3D CADソフトやPLM、SLMを手がける米PTC。6月15日~18日(現地時間)に米国・ボストンでカンファレンス「PTC Live Global」を開催した。キーノートには、同社 社長 兼 CEOのJim Heppelmannn氏が登壇、IoTを活用したものづくりの未来について展望を語った。

Heppelmann氏は、IoT(Internet of Things)時代、世界がネットに繋がる時代の「Smart Connected World」は、野球に例えると「試合はまだ2回に入ったばかりで始まったところだ」と語り出した。

世界の人口が70億人に達し、3人に1人がスマートデバイスを保有する時代になり、ネットに接続しているデバイスの数はすでに人口を超える数に増えている点を挙げた上で、Heppelmann氏は2020年に「500億台のデバイスが繋がる時代が来る」とデバイス数が更に加速して増加していくことを強調した。

この数字は1人あたり6台のデバイス数ということになるが、個人で全てのデバイスを所有するわけではない。IoT時代では、企業がセンシングなどで各種計測センサーを利用してビジネス機会の拡大を目指していく。米調査会社のIDCが行なった統計調査によると2010年の時点で全世界の企業が1.9兆ドル(約193兆円)のIoTに対する投資を行なっているという。

こうした状況下から、PTCは、2013年12月にIoTプラットフォーマーの米ThingWorxを買収。この買収について「多くの価値が生まれる」と強調し、「3Dプリンターに対して多くの期待が寄せられているが、IoTの経済効果はその10倍に達する。しかし、この世界はまだまだ知られていない。Internetだけではない、"モノ"という存在からイノベーションが生まれる」とHeppelmann氏は話した。

こうした考えを前提として、Heppelmann氏はハーバード大学の経営大学院教授を務めるマイケル・ポーター氏に「IoTの意味は何か」とたずねてみたという。ポーター氏は、多くの企業の戦略アドバイザーを務めており、バリューチェーンの専門家で、PTCとポーター教授は、製造業を取り巻く環境について共同研究を進めている。そのポーター氏は「IoTはそのバリューチェーンを大きく変える存在である」と指摘したという。

バリューチェーンの変化は、これまでエレキとメカ、ソフトの世界を支援してきたPTCにとっても重要な事案であり、「スマートに顧客の状況を把握できるようにすることが大きな価値になる」(Heppelmann氏)とした。

これまでネットワークに繋がっていなかった機器が当たり前のように繋がっていく世界では、遠隔操作が容易になり、場合によっては遠隔でのソフトウェア改修も行える。これは、工場におけるプロセスの改善だけでなく、「スマートシティ」のように、公共交通の「渋滞の改善」などにも役立てる可能性を秘めている。

こうした時代には、ものづくりにおける"モノ"も重要だが、やはりソフトウェアの存在も重要になってくる。

「ソフトウェアの価値が大きくなっており、ハードウェアのやり取りが製品の価値を決める。製品によっては1000万~5000万行のソースコードが存在し、もしかするとソフトウェアの会社であるPTCよりも顧客製品のソースコードの行数が多いかもしれない」(Heppelmann氏)

ソフトウェアという土台の上には、製品と製品を繋ぐネットワークの"接続性"も重要になる。

「皆さんもご存知のBOSEだが、かつてはCDというメディアを再生機に入れることで音楽を聴いていた。しかし今や同社の製品は単体でiTunesのプレイリストを再生できる時代だ。こうした点と点のやり取りが増えてくるとセキュリティ問題も生じてくることだろう。クラウド連携では、ほかにもソフトウェアアップデートもクラウド経由で提供できるが、ThingWorxはそういった価値を簡単に提供できるプラットフォームなんだ」(Heppelmann氏)

こうしたIoT時代には製品の在り方が変わっていくことをPTCはかねてから強調しているが、代表的な例として上げたのはオランダ・Philips 照明部門の事例だ。

ワシントンD.C.が管理する駐車場の照明を全て取り替える入札が行なわれた際、Philipsはユニークな提案を行なった。同社は全てをLED照明に変更する提案を行なったが、その際に照明そのものを販売するのではなく、「照明の明かり」というサービス価値をワシントンD.C.に提供したのだ。

全てを変更する場合、初期投資がかなりかさむが、LED照明にすることで消費電力は大きく下がる。そこでPhilipsは、消費電力が下がった分を自分たちのサービス手数料として得ることを選択したのだ。このようにサービス化を図る選択は「製品自体の構造も変える」(Heppelmann氏)といい、ソフトウェアの価値も変わってくる。

最適化だけではなく、自動化や監視機能も付けることで、これまで顧客からの問い合わせで訪問していた保守業務が「製品の状況や使用状況といった運用方法までも知ることができるようになる」と変化していく未来を指し示したHeppelmann氏。

「例えばセンシングによって、運用の最適化が図れる。エレベーターでいえば、全てのエレベーターを毎回決まった運用にする必要が無い。時間帯によって設定を変えて、長い距離と短い距離を分けて動かすように設定することで燃費の最適化を図れる。こうした取り組みは、製品を新しい領域に持って行けることになるだろう」(Heppelmann氏)

最後にHeppelmann氏は、NASAの人工衛星を引き合いに出し、IoT時代の今後を語った。

「かつての月の人工衛星は、地球から見て裏側に回ると何が起きているか確認できなかった。これまでの製品も同じで、製品が顧客の手に渡ると、2年後、10年後に製品使用状況が分からなかった。つまり、売られるまでよりも、使われている時間の方が長いのにも関わらず、その状況が見えてこなかったわけだ。しかし、IoTの活用は、エンジニアリングツールとして、PLMに組み込んでいけば、より良い製品開発に繋げられる。接続性がもたらす、このような連携、包括的なソリューションはPTC以外提供していない。今、ものづくりは最もエキサイティングな時期に差し掛かっている。皆さんの製品がなければIoT時代は来ない。IoT時代が到来することを、お手伝いできることを楽しみにしている。」

米Thermo Fisher社は、火災現場などで化学物質を検出する製品を手がけている。これまでは、オペレーターなどに連絡という形でやりとりしていた情報を、データとして転送できるようになったことで、有害かどうかすぐに判断できるようになったという。これまでの数十分という世界が数秒で判別できるようになったことは"コネクティビティ"、接続性によって実現できたとした

米TRANE社は空調メーカーで、すでにIoTを活用している。これまでは空調設備を販売するだけだったが、「空調によるビルの温度などの快適な環境」を販売するサービスモデルに転換し、すでに製品とサービスの販売比率が50:50になっている。空調設備は、各種センサーを取り付けることで現在の設備、空調の状況を把握しており、何かアラートがあればユーザーからの問い合わせなどが必要なく、現場に従業員が駆けつける。登壇者によると、「全ての製品がサービスに置き換わるとは思わないが、新たな柱として提供していく企業が増えることになるだろう」とIoTによるサービスの変革を語っていた