岡山大学は5月30日、同大付属病院にて2012年9月1日、国内で初めてとなる脳死体からの臓器提供による肝腎同時移植を試みて成功し、患者は半年を経過して肝不全・腎不全から回復し、元気に日常生活を送っていることを発表した。

成果は、岡山大病院 肝・胆・膵外科の八木孝仁教授率いる肝移植チームらの研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、4月29日付けで「Hepatology reserch」電子版に掲載された。

2010年の脳死臓器移植法改正の後、脳死体からの臓器提供が進む中で、多臓器提供が可能となった。同一レシピエントへの複数臓器の同時移植は1例の心肺同時移植をのぞいては従来膵腎同時移植がほとんどであり、肝腎同時移植も2回(生体1例、脳死1例)試みられているが、いずれも早期に死亡していた。本症例の成功は、わが国の多臓器移植への道を開く先駆けとなるものと期待されている。

心臓、肺、肝臓などの長期代替治療のない、いわゆる「必須臓器」の移植で、これら必須臓器以外の臓器不全を合併した場合、多臓器移植が必要となる。日本の肝移植については脳死臓器移植法改正までは生体肝移植が主流であったため、ドナーの身体的、精神的負担を考えると、同一生体ドナーからの多臓器摘出は現実的ではなかった。

今回のレシピエントは弘前大学病院で12年前に生体肝移植を受けた患者で、肝不全・腎不全に陥り血漿交換と透析を繰り返す極めて重篤な状態となり当院の登録患者となった。紹介先施設での46日間の懸命な救命医療の後、8月31日肝臓と腎臓の同時提供を受け、9月1日に当院での肝腎同時移植の実施となっている。

弘前大学、防衛省との密接な連携とコーディネーションは、瀕死のレシピエントを900km安全に空路で移送することを可能にし、また院内にあっては肝・胆・膵外科はもとより麻酔科、消化器内科、泌尿器科などの優れた連携能力と医療技術の高さが16時間半におよぶ移植手術を成就させ、患者を救命する原動力となったとしている。

肝腎同時移植は、「先天性肝腎嚢胞」や「原発性シュウ酸血症」など特殊な病気の治療としてとらえられがちだ。確かに頻度的に少ないこれらの肝臓と腎臓が同時に冒されてしまう病気の治療法としても有力だが、頻度的に多いのはさまざまな原因で発生する肝不全によって結果的にもたらされる腎障害だ。

肝不全に伴う腎障害は肝腎症候群と呼ばれ、移植手術の生存率を低下させる大きな要因の1つである。腎不全が完成しても短期であれば回復するのだが、本格的に維持透析に入ると回復は見込めない。このような患者には肝腎同時移植が必要なのだが、脳死移植法改正までは困難な治療法だった。

もちろん肝腎同時移植の手術侵襲(手術によって体に与えられるダメージ)は肝移植単独、腎移植単独に比較して明らかに大きいのだが、肝移植後の腎移植あるいは腎移植後の肝移植に比較して、レシピエントの生存率、移植した肝臓の働きの両方共が良好であることが示されている。肝臓を含む多臓器移植においては、肝臓そのものが免疫抑制的に働き、肝臓以外の臓器の拒絶を抑える働きがあることがわかっており、肝腎同時移植はレシピエントにとって免疫学的にはむしろ有利に働くという。

また今後の課題としては、脳死提供の増加に伴い肝腎同時移植の頻度も増えていくことが予想されるが、適応患者が今回のような維持透析の患者ばかりとは限らないことも考えられる。透析直前の慢性腎障害患者で肝移植をすれば、まず間違いなく透析導入となると予想されるレシピエントもいるという。

今回の報告は、慢性腎不全で脳死腎移植を待っている患者の移植機会を減らすことのないように、肝移植単独でいくべきかそれとも肝腎同時移植を選択すべきかその判断基準を確立しておく必要性を認識する上でも契機となるとしている。