富山化学工業(以下、富山化学)は、脳卒中後のリハビリテーション効果を大きく促進する新薬の候補化合物を特定したと発表した。同社は、承認取得に向けて脳卒中後の回復期リハビリテーションを行っている患者を対象とした治験を実施するという。

  • マウス脳損傷モデルにおいてedonerpic maleateはリハビリテーション依存的に運動機能の回復を促進する(出所:富山化学ニュースリリース)

    マウス脳損傷モデルにおいてedonerpic maleateはリハビリテーション依存的に運動機能の回復を促進する(出所:富山化学ニュースリリース)

同研究は、横浜市立大学学術院医学群生理学の高橋琢哉教授らの研究グループ、富士フイルムグループの富山化学と、産業技術総合研究所、医薬基盤・健康・栄養研究所との共同研究によるもので、同研究成果は、米国東部時間4月5日付で科学雑誌「Science」にオンライン掲載された。

脳卒中後の回復期における運動機能の回復を目的とした治療は、地道なリハビリテーションが主体となっているが、その効果は限定的で、より効果的な治療法が望まれている。運動機能回復には、リハビリテーション等の外部からの刺激に応答した脳の変化(脳の可塑性)が関与しており、脳の可塑性がおこるとき、シナプスでは、神経伝達物質に対する応答が強められたり弱められたりする変化が見られるという。このとき、神経伝達物質であるグルタミン酸の受容体のひとつ、AMPA受容体がシナプスの膜上で増加することが明らかにされており、AMPA受容体のシナプス移行が脳の可塑性のメカニズムのひとつであることが広く認められてきた。

同研究グループは、富山化学が創製した化合物edonerpic maleateが、外部からの刺激依存的にAMPA受容体のシナプス移行を促進すること(脳の可塑性を向上させること)をマウス実験で示し、この薬効における同化合物の標的が、脳の可塑性にも関わっているCRMP2というタンパク質であることを明らかにした。また、この脳の可塑性向上を損傷後の脳でも誘導できれば、リハビリテーション治療の効果を促進できると考え、げっ歯類、霊長類の脳損傷モデルを用いた検証が行われた。

  • カニクイザル脳出血モデルにおいてedonerpic maleateはリハビリテーション依存的に指の緻密な運動機能を回復させる(出所:富山化学ニュースリリース)

    カニクイザル脳出血モデルにおいてedonerpic maleateはリハビリテーション依存的に指の緻密な運動機能を回復させる(出所:富山化学ニュースリリース)

具体的には、マウスの脳損傷モデルで前肢の運動機能を評価する方法を構築し、脳損傷後にedonerpic maleate投与とリハビリテーションを併用することにより、運動機能が回復することを明らかにした。さらに、リハビリテーション治療でも回復が難しいと言われている「指でものをつまむ動作」を評価できるカニクイザルを用いて、脳出血後にedonerpic maleate投与とリハビリテーションを併用することにより、指の精密な運動も回復できることを明らかにした。

同検証結果から、脳卒中後の回復期におけるリハビリテーション治療効果促進薬としてのedonerpic maleateの有効性が示唆された。今後、富山化学は、脳卒中後の回復期リハビリテーションを行っている患者を対象とした治験(フェーズ2)を行い、従来の症状評価指標に加え客観的評価指標を用いることで、同化合物の臨床的有効性及び安全性を確認するということだ。