日立ハイテクノロジーズのの伊東祐博 先端解析システム設計部長、ナナオの伊藤広 映像商品開発部開発マネージャー、新潟大学 大学院医歯学研究科の牛木辰男 教授、静岡大学 工学部の岩田太 教授らの研究チームは、リアルタイムで3D観察が可能な走査電子顕微鏡(SEM)と、裸眼に対応した高解像度の3Dモニタを開発したと発表した。

SEMは、数~数十nmの分解能で試料の表面形状を観察できることから、さまざまな分野において立体構造を解析する装置として活用されている。観察対象の表面の凹凸が詳しく分かれば、その立体構造を知るための重要な情報になるが、一般のSEMで得られる画像(SEM画像)は、一方向から観察した画像であるため、片眼で見たとき(単眼視)のように平面的な画像になってしまい、立体的なSEM画像を得るためには、観察物を搭載した試料ステージを傾斜して左右の視差画像を取得して合成し、赤青メガネなどを用いて観察する必要があり、リアルタイムでの3D観察はできなかった。

今回、研究チームでは、リアルタイムに3D観察が可能なSEM「リアルタイムステレオSEM」と、裸眼に対応した高解像度の3Dモニタの開発を行った。

図1 リアルタイムステレオ表示と裸眼対応高解像度3Dモニタの組合せ外観。表示されているのは、マウスの腎臓糸球体(大きさは約70μm)の画像。左は通常のモニタ。左・右それぞれの傾斜画像と通常SEM画像、アナグリフ画像(赤青メガネで立体的に見える)の4画面が同時表示されている。一方の右は裸眼対応高解像度3Dモニタ。裸眼対応の立体画像が表示されている

リアルタイムステレオSEMは、電磁レンズの収束作用により電子線を傾斜させるが、電磁レンズの収束作用による電子線傾斜では、電子線傾斜に伴って発生する収差により、分解能が低下する課題があることから、今回は分解能の低下を抑えるため、専用の電子光学系と電子線の走査制御技術を開発し、それらの技術の一部を活用して対応を図った。

また、電子線の傾斜方向の制御は、専用の電磁コイルを用いて1ライン単位、または1フレーム単位で左傾斜走査、標準走査、右傾斜走査のように切り替えながら試料上を走査することが可能で、これにより、走査速度は33ms/フレームの高速スキャンに対応し、リアルタイムの3D観察が可能となった。特に左右の視差画像は、レンズの収束作用を利用しているため、通常のSEM画像とフォーカスや非点収差が異なるが、1ライン/1フレーム単位でのフォーカスや非点収差の調整に対応した。

取得した左右の視差画像は、今回開発された専用ソフトによりデータ処理することで、裸眼対応高解像度3Dモニタに対応したデュアルインプット方式の他、一般的な3Dモニタに対応したサイドバイサイド方式、アナグリフ方式の出力が可能となっている。

また、3D観察専用のグラフィカル・ユーザー・インタフェース(GUI)も開発。

図2 画面表示例とステレオ観察用GUI

これにより、左右の視差画像と通常SEM画像、および左右の視差画像を合成したアナグリフ画像の4画面同時表示を可能とした。これらの画像を同時表示することで、通常のSEM画像と比較しながら左右の視差画像の焦点や非点収差の調整が可能となった。

図3 金属断面のアナグリフ画像。白黒画像では凹凸部分の見分けが難しいが、赤青メガネを着用して見ると立体的に見える

一方の裸眼対応高解像度3Dモニタ「DuraVision FDF2301-3D」は、Directional Backlight(指向性光源)方式により高精細表示を可能としている。卓上型の裸眼3D液晶モニタでは、23.0型でフルHD(1920×1080)の高精細表示が可能な製品として、2011年度にナナオより販売されている。

図4 裸眼対応高解像度3Dモニタ「DuraVision FDF2301-3D」の外観

一般的な裸眼対応3Dモニタの表示方式は、液晶パネルの画素を左右の視差画像に割り振るため、水平方向の解像度が半分になるが、Directional Backlight方式は、左右の視差画像を同じ画素から時間差で表示することで、3D画像を映し出すため、左右の視差画像ごとに液晶パネルの画素を割り振る必要がないため、液晶パネルの持つフルHDの高解像度をそのまま生かした、奥行き分解能に優れるリアルな3D画像を観察することができるようになる。また、観察者の左右それぞれの目に届く視差画像の方向を、LEDを採用した液晶モニタの光源で決定しているため、他の裸眼3D方式で問題となる、バリアやレンズによるモワレや縞目の発生もないほか、原理上、左右の視差画像が入れ替わって見える「逆視」となる視位置がなく、画面周辺部まで高精細な3D画像を安定して観察することが可能だ。

今回の成果により、マニピュレータを用いたSEM視野内での微小解剖(医学生物分野)や電気特性の取得(無機材料分野)などへの応用が期待できるようになり、今後のSEMの新たな発展につながる可能性が示されたこととなった。なお、今回開発された電子線傾斜技術の一部は、日立ハイテクノロジーズ製SEMのオプション機能として、2012年度中の製品発売が予定されている。