日本で核融合の産業化を推進する協議会が設立

一般社団法人フュージョンエネルギー産業協議会(J-Fusion)は5月21日、都内で初の総会を開催。併せて、報道陣に設立の目的などの説明を行った。

世界的な気候変動への対策が求められるようになってきた近年、日本も例外ではなく、内閣府が中心となって日本のエネルギー問題の解決ならびに環境問題の解決策としての「核融合(フュージョンエネルギー)」の産業化を提言する動きを見せている。

そうした政府が提言するフュージョンエネルギー・イノベーション戦略の1つとして「産業協議会の設立」が掲げられており、これまでの学術としての核融合研究ではなく、それを実際に社会に活用するための取り組みを推進する必要性が盛り込まれている。

そうした政府の提言も踏まえ、日本企業として核融合を新たな産業として育てていこうという有志が集まって2024年3月29日付で「一般社団法人フュージョンエネルギー産業協議会(J-Fusion)」が設立された。

実用化に向けて民間の活用を推進する欧米を日本も追随

核融合というと数十年も前から、夢のエネルギーとされる一方で実現までに50年、100年かかる技術とも言われてきた。しかしこの4-5年で米国や英国、EUなどで民間投資を含めた核融合の開発競争が激化する動きを見せており、特に米国では2021年にフュージョンエネルギー関連スタートアップへの投資額が前年比で約10倍増という伸びを見せているほか、2022年に商業としてのフュージョンエネルギーの実現を加速するための10年戦略の策定を宣言、2024年予算として10億ドル以上を要求するなど、宇宙産業で見せたような民間企業の力も活用して、一気に市場を形成し、そのシェアそのものを獲得してしまおうという動きを見せている。

一方の日本では核融合科学研究所(NIFS)が長年にわたって技術開発を行ってきたほか、量子科学技術研究開発機構(QST)が中心となって、核融合エネルギーの早期実現に向けた欧州との共同プロジェクト「JT-60SA計画」ならびに核融合の実用化を目指してフランスで建設が進められている超大型国際プロジェクト「国際熱核融合実験炉(ITER、イーター)計画」などにも関与するなど、実現に向けて一歩ずつ前進してきたとは言え、まだ民間企業がフュージョンエネルギーを産業化しようという動きは散発的にとどまっており、それが政府のフュージョンエネルギー・イノベーション戦略としての産業協議会の設立という提言に至ったとも言える。

核融合の産業化というと、ITER計画にも関わっている三菱重工業といった従来から、そうしたプラント開発などを行ってきた企業を想像しやすいが、J-Fusionに2024年5月21日時点で参画している企業の属体は核融合スタートアップ、重工・エンジニアリング、商社、建設、電力・エネルギー、素材・機器、海運、金融・保険、IT/AI・通信などと幅が広い。J-Fusionの会長を務める小西哲之氏(京都フュージョニアリング代表取締役)は、「フュージョンエネルギーが(技術的に)実現できたとして、そこから先、一般社会にエネルギーとして届けるまでには別の障壁があり、その障壁を乗り越えるのは産業界の責務と考えている。すでに米国や英国を中心に民間企業がチャレンジを開始しており、日本でもフュージョンエネルギーの産業化を進めることが期待されている」とするほか、「J-Fusionは、フュージョンエネルギー関係のスタートアップや大企業でフュージョンエネルギーに取り組んできたところ以外にも、大企業でこれまでフュージョンエネルギーに関わってきたわけではない企業やビジネス系の企業も参画しているのが特徴。本日、設立後初めての年次総会が開催されたが、今後、いろいろなことをやらないといけないと思っている」とその特長を説明。同日時点で参加している会員数は50ほど(アカデミア会員であるプラズマ・核融合学会ならびにQSTの2者を含む)としているが、「まだ申し込みを終えてない企業も多くおり、今後さらに数十社ほど増える予定」と、まだまだ多くの企業の参加が見込まれており、幅広い日本の産業分野の力を併せることでフュージョンエネルギーの産業化を推進することを宣言した。

  • J-Fusionに参加する企業の業種は多岐にわたっている

    J-Fusionに参加する企業の業種は多岐にわたっている

  • 会員企業

    2024年5月21日時点の会員企業

具体的な活動については、産業化に向けて必要な安全性、信頼性を政府に提言する「安全規制」のワーキンググループ(WG)や、フージョン技術の標準化活動などを行う「規格標準化WG」など、複数のWGに分かれ、それぞれの目指すべき取り組みを進めていくほか、国内外のフュージョン産業の動向調査(技術・産業マップの作成)などを通じた会員の相互コミュニケーションの促進ならびにネットワークの構築などを図っていくとする。また、核融合研究者との意見交換や、学会活動の活性化に向けた支援、学生や若手の育成なども行っていくとしており、特に「人材育成は世界的な潮流になっている。日本で人材育成を推進しなければ、貴重な人材が海外に流出することになると危惧している」と今後の産業形成に向けた人材育成の重要性を強調する。

  • J-Fusionの組織構成および活動内容

    J-Fusionの組織構成および活動内容

なお、J-Fusionでは、そうした活動を通じて得た知見などを政府に提言するなどといった活動も行っていくとしており、産学の連携を深め、産業活動を進めていきたいとしている。

  • J-Fusion

    左から、常任理事代理で日揮 理事 インダストリーソリューション本部 原子力プロジェクト部長の吉田英爾氏、副会長でHelical Fusion 代表取締役 CEOの田口昂哉氏、会長で京都フュージョニアリング代表取締役の小西哲之氏、副会長で住友商事 執行役員 エネルギーイノベーション・イニシアチブ(EII) SBU長の北島誠二氏、常任理事で古河電気工業 代表取締役社長の森平英也氏