NECと東京大学は9月2日、都内で記者会見を開き、日本の競争力強化に向け戦略的パートナーシップに基づく総合的な産学協創を本格的に開始すると発表した。産学協創の第1弾の活動として社会への影響力が大きい分野であるAI(人工知能)分野に焦点を定め「NEC・東京大学フューチャーAI研究・教育戦略パートナーシップ協定」を締結し、具体的な活動を開始する。

協定の概要

NEC 代表取締役 執行役員社長兼CEOの新野隆氏

同協定が目指すビジョンは新しいAI処理プラットフォームの実現でAIを活用したソリューションの社会浸透を図り、小型・低消費電力・低コストを実現し、新プラットフォームを今後の競争力の源泉とするとともに、社会受容性を検討していく。

冒頭、NEC 代表取締役 執行役員社長兼CEOの新野隆氏は「社会価値を創出するためには将来を見据えた先行・基礎研究開発や、強いソリューション確立のための補完技術開発、ソリューション創出を加速する先進顧客との実証といったオープンイノベーションの強化が必要だ。今後、3年間でオープンイノベーションの投資を倍増し、従来の研究開発に加え、制度設計と人材育成を進めていく。今回、東京大学との基礎研究から社会実装までのビジョンや課題を共有した産学連携の第1弾として『NEC・東京大学フューチャーAI研究・教育戦略パートナーシップ協定』を締結した。NECとしては、経営層が運営に直接関与するほか、一流研究者の派遣、奨学金により優秀な大学院生の成長をサポート、事業化の推進に取り組む」と意気込みを語った。

両者では新技術・システムの研究開発に取り組み、AI分野の研究者を結集し、複数の共同研究を実施する。その1つが「ブレインモルフィックAI技術」の研究だ。同研究は、政府の最先端研究開発支援プログラム(FIRST)において「世界のトップを目指す30の最先端研究課題およびそれを実施する中心研究者」の1人に選ばれた東京大学 生産技術研究所 合原一幸教授を中核としてグローバルに研究者を集め、脳・神経系を模倣した情報処理システムを実現する研究開発を進めていく。

新技術は、高度な社会課題を解決するAI処理を高性能かつ低消費電力で実現する。具体的には脳の神経細胞(ニューロン)や、それらの接続(シナプス)を忠実に模倣する基本素子を数理モデル解析を介し、開発。また、同素子を結合してシステムを構築するためのコンピュータアーキテクチャ、プログラミング技術、アルゴリズムを研究。さまざまな感覚入力を汎用的に処理する大脳皮質の知的処理機能を、1ニューロンあたり10nW以下で実現する次世代AI専用の脳型LSIを開発する。デジタル計算機ベースのAI処理と比較し、1万倍以上の電力効率化が図れるという。

「ブレインモルフィックAI技術」

さらに、将来的にAIを活用したソリューションが社会に浸透することを見据え、社会のルールや人間の感覚との整合を図るため、法律、ガイドライン、社会的なコンセンサス、倫理などについて共同で研究する。東京大学の世界トップクラスの研究開発力と人材ネットワーク、社会実装への対応(人文系からの参画)、トップ人材の育成・輩出している。一方、NECではAIを活用したソリューションの社会展開において研究成果を活用していく考えだ。

東京大学 総長の五神真氏

加えて、NECの寄付により東京大学でAIを研究する博士課程学生の育成を目的とした奨学金「NEC・東京大学 フューチャーAIスカラーシップ」を新設。年間2人を選抜し、月20万円の奨学金を3年間給付するほか、NECにおいて社会実装を踏まえた研究開発の観点から、同博士課程学生の長期のインターンを受け入れていくという。

東京大学 総長の五神真氏はNECとのパートナーシップ協定の締結について「NECの理念である『社会価値創造への挑戦』と、東京大学の理念である『新たな経済社会の駆動モデル』を互いに共有する。これまで両者間では高度人材の交流があり、例えば理工系研究科・学部卒業生470人(博士:60人、修士:320人)がNECに在籍し、大学にはNEC出身の教授も数人いる。そして、2016年4月には産学協創本部を発足し、われわれは研究者が安心して産学連携に参加でき、産業界も信頼して経営戦略の一環として産学連携を協議可能な体制の整備を進めている」と述べた。

左からNEC 取締役 執行役員常務兼CTOの江村克己氏、新野氏、五神氏、東京大学 大学執行役・副学長、産学協創推進本部長の渡部俊也氏

今後、新しいAI処理プラットフォームを、まずはクラウドで展開したうえで2019年までにゲートウェイ、2020年以降は自動運転車やスマートカメラといったデバイスへの応用展開を目指す。