理化学研究所(理研)は6月11日、東京大学、独・クリスチャン・アルブレヒト・キール大学、独・シュレスヴイッヒ・ホルシュタイン大学病院、独・マックス・デルブリュック分子医学センターとの共同研究により、アトピー性皮膚炎の発症に関連する4つのゲノム領域を新たに発見したと発表した。

成果は、理研 統合生命医科学研究センターの久保充明副センター長、同・呼吸器・アレルギー疾患研究チームの玉利真由美チームリーダー、同・広田朝光研究員、東大医科学研究所 ヒトゲノム解析センター ゲノムシークエンス解析分野の中村祐輔教授らの研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、6月2日付けで英科学誌「Nature Genetics」オンライン版に掲載され、また印刷版にも掲載される予定だ。

未だに発症や進行の仕組みがよくわかっていないアトピー性皮膚炎だが、関連遺伝子の研究は進んでおり、過去に行われた4つの国際的で大規模な「ゲノムワイド関連解析(GWAS)」(「遺伝子多型」を用いて疾患と関連する遺伝子を見つける手法)により、すでに15カ所の疾患関連領域が同定された。

さらに近年では、免疫関連遺伝子に分布する「一塩基多型(SNP)」(遺伝子多型の中で最も多いのが一塩基の違いのこと)を頻度の低い多型も含めて数多く解析できる高密度アレイを用いる「イムノチップ解析」が開発され、同手法は免疫関連遺伝子領域を中心にGWASでは解析されていない遺伝子多型も解析できることから、さまざまな疾患で新たに疾患関連領域が同定されてきている。

研究チームはまず、欧州人のアトピー性皮膚炎の遺伝要因を明らかにするため、イムノチップ解析法を用いて計12万8830個のSNPについて、アトピー性皮膚炎の発症と関連するものの探索を行った。さらに、独立に収集された4つの欧州人集団で結果の検証研究を行い、欧州で患者4376人と非患者1万48人について解析結果の統合を行い、すでにGWASで関連が報告されている5つのゲノム領域に加え、新たに「4q27」、「11p13」、「16p13.13」、「17q21.32」という4つのゲノム領域を発見したのである(画像1)。

次に、新発見の4つの関連ゲノム領域に対し、日本人集団(患者2397人、非患者7937人)と中国人集団(患者2848人、非患者2944人)について追認解析を行い、結果の再現性の確認が行われた。その結果、新たな4つの関連ゲノム領域の内、日本人では3つのゲノム領域(11p13、16p13.13、17q21.32)、中国人では2つのゲノム領域(16p13.13、17q21.32)が、それぞれ関連することを確認されたのである(日本人DNA試料は、共同研究機関および文部科学省委託事業「オーダーメイド医療実現化プロジェクト」から配布を受けたものだという)。

画像1。4q27、11p13、16p13.13、17q21.32の4つの紅い囲みが、今回新たに発見されたアトピー性皮膚炎関連のゲノム領域。星印のある3つ(11p13、16p13.13、17q21.32)は、日本人のアトピー性皮膚炎にも関連

新たに発見された4つの領域の詳細は、以下の通りである。

4q27:この特徴は、「サイトカイン」(細胞間でやり取りされる多様な生理活性を持つタンパク質の1種)の1種のインターロイキン(IL)-2、IL-21遺伝子を含んでいる点だ。IL-2は、さまざまな免疫細胞の活性化や調節性T細胞の維持に重要と考えられており、現在アトピー性皮膚炎の治療に使用されている「タクロリムス」や「シクロスポリン」といった薬剤は、T細胞におけるIL-2産生を抑制する仕組みを持つ。一方のIL-21は、マウスの実験から抗体「IgE」の産生や気道アレルギー炎症に関与することが報告されている。

11p13:この領域およびその近くの領域には、「PRR5L」、「TRAF6」、「RAG1」、「RAG2」遺伝子が含まれている点が特徴だ。TRAF6は、自然免疫と獲得免疫を制御するタンパク質であり、RAG1、RAG2は抗体遺伝子の再構成に重要な働きをする。

16p13.13:この領域やその近くの領域は、「CLEC16A」、「DEXI」、「SOCS1」遺伝子を含む。CLEC16Aは、免疫細胞の「B細胞」や「ナチュラルキラー(NK)細胞」、「樹状細胞」などに発現しており、免疫細胞の活性化に関与すると考えられるという。また、SOCS1は、免疫反応に必要な情報伝達物質であるサイトカインの負の制御因子として重要な働きをする。

17q21.32:この領域やその近くの領域は、「ZNF652」、「NGFR」遺伝子を含む。NGFRは、知覚神経の表皮への伸長を促進する神経成長因子(NGF)の受容体であり、動物モデルではかゆみとNGFとの関連がすでに報告されている。

今回、アトピー性皮膚炎の発症に重要な役割を果たすヒトの4つのゲノム領域が明らかとなったことを受け研究チームは、これらの領域とその近くの領域には、感染や炎症で働く免疫に関連する遺伝子が多数含まれており、病態におけるそれらの遺伝子の重要性が示唆されたとするほか、アトピー性皮膚炎の特徴的な症状である「かゆみ」に関連するNGFRの領域の近くに遺伝要因が存在することも明らかとなったとしており、今後、これらの領域に含まれる遺伝子多型について機能を詳細に調べることで、アトピー性皮膚炎の病態解明が進むことが期待できるとしている。