国立天文台は1月7日、チリのアルマ(ALMA)望遠鏡(アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計:Atacama Large Millimeter/submillimeter Array)が、超新星1987Aが超新星爆発を起こした際に作った大量のフレッシュな固体微粒子(ダスト)を発見したと発表した。

成果は、米国立電波天文台/バージニア大学の天文学者レミー・インデベトー氏、英国ユニバーシティー・カレッジ・ロンドンの松浦美香子氏らの国際研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、「The Astrophysical Journal Letters」に掲載される予定。

数1000億の恒星が集まる銀河には、地球でも豊富なシリケイト(ケイ酸塩)やグラファイトなどでできた大量の固体微粒子が含まれている。星の一生の最後の爆発である超新星爆発が、こうした固体微粒子を生み出すと考えられているという。しかし、これまで超新星爆発の残骸(超新星残骸)で固体微粒子が直接検出された例はなく、多くの銀河に含まれる固体微粒子の起源については謎のままになっていた。

国際研究チームは、アルマ望遠鏡を使って、地球から16万光年離れたところにある矮小銀河「大マゼラン雲」の中に出現した超新星「1987A」(画像1・2)の残骸を観測した。超新星1987Aは、この爆発で生じたニュートリノを観測したことで、東京大学の小柴昌俊博士が2002年にノーベル物理学賞を受賞したことで有名である。我々の天の川銀河において地球から観測された超新星は、ヨハネス・ケプラーが1604年に観測した通称「ケプラーの超新星(超新星1604)」が最も新しく、1987Aはそれ以降では最も地球の近くで発生した超新星爆発だ。

画像1(左):超新星1987Aの想像図。(c) ALMA(ESO/NAOJ/NRAO)/Alexandra Angelich(NRAO/AUI/NSF) 画像2(右):超新星1987Aのアルマ望遠鏡による電波観測結果(赤)、ハッブル宇宙望遠鏡による可視光観測結果(緑)、チャンドラX線望遠鏡による観測結果(青)を合成した画像。アルマ望遠鏡の観測結果から、電波を強く放つ固体微粒子が中心部に密集していることがわかる。(c) ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)/A. Angelich. Visible light image: the NASA/ESA Hubble Space Telescope. X-Ray image: The NASA Chandra X-Ray Observatory

理論研究によれば、超新星爆発のあとでガスが冷えていくと、超新星残骸の中心部で酸素や炭素、窒素の原子が結合し、固体微粒子が作られると考えられるという。しかし、超新星1987Aの爆発から500日後に行われた赤外線観測では、ごく微量の固体微粒子しか発見されていなかった。

ただし2011年に発表された、欧州のハーシェル宇宙望遠鏡を用いた観測では、太陽質量の0.4~0.7倍の質量を持つ固体微粒子の集合体が発見されている。もっとも残念なことに、ハーシェル宇宙望遠鏡の解像度は7~35秒角とあまりよくないため、固体微粒子が超新星1987Aの周囲に元々あったものなのか、その場で作られたものなのかを区別することができなかったというわけだ。アルマ望遠鏡はその10倍以上の最大0.5秒角という解像度を持つため、その答えを出せたのである。

アルマ望遠鏡の高い感度を活用して今回観測したところ、ミリ波・サブミリ波を強く発する冷たい固体微粒子が大量に発見された。また高い解像度(視力)を持つアルマ望遠鏡により、その固体微粒子が超新星爆発が起きた場所の中心近くに密集していることも判明したのである。研究チームの見積もりによれば、今回見つかった固体微粒子の質量は太陽質量の25%にも達するという。さらに、一酸化炭素分子や一酸化ケイ素分子も合わせて大量に発見された。固体微粒子が作られているところを直接観測できたのは今回が初めてのことで、これは銀河の進化を考える上でも重要な発見だとする。

画像1の想像図における中央の赤い部分が、今回アルマ望遠鏡で観測された固体微粒子の集まりを表したものだ。その周囲には、衝撃波と衝突してリング状に輝く星間物質が描かれている。

今回の発表論文の筆頭著者であるインデベトー氏によれば、「超新星1987Aは、固体微粒子の観測をする上で最適なターゲットです。それは、爆発からまだあまり時間が経っていないため、超新星の周囲に元々存在していた固体微粒子とまだ混じりあっていないと考えられるからです。今回検出された固体微粒子は、その場で作られたものだといえます。今回のアルマ望遠鏡の観測により、作られて20年ほどしか経っていない"できたて"の大量の微粒子を初めて検出することができたのです」という。

しかし、超新星爆発は固体微粒子を作り出すだけでなく、壊す場合もある。超新星爆発の際に生じる衝撃波が宇宙空間に広がっていくと、衝撃波で周囲の物質が吹き寄せられ、輝く輪を作り出す。このような輪は、ハッブル宇宙望遠鏡でも観測されている。爆発の衝撃の一部はこうした周囲の物質に当たって跳ね返り、超新星爆発の中心部に戻ってくるのだ。

ある程度時間が経過すると、跳ね返ってきた衝撃波が固体微粒子の集合体の中に飛び込んでいき、超新星爆発によって作られた固体微粒子の一部は、この衝撃波で壊されてしまう可能性があるという。それが半分なのか3分の2なのか、あるいはもっとずっと少ないのか、その割合はまだ判明していない。もし大部分の固体微粒子が生き残って宇宙空間に広がっていくのであれば、今回の観測結果は、多くの銀河で観測される大量の固体微粒子の起源が超新星爆発であることを示していることになるとする。

研究チームの一員である松浦氏によれば、「宇宙初期にある銀河には驚くほど大量の固体微粒子が含まれていて、銀河の進化に非常に大きな影響を与えます。固体微粒子の供給源はいくつか考えられていますが、特に初期宇宙ではほとんどが超新星爆発によって作られているはずです。アルマ望遠鏡による観測で、その直接の証拠を得ることができました」と語っている。

また前述のインデベトー氏も、「固体微粒子が作られているところを直接観測したのは今回が初めてのことです。これは銀河の進化を考える上でも重要な発見です」としている。