物質・材料研究機構(NIMS)などは4月7日、磁性をもつ有機分子をつかって原子スケールの厚さしかない超伝導体の転移温度を精密に制御することに成功したと発表した。

同成果は、NIMS若手国際研究センター 吉澤俊介ICYS研究員、国際ナノアーキテクトニクス研究拠点の内橋隆グループリーダー、東京大学大学院工学系研究科 南谷英美講師、分子科学研究所 横山利彦教授、千葉大学大学院工学研究院 坂本一之教授らの研究グループによるもので、3月30日付けの米国科学誌「Nano Letters」に掲載された。

近年、グラフェンを初めとする原子層物質が研究されており、特に超伝導状態になる原子層物質は、非常に高い転移温度を示すものが発見されるなど注目を集めている。原子層の超伝導物質は表面界面からの電荷のドーピングによってその特性の制御が可能であるという、バルク物質にはない有利な特徴を持っているが、このドーピングが起こるメカニズムを微視的なレベルで解明することはこれまで困難であった。

同研究グループは今回、有機材料であるフタロシアニン分子と、シリコン基板上のインジウム原子層の系を用いることで、原子層超伝導体の転移温度を精密に制御することに成功。またマンガン原子または銅原子を含むフタロシアニンは原子層超伝導体上に極めて秩序性の高い単分子膜を形成し理想的なヘテロ構造を作るため、原子層物質へのドーピングのメカニズムを詳細に調べることが可能となった。

解析の結果、フタロシアニンは中心の金属原子部分に磁性の起源となるスピンを保っていること、超伝導転移温度の変化は、有機分子によってもたらされる電荷とスピンの競合によって支配されることがわかった。特に、分子内の電子軌道の向きが、スピンを通じて決定的な働きをすることが判明。電子軌道という自由度は、これまでのドーピングではほとんど考慮されていなかったというが、今回の結果から超伝導に大きな影響を与えることが明らかになった。

(a)フタロシアニン分子-超伝導原子層ヘテロ構造の模式図 (b)~(d)試料の走査トンネル顕微鏡像。bはインジウム原子層、cはbの上に成長したフタロシアニン分子層(中心はマンガン原子)、dはbの上に成長したフタロシアニン分子層(中心は銅原子) (出所:NIMS Webサイト)

同研究グループは今回の成果で得られた知見を利用することで、超伝導転移温度の大幅な上昇など超伝導の高特性化を目指していくとしている。