北海道大学(北大)とSouthampton大学、理化学研究所(理研)、関西学院大学、京都大学、高輝度光科学研究センター(JASRI)は5月15日、X線自由電子レーザ(XFEL)施設「SACLA」を用いて、ナノワイヤ中の超高速構造変化を原子レベルで観察することに成功したと発表した。

同成果は、北大 電子科学研究所のMarcus C. Newton助教(現英国Southampton大学 講師)、西野吉則教授、理研 放射光科学総合研究センターの田中義人ユニットリーダー(現兵庫県立大学 教授、理研 客員研究員)らによるもの。詳細は、科学雑誌「Nano Letters」に掲載された。

二酸化バナジウムは、温度や光などの外部刺激によって、電気的特性や原子の配置が変化する相転移を起こす。この性質を利用し、スイッチング(電気回路のON/OFF)素子やアクチュエータ(駆動素子)への応用が期待されている。しかし、光刺激による二酸化バナジウムの相転移は、超高速で起こるため、実験的にも理論的にも解析する手法が限られており、その機構はいまだに明らかにはなっていない。そこで、研究グループは、10フェムト秒程度という極めて短い発光時間と、原子レベルの変化を捉えることが可能なコヒーレントなX線であるというXFELの2つの特徴を利用して、二酸化バナジウムナノワイヤ中の、過渡的かつ原子レベルの超高速構造変化を観察することに成功した。なお、観察には、ポンププローブ法とコヒーレントX線回折を組み合わせた、先端的手法が用いられた。

今回の研究により、XFELが原子レベルの超高速構造変化を観察できる優れた能力を持つことが示された。これにより、物質中の原子・分子を超高速動画撮影する画期的な技術へ道が開かれ、強相関電子材料が示す高温超伝導などの多彩な相転移現象の解明に寄与することが期待できるとコメントしている。

ポンププローブ法とコヒーレントX線回折を組み合わせた実験の模式図