にも適用可能だ。しかし黒色プラスチック片は散乱する光が少なく、その他のプラスチック片に比べて計測に時間がかかるため、高速で多量の処理が必要なプラスチック選別作業への適用は困難だったとする。

  • ラマン分光方式のイメージ。

    ラマン分光方式のイメージ。(出所:キヤノン)

今回キヤノンでは、同社の環境マネジメント関連の統括部門から研究開発部門に対して、サステナビリティに貢献する新製品の開発要請があったことをきっかけに、プラスチックのリサイクルに貢献する新技術の開発に着手したという。

そして、黒色プラスチックの判別が可能なラマン分光法と、キヤノンが保有する計測・制御機器を組み合わせることで、1つ1つのプラスチック片の色に合わせた計測時間を確保し、黒色を含めたプラスチック片を高速で選別するトラッキング型ラマン分光技術を開発したとする。

新開発のシステムは、ベルトコンベヤ上を流れるプラスチック片の正確な位置を把握し、レーザの照射位置を連続的に動かしてプラスチック片をトラッキングすることで、それぞれのプラスチック片を選別するために必要なレーザ光の照射時間を確保できる点が特徴だとしている。

  • プラスチック片をトラッキングすることで、選別に要する時間を確保するという。

    プラスチック片をトラッキングすることで、選別に要する時間を確保するという。(出所:キヤノン)

具体的には、高速で動くベルトコンベヤの速度をキヤノンの非接触測長計で高精度に計測し、画像解析と組み合わせることでプラスチック片の正確な位置を把握する。そしてその後、ガルバノスキャナーによってベルトコンベヤ上を動くプラスチック片にレーザ光を追従させ、その走査時間をプラスチック片の色により変更するという。このようなシステムを構成することで、高速でプラスチック片が搬送される中でも、色の違いによる散乱光量の差に合わせてレーザ光の走査時間を変化させ、高生産性と高精度の両立を実現するとしている。

なお、同システムで採用されている非接触測長計「PD-704」とガルバノスキャナー「ガルバノスキャナーモーターGM-2020」は、それぞれ個別の製品として上市済みのものであり、既存技術の組み合わせによって新たな活用法を編み出したとのことだ。

  • 今回のプラスチック片判別システムに搭載されている非接触測長計「PD-704」と「ガルバノスキャナーモーターGM-2020」。

    今回のプラスチック片判別システムに搭載されている非接触測長計「PD-704」と「ガルバノスキャナーモーターGM-2020」。(出所:キヤノン)

また製品化については、2024年上期ごろに同システムを導入したプラスチック選別装置を発売予定だとしている。