東京工業大学(東工大)は11月10日、水素を高温高圧下においても周囲の物質との化学反応なく安定して保持する技術を開発し、高温高圧力下における流体水素のプラズマ相転移の観察に成功したと発表した。

同成果は、同大学大学院理工学研究科の太田健二 講師と大阪大学大学院基礎工学研究科附属極限科学センターの清水克哉 教授らの研究グループによるもので、11月9日付けの英科学誌「Scientific Reports」に掲載された。

水素は拡散性・反応性が非常に高い元素であるため、実験のために高温高圧発生装置の内部に安定して保持し続けることが困難であった。そこで同研究グループは、宝石用ダイヤモンドを用いた高温高圧発生装置「ダイヤモンドアンビルセル」の内部に、水素を高温高圧力下においても周囲の物質との化学反応なく安定に保持するための技術開発を行い、100万気圧を超える高圧力かつ1000K以上の高温条件での水素の実験を可能とした。

さらにこの技術を利用し、大型放射光施設「SPring-8」の高圧構造物性ビームライン「BL10XU」のレーザー加熱システムを使った約80~110万気圧、2650Kまでの条件での実験から、流体水素の相転移現象を明らかにした。また、BL10XUのX線マイクロビームを使用したX線回折像から高温高圧環境状態を確認。これに加え、水素試料と高圧装置との間に化学反応が起きていないことも確認した。

この実験によって観察された高温高密度水素流体のプラズマ相転移は、絶縁体-金属転移に対応している可能性が高く、木星や土星などの水素を主成分とするガス惑星の内部構造やガス惑星磁場の生成メカニズムの解明につながる成果であるという。また、水素の温度圧力相関係が明らかになることで、室温付近の高い超伝導転移温度が予想されている固体金属水素の合成のための指針となることが期待される。

(A)「ダイヤモンドアンビルセル」(B)対向する一組のダイヤの間に試料を挟み、高圧下でレーザーを試料に照射することにより、実験室内で地球内部の温度圧力を発生させることができる