IoT時代の到来により、PCやスマートフォンではない、いわゆる組込機器がネットワークに接続されようとしている。そうした中、OSという立場から存在感を増しつつあるのがWind Riverだ。

「10年以上にわたって稼動し続ける機器を作ろうとする際に、我々のOSは採用されてきた。すでに我々の提供するなんらかのソフトウェアを搭載した機器は20億台を超えており、30億台に迫ろうとしている。こうして長年の取り組みによって得られた知見が今後のIoTに向けて生きてくることになる」と語るのは、同社のPresidentであるBarry Mainz氏。

10年以上にわたって用いられる組込機器のイメージ。そうした長期利用の場合、人命にかかわるクリティカルな用途も多い

同社の主な顧客となる産業は大きく分けて「航空宇宙(防含む)」、「自動車」、「ネットワークインフラ」、「産業機器/医療機器」、「モバイル/コンシューマ」の5つ。これら5つの分野は、それぞれの分野で得た知見を他の分野に応用展開が可能であり、それがビジネスの成功につながっていると同氏は語る。そんな同社の現在のビジョンは「Transform our customer's business to deliver the promise of a software-defined world」であり、そうしたカスタマの変化に向けて現在、組織体制などの変革を進めているという。具体的には、「これまで組み込みソフトの領域が中心であったが、ビジネスの機会がsoftware-definedへと移りつつあり、組織をそちらに注力できるようにすることを進めている」とする。

そうした変革によって注目するのは以下の4つの分野となる。

  • IoT(Internet of Things)
  • Transformation of Data into Infoemation
  • Network Transformation
  • Safety and Security

ここでの肝はやはりIoTの存在だ。エッジノードで生み出された膨大なデータは、セキュアな回線を経て、ビッグデータとして解析が行われ、その結果、目に見える情報へと変化する。上記4つは、この一連の流れを網羅するものとなる。

「もちろん、旧来からのRTOSやオープンソースなどのコアビジネスも重要であり、そこに新たに『クラウド』という領域が別個に加わることとなる。クラウド分野としては、ネットワーク、IoT、自動車、システムシミュレーションといった分野に成長性があると見ている」(同)とのことで、IoTにそうした新たなビジネスの課題を解決する力を与えてくれるものとなるとした。

Wind Riverのビジネスイメージ。Coreが従来からのビジネス領域。Cloudが新たに加わるビジネス領域となる

ただし、IoTの実現そのものにもさまざまな課題がある。エッジノードとしても、センサの制御、それを搭載した機器の制御、そしてそれらからデータを収集するゲートウェイの制御といったことを行う必要がある。また、組み込みソフトウェアの開発も、従来のように、開発を終え、カスタマに納品したら終わり、というわけではなく、都度アップデートを行う必要性が生じることとなり、そのための開発体制へと変更する必要がでてくる。さらに、各所より集められたさまざまなデータをBI(Business Intelligence)へと接続する必要も出てくる。

IoTを実現するデータの流れのイメージ。エッジノードで収集されたデータは、クラウドを介し、BIなどで情報へと変換されることとなる

こうしたニーズを踏まえ、同社はこれまでのRTOS「VxWorks」や「Wind River Linux」に加え、新たにセンサノードなどに向けた4KBからの省フットプリントRTOS「Wind River Rocket」ならびに、ゲートウェイなどに向けた「Pulsar Linux」の無償提供を開始した。また、IoT機器の開発から、製品テスト、アプリ開発、デバイス管理といったライフサイクルの管理を実現する「Helix App Cloud」「Helix Lab Cloud」「Helix Device Cloud」といったソリューションも用意。ちなみに同氏はこうした新規OSやソリューションの提供について、「IT分野では仮想化が進んできたが、産業界でも仮想化の検討が進められており、こうした動きは、IT分野の仮想化の黎明期と似ている。ビジネスモデルは変化してきている。こうした動きはまさにその象徴であり、組み込みの世界もクラウドへの対応が必須となってきた」としており、変化に対応するために必然であったことを強調する。

エッジ側で用いられるRocketやPulsarと、クラウド側で用いられるHelix Cloudなどを組み合わせたソリューションを提供することで、IoTのすべてをカバーしていこうというのがWind Riverの戦略となる

なお、新OSにはRocketとPulsarといった宇宙にちなんだ名称がつけられているが、これについて同氏に確認したところ、「社内でネーミングコンテストを実施して、ロケットや天体の話題が好きなスタッフが多かったこと、ならびに人の記憶に残る、多言語に渡ってイメージしてもらいやすい名称であったことから採用決定となった」としたほか、ブランドとして、デベロッパが覚えやすいものという意味もあるという。また、OSそのものは無償提供し、ソリューションビジネス収益を上げるビジネスモデルを採用するが、このソリューションビジネスに親会社であるIntelやIntel Security(McAfee)も含まれてくるのか、ということについては、「セキュリティは必須だ。バンドルして提供するパターンや、サーバ側に付加価値サービスとして提供するといったことも考えられる」とした。ちなみに、Rocketは32ビットMCUをサポートとうたっており、そのメインはARMとx86。それ以外にも組み込み向けの32ビットコアや16ビットコアも存在しているが、そうした他のプロセッサコアについては、カスタマのニーズ次第で対応を検討していくという答えであった。