高知工科大学は3月4日、低温(300℃)で固相結晶化した「水素化多結晶酸化インジウム」(In2O3:H)薄膜の金属から半導体への転移に成功し、電界効果移動度が139.2cm2V-1s-1という、酸化物半導体TFTの性能を向上させることに成功したと発表した。

同成果は、高知工科大 環境理工学群の古田守教授、同・片岡大樹大学院生修士課程、島根大学 総合理工学部の曲勇作助教、同・葉文昌准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン科学誌「Nature Communications」に掲載された。

酸化物半導体の用途拡大のためには、さらなる高性能化、いわゆる電界効果移動度の向上が求められており、そうした次世代の酸化物半導体として期待されているのが酸化インジウムで、単結晶で最大160cm2V-1s-1ほどとされ、広く活用されている酸化物半導体「In-Ga-Zn-O」(IGZO)の10cm2V-1s-1超と比べても、実用化できれば大幅な性能向上が期待されている。

すでに太陽電池用の窓層(透明導電膜)としての研究が進められているものの、電子密度が大きく、金属的伝導を示すため、半導体としての用途は限定的であったという。

そこで研究チームは今回、In2O3:H薄膜の水素量と固相結晶化過程の精密制御により、高性能化に挑戦。その結果、300℃という比較的低温度の結晶化にて格子像を確認可能な優れた多結晶薄膜が実現されたほか、電子密度を金属的伝導領域から半導体伝導領域に転移させる金属-半導体転移も実現され、高移動度酸化物半導体のデバイス応用の道を拓くことに成功したとする。

具体的なTFTの電界効果移動度は139.2cm2V-1s-1で、これまでの非晶質IGZOの10倍以上となるほか、現在実用化されている多結晶シリコン(~100cm2V-1s-1)を上回る移動度を実現。また、比較的低温度での結晶化にて格子像が確認できるという優れた結晶性が実現されたことから、次世代ディスプレイや半導体メモリの高性能・低電力化に加え、透明フレキシブルデバイスなどへの発展も期待できるとする。

高知工科大の古田教授は今回の研究成果に対し、「酸化物半導体TFTは集積回路やディスプレイの高性能・低消費電力化のキーデバイスとして注目されており、今回、その性能を高いレベルに引き上げることができました。今後は、さらなる性能向上や実用化に向けた課題解決に取り組むと同時に、新しいデバイスの実現に貢献していきたいと考えています」とコメントしている。

  • 酸化物半導体TFT

    (左2点)In2O3(従来)と、今回開発されたIn2O3:H薄膜の結晶性評価。(中央)In2O3:H TFT半導体領域の断面TEM像。(右)In2O3:H TFTの全体像と伝達特性 (出所:高知工科大Webサイト)

2022年3月22日訂正:記事初出時、島根大学の曲勇作 助教ならびに葉文昌 准教授の所属を、根大学と誤って記載しておりましたが、正しくは島根大学となりますので、当該部分を訂正させていただきました。ご迷惑をお掛けした読者の皆様、ならびに関係各位に深くお詫び申し上げます。