国立循環器病研究センター(国循)は、糖尿病患者の心不全発症頻度を調査の調査から、糖尿病管理が心不全にも影響することを明らかにしたと発表した。

成果は、国循の岸本一郎糖尿病・代謝内科医長、同・小川久雄副院長らの研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、4月18日付けで英文専門誌「Diabetes Research and Clinical Practice」オンライン版に掲載された。

近年日本の糖尿病人口は年々増加傾向にあり、最近の調査では950万人と推定されている。糖尿病は、心筋梗塞や脳卒中、人工透析などのハイリスクグループであると共に、心不全の頻度も極めて高くなるため、その診療においてこれらの合併症をいかに予防してゆくかが重要だという。しかし、糖尿病管理状態と心不全発症の関係は明らかでなく、心不全予防の観点からどの程度の糖尿病管理が必要かはっきりしていないことから、研究チームにより、糖尿病患者における血糖管理状況と心不全発症の関係についての研究が実施された。

2000年1月から2007年12月までに糖尿病・代謝内科に紹介された608名の2型糖尿病患者を追跡調査し、入院が必要な心不全が発症した頻度を調査した結果、観察期間(平均5.2年間)に15%の患者が心不全で入院。事前の糖尿病管理が不良であるほど心不全入院が多い結果だったこと(画像1)、もともと心臓病がある場合は特に糖尿病管理不良の影響が大きい傾向があったことが判明した(画像2)。糖尿病管理指標であるHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)の値が8%を超えて悪くなると、心不全入院も増えていたため(画像3)、心不全予防においてもHbA1cが少なくとも8%を超えないように糖尿病を管理する必要性が示されたのである。

画像1(左):HbA1cが8.4%以上の糖尿病管理が極めて不良の群ではそれ以下の群に比較して心不全入院が多かった。画像2(中):今までに心臓病のある患者(軽症と中等度以上)とない患者の3群に分けて解析が行われた結果、今までに心臓病のある患者で特に血糖管理の影響が大きいことが判明。画像3(右):心筋梗塞の既往のある方とない患者で、より詳細にHbA1c値を分けての解析が行われたところ、心筋梗塞の既往がある患者では、HbA1cが8%以上と6.9%以下で心不全の危険性が高まる傾向にあった。他方、もともと心筋梗塞の既往のない患者では、HbA1cが低い方が心不全が少ない傾向を認められたとしている

今回の検討では、血糖管理不良群では心不全の入院も多く、特に心筋梗塞など心臓病の既往のある患者で糖尿病管理の影響が大きいことが示された。厚生労働省の定める「二十一世紀における第二次国民健康づくり運動(健康日本21(第二次))」では、2013(平成25)年度から2022(平成34)年度までの10年間の具体的な目標として「血糖コントロール指標におけるコントロール不良者の割合の減少(HbA1cが8.4%以上の者の割合の減少)」が挙げられているが、心臓病患者においてこの目標を達成することで心不全の発症も予防できる可能性が今回の研究で明らかになった形だ。

また日本糖尿病学会は、合併症予防のための血糖管理目標値をHbA1c7%未満とする一方で、治療強化が困難な際の目標値を8%未満としている(平成25年熊本宣言・糖尿病治療ガイド2012-2013)。今回、心臓病の持病がある糖尿病患者では、7-7.9%の群が最も心不全入院が少ない結果だった。このことは、心臓病のある方でも少なくとも8%未満に血糖管理が必要であることを示している。また、これらの心臓病合併糖尿病患者に対して7%未満を目指した糖尿病治療を行う場合は、心不全を悪化させない指導法や治療法を慎重に選択することが重要であると考えられるとした。