北海道大学およびアキュセラ、国立がん研究センター東病院、京都大学、日立製作所の共同研究グループは6月26日、従来品より小型かつ高精度なX線治療システムの試作システムを開発したことを発表した。

日本の死因第1位である"がん"は、より早い段階で診断を行い、精度の高い治療を行うことで死亡率を低減させられると考えられている。現在、がんの治療法は、開腹手術などの外科的な治療が中心だが、QOLの向上や早期の社会復帰のためには、身体的な苦痛を伴わず、入院期間が短い治療技術の確立が必要不可欠となっていた。

がんは、その大きさが直径1cm以下であれば、放射線治療により90%以上が有効に治療できると言われている。従来、がん病巣に放射線を照射するためには、呼吸などで体が動くため、がん病巣が動く範囲すべてにX線を照射する必要があり、周辺正常領域に影響のない治療が困難であった。今回の研究は、そうした問題の解決を図ることを目的に、がんの位置の正確な把握とピンポイントのX線照射を可能とする技術の開発を行ったもの。

治療システムの心臓部となる小型加速器は、X線を発生させる加速器の加速効率を上げ、マグネトロンを高出力化することで、従来のガントリ型X線治療装置に用いられている加速器の約2倍のX線強度と細いビームを実現しつつ、従来の約半分となる全長約60cmへと小型化を実現したものとなっている。X線の高強度化により、X線ビームの照射野を従来品の約60%となる直径3mm程度にまで絞り込むことが可能となったほか、装置の小型化により、これまで難しかった立体角360°に近い方向からのX線の照射も可能となった。

国立国際医療研究センターの治療室に設置された高精度X線治療システム(ロボット型治療装置、ロボット治療台、動体追跡装置)

また同システムには北海道大学が開発した、動体追跡装置も搭載されており、身体の中で複雑に動く臓器の微小ながんもリアルタイムに高精度で追跡することが可能となっている。そのため、小型加速器と組み合わせることで、X線量を極度に集中化し、あらゆる方向からピンポイントで照射することが可能となることから、正常な臓器部分に影響を及ぼすことなくがんを治療することが可能となる。

X線ナロービームの照射イメージ(立体角360°に近い方向からの照射が可能になった。患者の周囲の赤い点は照射可能な位置)

照射するX線の幅と強さ(従来よりも幅の細いビームで、放射線をガンに集中照射が可能になった)

さらに、一回の照射で大量のX線をがんに集中照射することが出来るようになるため、従来の治療に比べて患者への負荷も減らせるようになり、早期の社会復帰も可能になるという。

このほか、コストについても従来のガントリ型X線治療装置比で約1/2へと低減することが見込めるとのことで、より多くの医療機関での活用が期待できるという。

なお、同システムは2013年度までに統合を終える予定で、その後、動作確認評価を実施し、薬事申請に向けた準備を進めていく予定としている。